表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星眼の魔女  作者: しろ
67/508

幕間: 銀縁眼鏡と少女――午前十一時の図面室

吉田透は、基本的に“黙って作業を進めるタイプ”の人間だった。

他人と馴れ合わず、愛想もなく、目の奥には常にどこか冷めた火が灯っている。


……だが。


「田中さん、今日はこっちの椅子にどうぞ。お茶も出しましたからね」


「ありがとう……ワシ、もうこの椅子が定位置になっとるな」


そんな光景が、彼のPCモニター越しに**“普通に”**映っているようになってから、早くも一週間が経っていた。


吉田は今もまだ、エレベーターの使用を断固拒否している。階段を使うと決めた。

が、踊り場の田中さんと話すようになっているあたり、微妙に順応はしているらしい。


そしてその日も、図面室で静かにCADと向き合っていたとき――


「吉田さん、紅茶いれました。ハーブのやつです。目にいいって聞いたので」


そう言って小さなカップを差し出してきたのは、真木あやのだった。

真珠色の猫っ毛に、吸い込まれそうな藍色の瞳――とても、幽霊たちと仲良くしているようには見えない。


吉田は一瞬、手を止める。


「……君、前から気になっていたんだが。どうして幽霊が平気なんだ?」


「うーん、育ちですかね」


そう言ってにっこり笑うあやのの笑顔は、なんの曇りもなかった。

吉田は一瞬、表情を固め、紅茶のカップに目を落とした。


「……君の目、変わってるな」


「え? 黒目ですよ?」


「いや……中に、金の光みたいな……」


吉田は言葉を切った。

あやのはふわりと微笑んだ。


「たぶん、目にゴミです。吉田さんの目には、たまに『希望』が映っちゃうんですよ」


その言葉に、吉田はむしろ絶句した。


希望? 何を根拠に。


――だが彼は言い返せなかった。


なぜならこのビルの中で一番のオカルトは、たぶんこの少女だと、どこかで分かってしまったからだった。


「……もう一杯、もらっていいか?」


「あ、はい。レモングラス足しましょうか?」


「いらん。オリジナルで頼む」


「うふふ、職人肌ですね」


そうして交わされた言葉は、たったそれだけ。

けれど、吉田透の心のなかで、静かにひとつ何かがほどけていったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ