表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星眼の魔女  作者: しろ
109/508

第九章 無音の教室

あやのが訪れたのは、東京郊外のとある古い音楽学校の廃墟だった。

かつて戦前、クラシック音楽を教える名門校だった場所。

グレイマンが「あそこにはまだ音が棲んでいる」と告げたのだ。


曇った窓、割れた譜面台。

しかし、空間には微かな残響があった。

子どもの笑い声、ピアノの和音、指揮棒のリズム──


「ここで学ぶのは、音楽の“無い部分”だ」

グレイマンは言った。

「つまり“”。沈黙、消えかけた音、途切れの美しさ。

それが魂の居場所になる」


その日から、あやのの修行が始まった。


譜面を使わない。

楽器も弾かない。

ただその場に立ち、目を閉じる。


グレイマンは、何も教えない。

ただ問いを投げかける。


「風の音がしたら、それはどこから来た音か?」

「悲しい音とは何か。誰にとっての悲しさか?」

「沈黙は、言葉の終わりなのか、それとも始まりなのか?」


あやのは、何度も迷い、躓いた。

言葉にできない違和を抱えたまま、一週間、廃校に通い続けた。


ある夜、突然、風が変わった。

屋根の隙間から差し込む光に、埃が舞う。


その瞬間、あやのの胸にひとつの旋律が流れた。

それはハミングではなかった。

**詩のない歌、心の根に触れる“生まれたての音”**だった。


口に出さず、ただそっと手を合わせる。


グレイマンが、黙って頷いた。


「ようやく、聞こえたね。君自身の中にある“音のない音”が」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ