表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星眼の魔女  作者: しろ
290/508

第四十一章 議場の影

夜の議会塔。

石造りの廊下に足音を響かせながら、立野腕かいなは静かに歩を進めていた。


かつて王直属の護衛隊を率いた男。

その背は広く、髷をきっちりと結い、鋼のような視線を持つ。


まつりごとより剣。

それが彼の矜持だった。


だがいま──

剣では断ち切れぬ、“歪み”が議会に忍び込んでいる。


 


「……偽史の侵食は、盤だけにとどまらない。

“記録を読んだ者”の認識までもが、すでに操作されている……」


 


政庁の裏にある閲覧室。

そこには、議会に提出された“記録抄”が保管されていた。


立野は、かつて王が自ら記した原盤と、現在議員たちに配布されている写しを照らし合わせていた。


 


一行だけ──

決定的に異なる文言がある。


「記録者の権限は“記録にとどまり”、政には干渉せず」


これは原盤にはなかった一文。

それが、現議会で“あやのの権限”を制限するための根拠とされている。


 


「……意図的に書き加えられている。

そして、誰もその改竄に気づかない。

なぜなら、“記録がそうなっている”と、誰もが信じているからだ」


 


それはまるで、最初から偽史を信じるように仕組まれていた罠だった。


 


「議会そのものを、“偽史に基づいた判断機関”に変えようとしている」


──そこが狙いだったのだ。


盤の改竄だけでは、正史は奪えない。

だが、盤を“信じる者たち”が歪められれば、

この世界の“未来の決定権”すら奪える。


 


「……星眼の娘だけでは、護れまい。

ならば、この立野腕が、その剣で盤を守る」


 


その頃、議会内では一部の議員たちが“記録の封鎖”を主張しはじめていた。


「盤の解釈はあやふやであり、国政の混乱を招く」

「記録者は王権の代替にはなり得ぬ」

「そもそも星眼の出自が曖昧だ」


それらは一見もっともらしい議論だったが──

その根底には、**八重垣の“影の記録”**がこっそりと植えつけた認識があった。


立野は静かに、議会の席に姿を現す。


「問う。お前たちは、いつから“その文言”を正史と信じるようになった?」


誰も答えられない。

なぜなら、彼らもまた“知らぬ間に記録を信じ込まされていた”から。


立野の剣が、議場の机の上に鋭く響く。


「我が名は立野腕。

前王に剣を捧げた近衛筆頭。

そして今──記録者の盾となる者なり」


その夜、立野はあやののもとへ報告に向かった。


「──記録が、議会そのものを操っている。

今この瞬間も、“虚構を現実にする投票”が進行している。盤を凍結しただけでは、足りなかったようだな」


あやのはうなずいた。


「なら、私も……議会に出よう。

記録者として、“言葉で”語る。

それが……わたしの盾であるあなたへの、返礼だから」


二人のまなざしが、夜の先にある“真実の場”を見つめていた──

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ