第三十四章 響き渡る決意
東堂教授の言葉を胸に、あやのたちは改めて設計案を携えて都内の行政庁舎へと向かっていた。
かつて教授が足繁く通った旧蔵前の地を守るべく、彼自身の人脈と信頼を頼りに、プロジェクトの後押しを狙うためだ。
建物は重厚な石造りで、昭和の面影を残しながらも厳かな空気を漂わせている。
その中の会議室では、様々な役職の人々が集まっており、行政的な視点からの質疑応答が始まった。
教授がゆっくりと模型を開き、静かに説明を始める。
「この旧蔵前コンサートホールは、音楽文化の一大拠点として昭和に栄えました。しかし長い年月、放置され廃れてしまった。今回、私たちはこのホールの歴史的価値と音響特性を最大限に活かし、現代の“音の回廊”として再生しようと考えています」
役人の一人が眉をひそめて言う。
「しかしながら、建築基準法や防災設備の現代基準への適合は容易ではない。特に古い煉瓦造りの部分の耐震強化が課題でしょう」
司郎が前に出て、持ち前の技術力と経験を説明する。
「そこは我々建築チームの強みです。最新技術で補強を施しながら、できるだけ元の雰囲気を壊さずに再生します」
あやのは模型の回廊部分を指し示し、静かに付け加える。
「この回廊は音を柔らかく回し、訪れる人々が過去と未来の響きを感じられる空間になる設計です。幽霊たちの記憶も浄化し、新たな命を吹き込みます」
一部の参加者からは好意的な反応が返ってきたが、中には「幽霊の話は非科学的では」と冷ややかな視線もあった。
東堂教授は厳しい表情のまま答えた。
「音楽とは形なきもの。目に見えぬものを信じてこそ、その価値があるのです。私自身、その音の中に失われた魂を見てきました」
会議は二時間に及び、課題も多く浮き彫りになったが、最後には「できる限りの支援をしたい」という理解と賛同が得られた。
夕暮れ時、出るビルに戻る三人の表情は安堵と決意が混ざり合っていた。
あやのはふと、小さく呟いた。
「始まった……」
司郎は少し笑いながら言う。
「ここからが俺たちの腕の見せどころだな」
梶原も控えめに頷く。
「忘れられた旋律に、新たな命を」
夜の街に、静かに音の未来が広がっていくのを感じながら。