表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星眼の魔女  作者: しろ
357/508

第四十三章 風、動く

龍仙洞での第三の授業を終えて数日──

泉での出来事以来、月麗はやや距離を取るようになった。

やさしさは変わらない。けれど、少し抑えられていた。


あやのもまた、空気が少し澄んだような安心の中で、日々の学びに集中していた。


そんなある日。


龍仙洞の中庭にある「公聴殿」にて、突然の“集会”が行われるという報せがあやののもとに届いた。


しかも、主賓としてあやの自身が名を呼ばれている。


「え? 私が、なぜ……?」


招集者は、龍界の薬師筆頭・千蔵。

出席者は、学者・調薬官・一部の王族──

あきらかに「異例の構成」だった。





【公聴殿】



朱塗りの扉が開かれ、あやのが入ると、そこにいた者たちは一斉にこちらを向いた。

視線には敬意と……ほんの少しの警戒が混じっていた。


壇上に立つ千蔵が、静かに告げる。


「本日、ここに集ったのは“龍仙洞第三調薬記録”に関する重大報告のためである」


あやのの胸に、一抹の緊張が走る。


千蔵は、あやのが心臓薬を調合した際に作成された記録を、龍界の中央学府に提出していた。

その解析結果が──あまりにも「異常」だった。


「諸君。この少女の声がもたらした薬効は、龍の心拍変動において未曾有の安定曲線を描いている」


ざわめきが起きる。


「これは単なる偶然ではない。術理でも魔理でも説明のつかぬ“音の共鳴現象”だ。すなわち、彼女は龍の生命波と直接調和できる、極めて稀な“媒介体”である可能性がある」


あやのは愕然とした。


(私が……? ただ、調和を感じていただけなのに……)


「よって、本日より彼女は特級学術聴講生として位置づけられ、龍界王室直属の研究庁へ定期的に出入りする権限を持つ」


どよめきが広がる。


それはつまり──

“政治”の中枢に名前が載ったということだった。





【風の楼・帰還】



夕方、風の楼に戻ると、月麗が玄関に立っていた。

あやのの顔を見て、ふわりと笑う。


「聞いたよ。おめでとう。君は、もう“学びに来た者”ではない。これからは、龍界の一員として見られることになる」


「……そんなつもりじゃ」


「わかってる。でも、それが世界の“まわり方”なんだ」


そして、月麗はほんの少し、言葉を置いてから続けた。


「これから、君の周囲には多くの“声”が集まる。

称賛と、憧れと、そして嫉妬と。私の手を、また取ってくれる?」


あやのは少しだけ目を伏せ、

そして、静かに首を横に振った。


「……自分の足で立ってから、改めて考えます」


月麗の瞳が、ほんの一瞬揺れた。

だがその後、彼は朗らかに笑った。


「……じゃあ、それまでは。僕の立場から、しっかり君を支えるよ。“記録者”としてでも、“奏者”としてでも──ね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ