表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星眼の魔女  作者: しろ
134/508

第三十二章 囁きの波紋

撮影の翌日、パリの朝はガラスのように透き通っていた。


「出る事務所・パリ支部」の一室。

天井高のある古い建物の最上階を改装したオフィスには、いくつもの報道メールとSNSの通知音が静かに鳴り続けていた。


あやのは窓際でコーヒーカップを両手で包み、黙ってそれらの情報の流れを眺めていた。


“Who is the fairy in white?”

“世界の音をまとう小さな詩人”

“建築界の秘宝がファッション界に現れた”


記事のタイトルはやがて国境を越え、

スペイン、ドイツ、アメリカ、そしてアラブ圏にまで波紋のように広がっていった。




撮影中にレミが撮影した非公式ショット――

ふとした瞬間に目を伏せ、肩に落ちる髪が光を受けたその一枚が、

「生きる静謐」と評されて拡散されたのが始まりだった。


スタイリスト界隈だけでなく、芸術家、詩人、宗教指導者までもが、

「この小さな人間は、なぜこれほどまでに“静かな崇高さ”を宿しているのか」と語り始める。


そして、そこにひとつの眼差しが含まれるようになる。


――中東某国の文化庁が管轄する“王族美術収集室”。

その中で、白装束の少女の写真が、厳重なファイルに追加される。




午後、司郎は書類の山を片付けながらブツブツ言っていた。


「あんたがファッション誌なんぞに載るから、うちのサーバが落ちかけたじゃないの。……ま、可愛い写真だったけど」


横であやのは無言のまま、画面の中の“自分”を見ていた。

建築でも音楽でもない分野で、自分が“受け取られた”ことに、言葉にできない感情があった。


その姿を見た梶原は、そっとカップを差し出し、ぽつりと呟く。


「……ああいうのは、守り甲斐があるな」


司郎がギロッと睨む。


「おい梶原、そういうのは外に出てから言え。あやのはまだ子どもだぞ。世界から隠したいくらいだわい」


あやのは微笑みもせず、静かに席を立った。


扉の向こう、石畳を歩きながら、彼女はふと立ち止まる。


パリの街が静かにざわめいている。

その中に、たしかに――自分を呼ぶ声がある。


それが祝福なのか、誘惑なのか、災厄なのか。

まだ彼女にはわからなかった。


だが確かに、次の章が近づいているのを、星眼の奥に感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ