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星眼の魔女  作者: しろ
243/508

番外編:「こっそり覗くな、司郎と梶原」

出るビル3階。あやのとヘイリーのガールズトークが白熱していた、ちょうどその頃。


──その天井裏。


木造の梁の上を、

忍び足(というか“匍匐前進”)で這っているふたりの影があった。


1人は、司郎正臣(坊主・黒縁眼鏡・生涯現役建築家・おかま)。

もう1人は、梶原國護(元鬼の里の職人・筋肉・口数少ない・あやの溺愛)。


天井裏、異様な緊張感。





◆ 事の発端



ことの発端は、1時間前。


司郎「ねぇ梶……今夜、女子ふたりきりよ」


梶原「……だから、なんだ」


司郎「こういうときって、なんか**女子特有の“相談”**とかあるのよ。たとえば──“恋バナ”とか、“身体のこと”とか!」


梶原「……知る必要はない」


司郎「バーカ。知ってなきゃ“守れない”のよ!!

“父”も“男”も、“護衛”も、知識武装が命なのよ!!」


梶原(……うるさいが、正論)


司郎「でしょ!?じゃあ行くわよ。天井裏経由で!」


梶原「お前……最初から決めてたな?」


司郎「当然よ。アタシ、床下も梁も全部設計してるからね。覗きルート、完璧よ!」





◆ 覗きタイム、開始



天井裏に仕込まれた換気口の隙間から、司郎がそっと下を覗く。


「……見て、あやのが笑ってる。めっちゃいい顔してるじゃないの……もう宝石じゃない……」


梶原「(小声)……ヘイリー、飲ませすぎだ。あれはワインじゃなくて“煮た情熱”だ」


司郎「ヘイリーはね、酔っても“勢いと真理”しか言わないから質が悪いのよ……でも正しい……ぐぬぬ」


──そのとき、あやのの声がふわっと。


「……わたし、“変わってきてる”の、わかるの」


司郎&梶原ピクッ


「……身体も、気持ちも、前より“女の子”になってる気がする」


司郎「きたわね……核心!」


梶原「……(言葉がない)」


司郎「どうする!?このまま“本格的に女性としての人生”を歩み始めたら、

あの子の周囲がどんどん変わるのよ!?アンタの立場も変わるのよ!?“鬼の婿”にクラスチェンジよ!?」


梶原「……そうなったら、正式に迎えるだけだ」


司郎(目を細めて)


「アンタさ、ほんとずるいのよね。そういうとき、言葉が重いのよ……」


梶原「……司郎。音、聴こえるか?」


司郎「……ハミング?」


換気口の向こう、あやのがふと口ずさんだ短い旋律。


それは、明らかに“誰かに届くことを前提にしていない”音だった。


無意識、でも澄んでいる。

まるで、芽吹きかけた春の匂いのような──


司郎「……あー、もうダメ。アタシ、泣く」


梶原「……犬がこっち見てる」


幸「ワン」(←完全に気づいている)





◆ バレる



数分後──


ヘイリー「……あやの、なんか音しない?」


あやの「天井から、きしむ音が……?」


そのとき!


ドンッ!


梁がミシッと鳴り──


司郎「やっべ!!」(←うっかり脚を滑らせた)


ヘイリー「──お前ら見てたなッッ!!」


天井をぶち破って出てきた司郎ホコリまみれ

慌てて引き上げる梶原(顔だけ冷静)


ヘイリー、ワイン瓶を持って仁王立ち。


「この変態設計師とストーカー大工がぁぁぁッ!!!」


司郎「誤解よ!愛ゆえの情報収集よ!!」


梶原「……壊しては、いない」


あやの「……わたし、そんなに心配?」


ふたり、ピタッと止まる。


司郎「……心配じゃないとでも言うの?」


梶原「……ただ、そばにいたかった」


あやの、ちょっとだけ笑う。


「じゃあ、今度はちゃんと下から聞いててね」


幸「ワン!」





出るビル、今夜も平和。



建築事務所の屋根裏には、

女たちの静かな声と、男たちのドタバタと、

犬の監視までもが混在していた。


──それもまた、“生きる建築”の日常である。

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