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星眼の魔女  作者: しろ
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第三十二章 議場の外で、目が交わる

《アカシック・レコード》外周に設けられた臨時の対話回廊には、四界の代表が揃っていた。


冥界代表:冥王閻魔の代理、死者裁定官・セルト

龍界代表:記録官長・硯墨けんぼく

精霊界代表:風の精霊王・蒼穹

魔界代表:近衛筆頭・立野腕たてのかいな



それぞれが互いに強くは干渉せず、距離を保ったまま、主記録者・真木あやのを中央に待たせていた。





「真木あやの殿……」

まず口を開いたのは、精霊界の蒼穹だった。

その声音は静謐だが、どこか突き放した冷気があった。


「記録とは、語らぬものを記すこと。だが、あなたの帳は“まだ生きているもの”すら記録し始めているようだ。その振る舞いは、我らにとって“希望”であると同時に“干渉”でもある」





龍界の硯墨は、その言葉に頷きつつも、鋭く切り込む。


「記録者は、記すだけでなく“選ぶ”者だ。

そして今や、あなたの記す言葉が、“界の形”を左右しつつある。

その責任を、あなたはどこまで自覚しておられる?」





冥界のセルトは、ゆっくりとあやのを見た。

瞳には、死者の重みを乗せた沈黙が宿っている。


「あなたが記した“エルセディア”の記録──

あれは既に、冥界の層構造に影響を与えつつある。もしその記録が揺らげば、死者たちの“定着”そのものが崩れる。記録は武器にもなる。……わかっておられますね?」





そして最後に、魔界の立野腕が腕を組んだまま、ふっと鼻で笑う。


「ま、うちの魔王が消えて空座になってる今、アンタが記録を握ってるのは“助かってる”わ。けどな──いざとなったらアンタの首、界ごとで奪い合いになるって覚悟はしときな」





あやのは、冷や汗をかきながら静かに立ち上がる。


「……私は、誰かに味方するために記録しているわけじゃありません。

ただ、“あるがまま”を記したい。

その中に、誰かが希望を見るなら、それは……きっと、良いことだと、私は思うから」





しばらくの沈黙ののち──

硯墨が、ふっと息を漏らす。


「……まるで、あの男の設計図みたいだな」


「司郎正臣……か」


「未来に耐えるための建築、か」





やがて、蒼穹が告げた。


「三日後、《アカシック・レコード》にて、界橋会議を開く。

議題は、“記録を持たざる者”への対処と、“界の新たな橋”について。

……記録者として、あなたも中央に立ってもらいます」





その後も、代表たちの視線は一様に、あやのの背に注がれていた。

誰もが何かを期待しながら、同時に不安を抱えている。


そしてあやの自身もまた、帳に宿る重みを抱え、ただ一人、

《アカシック・レコード》の中心で静かに頁をめくるのだった。

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