第八十九章 「澤井教授、湾岸SoundGarden計画を視察する」
東京湾岸の新たなSoundGarden計画の現場。
潮風が微かに運ばれ、周囲には近代的な倉庫や再開発ビルが立ち並んでいる。
澤井教授はいつもの銀縁眼鏡をかけ、落ち着いた足取りで現場へ入った。
「あやのさん、司郎くん、梶原さん、ご苦労様です」
司郎は資料を持ちながら挨拶した。
「教授、お忙しい中ありがとうございます。こちらが最新の設計模型と音響シミュレーションデータです」
あやのがパソコンの画面を見せる。
「ここに音の動線を組み込み、訪れた人が空間を歩きながら自然に音の変化を体験できる設計にしました」
澤井教授は模型を細かく観察し、静かに感想を口にした。
「古い建物の構造に依存せず、新築のように緻密な設計がされている。特に音響の面で、伝統的な音響理論と最新のデジタル技術を巧みに融合させているね」
教授はやや眉をひそめて続ける。
「だが、湾岸特有の潮風と湿度の問題はどう対処しているのか?」
梶原が現場監督として説明する。
「防錆塗装や密閉型のスピーカー設備の採用、材料も耐候性の高いものを選定しました。安全面も万全です」
教授は納得したように頷く。
「なるほど。音の動線を巡る体験設計は人の心理にも良い影響を与える。これが新たな都市の魅力となるだろう」
あやのは澤井教授の言葉に励まされ、
「このプロジェクトを成功させて、東京の新しい音の文化を築きたいです」
司郎も静かに微笑みながら、
「我々のチームの次なる挑戦が始まったわね」
澤井教授はその背中を見送りながら、未来への期待を込めた視線を湾岸の街並みに向けた。




