第十五章 お前が光なら、俺は現場だ
昼下がりの迎賓館裏庭。
静かな庭に、パキン、と何かが弾ける音がした。
「やぁ、梶原くん。お昼寝中にごめんね」
にこやかに声をかけたのは、白衣に近い衣を翻したユエリーだった。
その手には小さな魔法陣が浮かび、きらめく蝶のような光が舞っていた。
梶原はあやのの膝枕で、幸と一緒に昼寝していた。
(※あやのは近くのテーブルでお茶の準備中)
「……てめぇ、さっきから何発魔法撃ってきた?」
「魔法? あれはただの“空間音波振動式起床法”だよ。起きるのにちょうどいい周波数」
「爆音だったろうが!!!」
梶原、地面から跳ね起きて怒鳴る。
幸も「ワンッ!」とユエリーに威嚇するように吠える。
「ふふ。いやぁ、羨ましかったんだよね~。
あやのの膝って、柔らかそうだし、いい匂いしそうだし、なにより愛されてるって感じが……」
その瞬間、ガシャンッと何かが砕けた音がした。
「てめぇ」
「ん?」
「何度も言わせんな。あやのに手ぇ出したら、容赦しねぇぞ」
「えっ、それってもしかして嫉妬? やだ、かわいい」
「殺すぞ」
「ひぃっ」
梶原は、なぜか手製のモンキーレンチを背中から取り出し、構えた。
「あ、あの、それは魔界持ち込み制限武器に該当するのでは!?」
「俺が法律だ」
「出たーー! 物理至上主義男!」
ユエリーは魔法陣を展開。
庭の草木がふわりと浮き、風のように光をまとう。
「いいよ。ちょっとだけ遊ぼうか。私、強いんだよ?」
「知ってる。でもな、どんなに強くても、現場は──素手でなんとかしてなんぼだ!」
「名言風にすればいいってもんじゃないよッ!?」
次の瞬間、
蝶のように舞うユエリーの魔法と、
現場で培ったガテン系の勘と肉体と“たぶん理不尽”で殴ってくる梶原の戦いが始まった。
バチンッ! ズンッ! ヒュンヒュン! ドゴォォン!
──その攻防を、あやのは冷めかけた急須を手に見守っていた。
「あのふたり、またやってる……」
幸が、ぺたんとあやのの足元に座る。
どうせ止めても意味がない、と言わんばかりに。
「ま、いいか。倒れた方から順番に、冷やし団子ね」
お茶の香りの向こうで、ふたりの男たちの妙に楽しげなバトルはしばらく続いた。




