第四十六章 司郎の視点 「父親的視点から見たふたりの距離」
あやのと梶原が夜の教会で寄り添う姿を、俺は影から静かに見守っていた。
杖をつきながら、いつものように眉間にシワを寄せているけど、内心は複雑だ。
「梶原か…あいつは確かに無骨だ。だけど、あやのには悪くない」
あの硬い表情の裏に、しっかりとした優しさがあることも知っている。
だが、父親としては心配になるのも当然だ。
「おい、あやの。お前はあの鬼に守られるだけじゃなく、時に彼の背中を押してやらなきゃいけないんだぞ。甘えすぎんなよ」
あやのは自由気ままで強いが、時に自分を犠牲にしすぎるからな。
「あいつがあやのの全てを受け止めると言うなら、それも悪くないが、あやのが弱くなるのは俺が許さん」
それに、司郎正臣にはあやのの音を守り続ける役目がある。
梶原との距離が近づくのは歓迎するが、あやのの本質を揺るがす奴は許さない。
「あやのの音は、世界の宝だ。あいつのハミングは、俺にとっては娘の笑顔みたいなものだ」
父親らしく照れ隠しに少し強がって言うけど、胸の奥底では確かに安心している。
「お前たちがいい方向に進むなら、俺は杖をついてでも支えてやるさ」
影から見守る俺は、今日もあやのの未来に静かな祈りを捧げる。




