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06.失礼な男

 道中、他愛ない話をしながら、三人は森の近場に存在する街──酒場の街にたどり着いた。

 街の名前の通り、そこにはありとあらゆる酒場が存在しているようだ。街道にも多種多様な酒を取り扱う店が並んでいるし、なんならデカイ移動式の樽もある。蛇口が取り付けられているところを見るに、あれも酒か何かが入っているに違いない。雰囲気的にワインっぽいがどうなのだろう。


 高瀬は「ほお~」と周囲を見回しながら、ハクアと手を繋いだ状態でこの街の風景を目に焼き付ける。そんな高瀬に「じゃあ僕はこれで……」と一礼して歩き去って行く白柄木。高瀬はそんな彼の後ろ姿に「ありがとな~」と手を振ると、塞がったもう片方の手の先に存在するハクアを見て「とりあえず宿探すか」と言った。ハクアは名案だと言いたげに頷いている。


「よし、とりあえず歩いてみれば見つかると思うから歩こうか」


「……普通道行く人に訊ねると思うのだけど?」


「コミュ障にそれはハードル高すぎ」


 さっ、と告げて、歩き出す高瀬。自然とその横を着いて行くハクアは、眠たげに小さな欠伸を零していた。




 ◇◇◇




 それから十五分ほど。なんとかさ迷い歩いて見つけた宿屋にて、高瀬は数泊の宿泊権をもぎとった。あの森で拾った宝石を代金代わりにと差し出せば、宿のおかみがおったまげながら急遽部屋を用意してくれたのだ。なんなら食事もデザートも付けましょうと張り切るおかみにお礼を言い、その日はたくさん食べてたっぷり眠った。おかげで翌日はいい感じに目覚められてハッピーだ。こんなに清々しい朝を迎えられるのはいつぶりだろう。


 大きく伸びをし、高瀬は別のベッドで眠るハクアを揺り起こす。めちゃくちゃ唸られたが、「ご飯行くよ」と言えば、彼女は渋々ながらも起き上がってくれた。


「へえ……あんたら、あの禁忌エリアの森に行ったのかい」


 宿屋の食堂。

 客が誰もいないことを良いことに、話しかけてきたおかみは、まるで感心したように呟いた。

 朝早くから栄養満点の食事を摂れて大満足の高瀬は、「はい、そうっぽいです」とにこやかに返事を返している。おかみが「よく生きて帰れたねえ……」と思わずと口にするのを、ハクアが横目で見つめていた。


「禁忌エリアっていうと、この世界で最も危険とされている場所だよ? そんなところから五体満足でよくまあ……もしかして、おたくら強いのかい?」


「当たり前なのよ。ヒサシとハクアはもはや最強と言っても過言ではないのね。そんじょそこらの雑魚に遅れはとらないのよ」


「ほぉ~、そうかいそうかい」


 楽しそうなおかみ。彼女が「デザートもあげるねえ」とふたりにプリンを差し出したときだ。「ほんっとに使えねえなお前は!!」と、どこからともなく怒鳴り声が聞こえてきた。思わず声のした方を見れば、怒り心頭といった感じの男が一人、蹴破る勢いで宿の扉を開け、入ってくるのが見える。


 おかみが嫌そうな顔をした。どうやら好かん客らしい。


 とてつもなく嫌そうに「ちょっと待っといてくれ」、と男の方へ向かっていくおかみを視界、高瀬はごくりとグラスに注がれた牛乳を嚥下した。共に、プリンをスプーンですくっていたハクアが、「ヒサシ、あいつ」とこっそり言う。


「ん?」


「見るのね。昨日のデブだるまなのよ」


「んえ?」


 間の抜けた声を発しながら振り返った高瀬の視界の中、鎧をまとったいかつい男性の後ろ、他の男女に隠れるようにして縮こまる白柄木が見えた。なぜか青ざめ冷や汗を流している彼は、どうやらこちらに気付いたようだ。小さく会釈し、へらりと笑っている。


「なに笑ってやがんだこのデブ!!」


 そんな白柄木に怒鳴る男。白柄木は思わずぴえっ、と鳴いて小さくなる。


「俺たちがよお! さらなるレベルアップするために、お前を良いアイテムが勢ぞろいしてるっていうダンジョンに折角向かわせたのによお! 何も収穫なしとか舐めてんのかよ!!」


「い、や、でも、その……あそこには、その、つよい魔獣がいて……」


「あーあ、これだからノロマのデブはいけねえや! やっぱお前がパーティーに戻るのはなし! はい解散! 散った散った!」


「え、あ、えっと……」


 オロオロする白柄木。そんな白柄木を無視し、ふと視線を動かした男が視線を高瀬、そしてハクアへ。静かにその目を見開き固まると、やがて何かを話すおかみを無視してふたりへと近づいていく。

 高瀬の顔が思わず死ぬ、と同時に、ハクアが「おまえがどうにかするのよ」と匙を投げた。高瀬の顔がさらに死ぬ。


「おいお前」


 かけられる声。


「な、んでしょう……」


 戸惑いがちに、高瀬は男に目を向けた。


「俺は築地良平。剣士だ。お前は?」


「……高瀬ヒサシ、えっと、賢者? だっけ?」


 確かステータスにそんなこと書いてた気がする、と答えれば、男は「賢者ねぇ……」と一言。告げてから、視線をハクアへと向けた。


「お前は?」


 やや雑に訊ねられたハクアは、特になにかを気にした様子もなく食事を続けながら、淡々とこう告げる。


「ハクア。賢神」


 発された自己紹介。それに、どよりと、どよめきが広がった。

 共に男がニタリと笑みを浮かべ、仰々しくも両手を広げる。愉しげに歪む顔がひどく醜いのは、ここだけの話にしておこう。


「そぉーかそぉか、おたくがね、あの賢神様ってか」


「だったらなにかしら? ハクアは今食事で忙しいのよ。口説くなら他当たるといいのね」


「ほぉー、じゃあそうさせてもらいますか」


 言ってドカリと空いた席に腰かけた男、築地は馴れ馴れしくも高瀬の肩に腕を回すと、笑いながら「いくらだ?」を口にした。意味のわかっていない様子の高瀬に、築地はさらに言葉をつづける。


「売却価格だよ。売却価格。この小生意気な餓鬼、いくらなら売る?」


「……は?」


「ああ、値段付けらんねえならアイテム交換でもいいぜ? なんならスキル交換だって構わねえ。俺こう見えて儲けてるからよ。お前が欲しいものは絶対的に持ち得てるぜ」


「……」


 黙り込む高瀬。笑う男。無言で様子を見守るハクア。


 みっつの存在がそれぞれ個々の動きを見せる中、そっと手にしていたグラスを机上に置いた高瀬はにやつく男を一瞥。思い切り拳を振りかぶると、勢い付けてその横っ面を殴りつけた。


「がっ!?」


 ドンガラガッシャン!!


 椅子から転げ落ちながらど派手に床を転がった男。そんな彼を、自分でもわかるほどに冷たい目で見下げながら、高瀬は「失せろ」と一言。殴られた男は、震えながら逃げ腰で、転がるように宿の外へと駆け出していく。


 そんな男をじっと見つめる高瀬を見て、ハクアは何を思ったのだろう。「……ヒサシ」とその名を呼ぶと、ゆっくりと振り返る高瀬をまっすぐに見つめる。


「なに」


 落とされる疑問。


「……ありがとう」


 ふわりと笑んだハクアに、高瀬は沈黙。少ししてへらりと笑うと、食事の続きをするべく、席に座り直した。

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