返信: 馬鹿娘へ
馬鹿娘へ
お手紙、ありがと。
読んで、泣いた。
泣いたから煙草がまずかったじゃないのよ。
責任とって、次に来るときは例の“干し柿の羊羹”持ってきなさい。
元気そうで何より。
でも“元気”ってのは、顔色や食欲の話じゃない。
あんたの書く文字の端々から伝わる「まっすぐな気持ち」が、あたしにはいちばんの“あんたの健康診断”よ。
ちゃんと、あんたはあんたで居る。
誰かの役じゃなくて、自分を生きてる。
──それだけで、泣けるほど嬉しかった。
あたしのことを“はじまり”だなんて言ってくれたけど、
ほんとは逆なのよ。
あたしはね、あんたに出会って初めて、
“誰かに未来を託したい”なんて思ったの。
仕事しか知らなかったこの命に、
あんたが風を通してくれた。
馬鹿みたいに頑固で、真面目すぎて、不器用で……
でも、美しかったわ。
あんたが、魔界に行くと聞いてから、
あたしはずっと、後悔してたの。
“あのとき、行くなって言えばよかった”
“止めるべきだったんじゃないか”って。
でも今は違う。
行ってよかったんだわ。
星眼とか記録者とか、あたしにはよくわからないけど、あんたが“そこ”でちゃんと笑えてるなら、それが正解。
あたしの言葉なんかより、
あんた自身が、自分に言った言葉の方が、
ずっとずっと価値がある。
次に帰ってきたら、晩酌付き合ってちょうだい。
あんたが飲めなくてもいいの。話すだけでいいの。
地縛霊たちも楽しみにしてる。
トイレの太郎くんは相変わらず元気。
田中さんは、納期を夢に見てうなされてたわ。
山形さんは……相変わらず「脅かし方に工夫が足りん!」って自問してる。
そうそう、梶原へも伝えてちょうだい。
「大事なあの子を、頼んだわよ」って。
もしあの子を泣かせたら──
あたし、地獄だろうが魔界だろうがぶん殴りに行くから。
……ほんと、あんたは親不孝ね。
でも、こんなに誇らしい娘を持ったあたしは、
きっと世界一の幸せ者。
また会える日を、楽しみにしてる。
仕事なんかどうでもいいから、ちゃんと顔見せに来なさい。
そのときは、何も言わずに抱きしめてあげるわ。
泣くなって言っても、あんたまた泣くんでしょ?
いいのよ。泣いても。
世界を守ったって泣ける娘なんだから、それでいいの。
愛してるわ。
いつでも、どこにいても、うちの娘よ。
司郎 拝




