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星眼の魔女  作者: しろ
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第十一章 眠骨(みねほね)の教皇

冥界の底は、沈黙で満たされていた。

時すら凍てつく奈落の奥、その最も深い層に、それはあった。


忘れられた玉座。

誰にも祈られることのない石の祭壇。

その上に、朽ちぬ骨が膝を抱え、ひとつの名を静かに思い出していた。


「……かつて我を戴冠した、無数の声よ。貴様らが我を裏切ったこと、忘れぬぞ」


その骨に、心はなかった。

けれど――怒りだけは、死してなお腐らずにいた。


彼の名は、エルセディア四世。

人として死に、魂すら否定され、なおも**骸の教皇リッチ・ハイ・ポープ**として蘇った呪詛の王。

かつて冥界に捧げられた聖なる魂が、最悪の形で目覚めてしまったのだった。



同じころ。

あやのは、魔界の温泉宿の一室で風呂あがりの髪を乾かしていた。

ふわふわと浮く真珠色の髪を、忍犬・幸が見上げている。


そのとき。

宿の結界を破らずに差し込まれた、黒漆の封書が、ふと空から落ちてきた。


「……冥界から?」


封を開くと、そこには冥王の直筆による短い文。


《星眼の記録者へ》


目覚めたぞ。

千年の恨みを積んだ魂が、骨の身体で復活した。

教皇エルセディア。

聖と呪の交差点にて、冥界の均衡が崩れる。


汝に一任する。記録者よ、再び来たれ。


読み終えた瞬間、あやのの顔から色が消えた。


「司郎さん……梶くん……冥界に、行かなきゃ」


世界の奥底で、忘れられた復讐が、いま再びその口を開こうとしていた。

その牙の先には、生者も死者も分け隔てなく、あらゆる“記憶”と“信仰”が含まれていた。


──界を超えての戦いが、幕を上げようとしていた。

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