第五章:記憶の書庫と“始まりの声”
石扉が開いた先にあったのは、音すら吸い込む静寂の大空間だった。
そこには棚という棚に、無数の“記憶の石板”が並んでいた。
けれどどれにも、文字はない。名前もない。意味をなさない。
「……まるで全部、内容が消えてるみたい」
あやのが小声で言うと、司郎は無造作に一枚の石板を持ち上げて眉をしかめた。
「いや、違う。これは……記憶が“封じられてる”んだわ。形式は保存されてるけど、鍵がない。まるで暗号文よ」
梶原は部屋の中央にある祭壇のような台座をじっと見つめていた。
「……あやの。あそこに、記録者専用の“起動装置”がある。多分、お前じゃなきゃ開けない」
あやのは深く頷いて、祭壇へと歩み寄る。
星眼がその石の台座に触れた瞬間、空間が揺れた。
──次の瞬間、彼女の身体がふわりと浮かぶような感覚に包まれる。
「……これは……!?」
視界が変わる。
床も壁も天井もない、光の内側に、あやのはただ一人、立っていた。
すると、前方に、ひとりの人物の姿が浮かび上がる。
白い衣、淡い光。──女だった。
その姿はぼやけ、声も霞んでいる。それでも確かに、**言葉ではない“思念”**が届いた。
「記録者へ。
この場所に記されたものは、かつてあった**“すべての真実”**。だが、我らヨミの民は知った──“真実は時として、人を壊す”。だから、この記録は分割され、封印された。けれど、あなたが来た。ならば、選びなさい。ひとつの記憶を、今、取り戻す。どの扉を開く?」
目の前に、三つの扉が現れる。
それぞれに刻まれた記号は、こうだった:
【Ⅰ】黒き太陽と堕ちた玉座
【Ⅱ】歌う石と光を孕んだ子
【Ⅲ】外の世界から来た“記録者”の断章
あやのは、一瞬の迷いの後、手を伸ばす。
選んだのは




