表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星眼の魔女  作者: しろ
296/508

返信: 馬鹿娘へ

馬鹿娘へ


 


お手紙、ありがと。

読んで、泣いた。

泣いたから煙草がまずかったじゃないのよ。

責任とって、次に来るときは例の“干し柿の羊羹”持ってきなさい。


 


元気そうで何より。

でも“元気”ってのは、顔色や食欲の話じゃない。

あんたの書く文字の端々から伝わる「まっすぐな気持ち」が、あたしにはいちばんの“あんたの健康診断”よ。


ちゃんと、あんたはあんたで居る。

誰かの役じゃなくて、自分を生きてる。

──それだけで、泣けるほど嬉しかった。


 


あたしのことを“はじまり”だなんて言ってくれたけど、

ほんとは逆なのよ。

あたしはね、あんたに出会って初めて、

“誰かに未来を託したい”なんて思ったの。


仕事しか知らなかったこの命に、

あんたが風を通してくれた。


馬鹿みたいに頑固で、真面目すぎて、不器用で……

でも、美しかったわ。


 


あんたが、魔界に行くと聞いてから、

あたしはずっと、後悔してたの。


“あのとき、行くなって言えばよかった”

“止めるべきだったんじゃないか”って。


でも今は違う。

行ってよかったんだわ。

星眼とか記録者とか、あたしにはよくわからないけど、あんたが“そこ”でちゃんと笑えてるなら、それが正解。


あたしの言葉なんかより、

あんた自身が、自分に言った言葉の方が、

ずっとずっと価値がある。


 


次に帰ってきたら、晩酌付き合ってちょうだい。

あんたが飲めなくてもいいの。話すだけでいいの。

地縛霊たちも楽しみにしてる。

トイレの太郎くんは相変わらず元気。

田中さんは、納期を夢に見てうなされてたわ。

山形さんは……相変わらず「脅かし方に工夫が足りん!」って自問してる。


 


そうそう、梶原へも伝えてちょうだい。

「大事なあの子を、頼んだわよ」って。

もしあの子を泣かせたら──

あたし、地獄だろうが魔界だろうがぶん殴りに行くから。


 


……ほんと、あんたは親不孝ね。

でも、こんなに誇らしい娘を持ったあたしは、

きっと世界一の幸せ者。


 


また会える日を、楽しみにしてる。

仕事なんかどうでもいいから、ちゃんと顔見せに来なさい。


 


そのときは、何も言わずに抱きしめてあげるわ。

泣くなって言っても、あんたまた泣くんでしょ?

いいのよ。泣いても。

世界を守ったって泣ける娘なんだから、それでいいの。


 


愛してるわ。

いつでも、どこにいても、うちの娘よ。


 


司郎 拝

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ