表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星眼の魔女  作者: しろ
68/508

第六十六章 設計者たちの静かな火花

「この梁の曲線……どういう意図だ?」


資料をめくる吉田の眼鏡が、淡く反射する。

透けるように白い指先が、模型の一点を示した。


その場にいた全員の視線が、司郎の手による原案図に注がれる。

光と影を操るかのような、動的な構成美。まるで音楽のような建築。


「空間の響きよ。音が螺旋で抜けていくの。数学的にも合理的。気に入らないの?」


司郎がやや面白がるような口調で返す。


「正確には”過剰”だと思っただけだ。必要以上に詩的すぎる」


「ええ、詩的なのが狙いですけどなにか?」


「……まったく、君という人は」


吉田は額に手をあてたが、その表情に怒りはなかった。むしろ、静かな闘志のようなものが宿っていた。


「じゃあ吉田くんはどう描くの?」

あやのが問いかける。


「静けさを建てる。俺の設計は常に”沈黙”が主役だ」


その言葉に、司郎は目を細めた。


「ずいぶん音楽的な発想するじゃない。あやのと気が合うかも」


「それはどうかな。僕は”計算”で沈黙を設計する。感性ではなく、法則をもって構成する」


「だったら──」

司郎の瞳が細く笑う。

「──あたしは”逸脱”で応えるわ。構成を壊してでも美を残す」


「破綻している。だが、成立している。不快だが……興味深い」


「褒めてる?」


「皮肉のつもりだ」


「ありがと」


吉田と司郎。

設計思想も対話のテンポも、まるで正反対。


けれど──互いの違いを真っ向からぶつけられる空気が、そこにはあった。

そしてそれは、真木あやのにとって、何よりの希望だった。


違う考えが並んでいるのに、否定ではなく、拡張されていく。

音も、線も、色も、きっと混ざり合える。


 


その日の夕方。


屋上テラスに立った吉田が、沈む夕日に染まりながらぽつりとつぶやく。


「……ここの幽霊は、どうして俺に優しい?」


あやのが隣に立つ。


「あなた、幽霊よりも静かだから。きっと同族だと思われてるんですよ」


「……冗談だな」


「いえ、本気です」


屋上に、笑い声がひとつだけ残って、風に消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ