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星眼の魔女  作者: しろ
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第三十章 フェアリーサイズの奇跡

「Silent Requiemサイレント・レクイエム」の即興演奏が終わった夜、

誰かが礼拝堂の隅にスマートフォンを置いていた。

それは小さな音楽家たちのセッション風景と、

詩を紡ぐひとりの少女の姿を、静かに記録していた。


画面越しの彼女――真木あやのは、

パイプオルガンの下、かすかな灯の中で

祈るようにハミングしていた。


動画はその翌朝、音楽好きのフランス人学生がSNSに投稿した。


「名も知らぬ少女が、亡霊に歌を捧げていた夜の記録」


最初の24時間で、再生数は10万を超えた。

48時間後には、300万回再生を突破。

“Silent Requiem”の名前と共に、

「誰?」「この子はどこから来たの?」という書き込みが溢れる。


パリの音楽系サイトだけでなく、アート系雑誌にも取り上げられ、

彼女の小柄で中性的な容姿、

どこか浮世離れした気配、

そして“詩を乗せて歌う瞳”に、注目が集まった。




「フェアリーサイズの奇跡(Le Miracle de la Fée)」――


ある有名ファッション誌が、そう形容した。


動画のあやのは、まるで夢のような存在感だった。


日本から来た小柄な建築補佐、音楽のハミングだけで人を泣かせる謎の少女。

身長150センチにも満たないその存在が、パリの芸術界に旋風を巻き起こすとは、誰も予想していなかった。




その週の金曜日。

あやのの元に、思わぬメールが届く。


From: Éditrice en chef, CHRONOS Paris

「あなたを表紙に迎えたい」


老舗モード誌『CHRONOS』の編集長からだった。

添付されたコンセプトにはこう書かれていた:


“建築と音楽を纏う者。声を持たずして時代を変える存在。”


ヘイリーはそれを見て、両手を広げた。


「Are you kidding me!? あんた、こりゃもう次元超えてるわ!」




パリの街が、あやのを“アイコン”として見はじめた頃。

彼女は静かに「出る事務所」パリ支部のデスクに戻って、司郎の図面を整理していた。


何も変わらぬように、

けれど、確実に変わっていた。


彼女の存在が――世界に、発見されてしまったのだ。

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