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星眼の魔女  作者: しろ
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第七十八章 声を封じた者たち

破壊された共鳴パネル。

設計図の“消されたライン”。

誰にも気づかれず進行する「設計潰し」は、明らかに内側から起きていた。


あやのは、情報を洗い直していた。


作業記録、入退室履歴、工具の貸出簿。

すべて整っているが──整いすぎていた。


「意図的に“見つからないように”やってる。これは、素人の犯行じゃない」


司郎の言葉に、梶原が頷いた。


「現場に慣れた手だ。音も立てずにパーツを解体して戻すなんて、普通はできない」


「つまり……」

甲斐が低く言った。


「このプロジェクトの中に、“それをやれる立場の人間”がいるってことだ」


**


数日後。

あやのは、ある女性の元を訪れた。


リマ・カスティージョ──この地区の古いコミュニティセンターの元運営者。

今は裏方に退き、住民代表の影の調整役として動いていた。


「あなたの描くものは、あまりにも“きれいすぎる”のよ」


リマは言った。


「この街には、声を出せば消される人がいる。声を上げれば、“いなかったことにされる過去”がある」


「あなたの設計が、それを明るみに出すのなら──

 それを望まない者がいても不思議じゃない」


**


あやのは、静かに問いかけた。


「……でも、黙っていても、何も変わらない。

 “変えられると思うから”じゃなく、“変えたいから”やってるだけです」


リマは、長い沈黙ののち、書類の束を差し出した。


「……20年前、この土地の再開発にまつわる強制移住と、火災事故の記録よ。公的には“自然発火”とされたけど、当時ここにいた者は皆知ってる。 “片付けられた声”が、あったってことを」


「もしあなたが、本当にその“声”を建築にする気があるなら──この記録を、燃やさずに残して」


**


その夜、あやのは資料を抱えて仮設オフィスに戻った。


司郎と梶原が待っていた。


あやのは言った。


「“風の通り道”って、もしかすると──

 “誰にも聞こえなかった声”が、最後に通る道なのかもしれない」


**


司郎が肩をすくめた。


「いいじゃない。じゃあそれを、形にしましょう」


梶原が言う。


「……何があっても、俺たちは現場を守る。この場所に、誰かが“いてよかった”って思えるように」


**


その夜、甲斐は一人で財団の連絡網を洗い直していた。


叔父──“塔”の記録実験に関与したあの男の名が、

支援中止を推した委員会に浮上していた。


(まさか……こんな形で……)


甲斐の中に、過去の亡霊が蠢きはじめていた。

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