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星眼の魔女  作者: しろ
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第九十章 響きの庭、いま開かれる ―SoundGarden披露式典

東京湾岸の再開発エリア。

朝の海風が穏やかに吹くなか、SoundGardenと名づけられた新たな公共空間は、青い空を背景に完成の姿を現していた。


ガラスと木材、そして水面を映す金属のラインが織りなす建築は、まるで音楽そのものがかたちを得たようだった。

施設中央にある「音の回廊」では、仕込まれた音響装置が歩く人々の足音に反応し、風鈴のように澄んだ音を立てる。


式典は午前十時、記者や自治体の関係者、建築業界、音楽関係者まで、多くの来賓を迎えて始まった。

司郎は黒のスーツに身を包み、あやのとともに来賓席に立つ。ヘイリーは白いドレスで隣に立ち、微笑みを浮かべた。


澤井教授が壇上に立ち、式典の冒頭を飾る。


「このSoundGarden計画は、音と建築の新たな融合を世界に示す試みであり、その理念を見事に体現したものです。音楽が聴こえる建築。歩くたびに変化し、感じるたびに豊かになる空間。これは都市に生きる私たちに、新たな感性の水脈を与えてくれるでしょう」


拍手が会場を包む。


そのあと、司郎が短くマイクを取る。


「……作ることしかできない不器用な我々に、感じてくれる誰かがいたからこそ、ここまで来られました。これはあやのの音楽が導いた場所でもあります」


あやのは少し照れながら、会釈した。


そして――

披露演奏の時間が来る。


風の流れる中、中央のストリートピアノに腰掛けたのは、あやのだった。

ピアノに手を置き、あやのはハミングから始める。彼女の声が波のように音の回廊を抜け、周囲の壁面スピーカーがその音を優しく増幅する。


ヘイリーがそこにフルートを添えた。ラテンの息遣いと、日本の風景に生きる音が混ざり合い、ひとつの旋律が広がっていく。


風が鳴る。木がささやく。床下の音響板が、足音を拾って音を返す。


音楽と建築が、本当にひとつになった瞬間だった。


吉田透が一歩、演奏の合間にあやのたちを見て小さく笑い、手を叩く。

「……本物だな。都市に、音が宿った」


そう呟いたその声もまた、設計された音の仕掛けに拾われ、空間に優しく反響した。


来賓たちが立ち上がり、拍手が鳴り響く。

式典は成功のうちに終わり、プロジェクトは世界へ向けて、堂々とその第一歩を刻んだ。

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