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第七十四章 ハミングが紡ぐ響き
夜、出る事務所の一室。あやのは窓の外の街灯をぼんやり見つめていた。
「ニューヨークで初めて自然に口ずさんだハミングが、こんなに大切になるなんて…」と呟く。
司郎が机の向こうで設計図に目を落としながら言った。
「あんたのその感覚が、建築に音楽を宿らせる鍵なのよ」
ヘイリーも隣で、タブレットに音響データを映し出しながら付け加えた。
「そのハミングは、単なる音じゃない。人の感情と空間を繋ぐ“音の橋”だと思うわ」
あやのは目を閉じて、静かにハミングを始めた。ふわりと部屋に柔らかな音が広がる。
梶原が笑みを浮かべて言う。
「現場でもそんなふうに、音と人が自然に交わる空間を創ってくれ」
あやのは頷き、皆の期待を胸に刻んだ。
「さあ、明日は現場で音響の細部を詰めましょう。私たちの音楽×建築がいよいよ形になる」
チームの絆がまた一段と深まった夜だった。




