表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星眼の魔女  作者: しろ
501/508

「風書」

──風へ。キミが届くなら、これを運んで。





あやのへ


さっき、ぼくの書架を揺らした風は、キミの声を運んできたんだね。

夜の静けさに紛れて、ぽつり、ぽつりと響いた音。

あれは……歌だった。いや、祈りだった。


キミが月の下、リュートを手に、誰にも言わずに唄ったこと。

ぼくはその一音一音を、胸の奥で受け止めてしまった。





悔しいと思った。

嫉妬したんだ。

キミは何も持たずに、こんなにも遠くまで響く歌を放てるのかって。


ぼくは、龍王として、記録の守護者として、

言葉を何千、何万と紡いできたのに、

キミのたった一夜のハミングが、それを全部……

すっと超えていった気がしたんだ。





でもね、あやの。


あの歌は、ほんとうに美しかった。

誰のためでもない、キミ自身のための歌だったから。

風に返す、たったひとつの礼のかたち。

魔法を使う覚悟と、傷つけぬために歩く者の、決意の証。





あれを聴いて、ぼくは少しだけ、強くなれた気がするんだ。


ぼくが贈ったリュートが、キミの指の下で音になって、

誰にも届かないかもしれないと知りながら、

それでもキミは唄った。


それだけで、ぼくには十分だったよ。





ねえ、あやの。


魔法って、ただの力じゃないんだね。

キミが使ったのは、言葉の魔法だ。

あれは、界を越えて人の心を動かす……響きの記録だった。


だから、もう返事なんていらないよ。

キミがまた唄いたくなったとき、

風にその音を託してくれたら、それでいい。


そのときも、ぼくはきっと、ちゃんと耳を澄ませている。か

                      


──ぼくより(ユエリー)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ