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星眼の魔女  作者: しろ
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第九十一章 共鳴、その先へ

午後。披露式典のあとのレセプション会場は、SoundGardenの中庭に設けられていた。

ガラス張りのホールから見える湾岸の景色が、ゆるやかな夕暮れに溶けていく。


小さなオーケストラの生演奏が流れ、テーブルには軽食と飲み物が並ぶ。

各国のゲストたちが入り混じるなか、あやのは白いドレス姿でグラスを手にしていた。


「乾杯しようじゃないの」と声をかけてきたのは、司郎だった。


「…おつかれさま、司郎さん。足は大丈夫?」

「このくらい屁でもないわ。いい現場だった、ほんとに」

司郎は、あやのの肩をぽんと軽く叩いてから、真顔で言った。

「アンタは、ほんとうに“建てた”わね。音を、空間に」


隣からそっと笑ったのは、ヘイリーだった。

「Ayano, you really made Tokyo sing.」

あやのはちょっと頬を赤らめた。


梶原が近くから聞こえる声でぼそりと笑った。

「…やるな。まさか音が通る通路を、ほんとに歩いて気持ちいいって思うとはな。俺が言うのもなんだけど」


「梶くんの現場力がなかったら、ここは立ってないよ」

あやのが微笑むと、梶原は少しだけ耳を赤くした。


そこへ、吉田透がスッと現れた。銀縁眼鏡の奥の瞳に、珍しく柔らかな光がある。


「記念に一言くらい、言ってやろうかと思ってね」

「え?」

「妬けるくらい、美しかった。音も、建築も。才能は怖い」

そう言って、手にしていた赤ワインをくいと傾けた。

「あんたたちと組むのは、正直まだ慣れないが……悪くない」

司郎が「はっ」と鼻を鳴らした。


「あら、やっと人間になったわね、吉田」

「お前にだけは言われたくないよ」


すると、少し離れた場所から甲斐大和の姿が見えた。

遠巻きに見つめているだけだったが、目が合うとあやのに軽く手を振った。

まるで兄が妹の活躍を静かに誇るような視線だった。


澤井教授が最後に、あやのの肩に手を置いた。


「君の“音”は、建築を変えるかもしれない。忘れないでくれ。音は記憶を呼び、記憶は未来をつくる」

あやのは目を見張り、真剣に頷いた。


空が群青に変わり、会場に灯りがともる。

そのとき、SoundGardenの音の回廊がふとまた音を立てた。


子供たちが通り抜けるたびに生まれる音に、皆が耳を傾ける。


それは、未来への序奏のようだった。

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