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05.魔獣退治のその後の出会い

 魔獣が消えて暫く、痛いくらいの沈黙が周囲を包み込んでいた。誰も、何も言わぬ中、地に踞る高瀬を見つめるハクアは、少しして呆れたように腰に手を当て目を細める。


「……ヒサシ、いつまでそうしてるのよ。もう魔獣は倒したんだからいい加減落ち着くのね」


「む、むり……まだ肉斬った感覚が残って……おえっ」


「先が思いやられるのよ」


 話すふたり。そんな彼らの会話が聞こえたのかどうなのか、ちょうど魔獣の現れた方角から、誰かが恐る恐るとこの場にやって来た。でっぷりとしたお腹と今にも泣きだしそうな膨れた顔をしたその人物は、高瀬がつい先ほど見たふくよかな男だ。間違いない。

 男は恐怖により垂れる鼻水を啜りながら、そっと高瀬たちの方へ。ふたりの視線を受けながら落ちた王冠と赤いマントの傍に寄ると、それを指さし「こ、コレ僕のなんです……」と口にした。ハクアが興味なさげに返事をしている。


「あ、あの……先ほどのま、魔獣……アレをもしや、倒したのですか……? おふたりで……?」


「主にコイツの働きのおかげでね」


「な、なんと……!」


 ふくよかな男は「ありがとうございます!!」と勢いよく頭を下げた。おかげで命拾いをした、と告げる彼曰く、つい先ほどあの魔獣とエンカウント、殺されかけたそうだ。

 幸いにも光物に目が眩んだ魔獣のおかげでアイテムを犠牲に逃げることができたらしいが、それでもやはりこのアイテムたちは捨てきれなかったらしい。覚悟を決めて魔獣の隙をつこうと戻ってきたら、まさかの既に退治されていた、らしかった。


「……そんなアイテムのどこがいいのかしら。金にしかならないと思うのだけど……」


「ちょっとハクアさん」


「なによ。ホントのことなのね」


 ささっと落下アイテムを拾うふくよかな男。その姿をどこか呆れ混じりに見つめるハクアに高瀬が注意を促す。そんなふたりの様子に、男はアイテムを抱きしめながら言った。「これ、最初に入ったパーティーではじめて貰ったプレゼントなんです」、と。

 過去を懐かしむように目を細め、アイテムを抱きしめる彼は、その体躯は大きいのにどこか小さげだ。


「ぼ、ぼくはナヨナヨしてて弱虫でデブだからって、パーティーの人たちが勇気を出せってこれくれて……身に着けてみたら、みんなが楽しそうに笑ってくれて、それで、なんだか強い気持ちを抱けるようになって……パーティーからは追放されたんですけど、でも、思い出だからって……これだけは……手放せなくて……」


「……それ、笑い者にされただけじゃモガっ」


「あ、あー、良い奴らだったんだな!」


 慌ててハクアの口を塞ぎ笑う高瀬。冷や汗すら流しハクアの失言に震える、そんな彼に、「はい!」とうなずく男は元気だ。嬉しそうに笑っている。

 垂れる鼻水を勢いよく啜った彼は、「それで、おふたりはまた何故このようなところに?」と疑問を口にした。高瀬が苦し紛れに「ま、迷っちゃって……」と答えている。


「そ、そういうキミはどうしてココに?」


「え、えっと……この森に眠っているとされる天使を探して……」


「へ? 天使?」


「はい!」、とうなずく男。そういえば見かけたときにエンジェルがどうたら言っていた気がする、と高瀬は思考を巡らせ、やがてコクリと頷いた。

 男はにこりと笑い、「天使を見つけてきたらパーティーに戻してくれるって言われて……」とモソモソ言った。思わずハクアの顔が歪む。高瀬も思うところがあるのか、微妙な顔で頭をかいた。


「えーっと、それで……天使はその、見つかったのか?」


「いえ、僕の前には現れてくれなかったです……」


 しょもんと告げる男。大柄なそれが落ち込む姿はなんだか異様だなと、高瀬は戸惑いながら目線を泳がせる。


「そ、それは……えっと、ご愁傷さま……あーでも……そ、その天使って名前とかあるのか? 見た目的特徴とかは……」


「見た目も名前もわかりません。ですが、天使のように美しいと、聞き及んでおります。あと、確か、”賢神”とか言っていた気が……」


「ひえっ……」と思わず高瀬は鳴いた。賢神ってまさかとハクアを見れば、ぷいっと顔を背けられてしまう。どうやら彼女はこの流れを読んでいたらしい。すごく嫌そうにため息を吐き出していた。高瀬の顔が思わずと死ぬ。


「? どうかしましたか?」


 首を傾ける男に慌ててなんでもないと返し、高瀬ははやくこの話題を逸らすべく近場にある街を知らないか?、と男に訊ねた。男はそれに目を瞬くと、やがてにこやかに笑って「酒場の街がありますよ」と、根絶丁寧に教えてくれる。


 酒場の街……。


 高瀬は思わず想像する。しかし、聞いただけでは思いもつかないような街の光景に、彼はすぐに思考を止めた。そんな高瀬を知ってか知らずか、男は王冠とマントを身につけながら彼のことを振り返る。


「僕ももう帰ろうと思うので、よければ道中ご一緒しませんか?」


「あ、あー、頼む。俺ここの地理に疎いから……」


 ぺこりと頭を下げた高瀬。男は「もちろんです」と胸に手を当て微笑んだ。


「あなた方のことはきちんと街まで案内します。それでお礼になるかはわかりませんが……」


「いや、十分だ。ありがとう、キミ」


「……」


 驚いたように目を見開いた男。高瀬が思わず「えっと?」と目を瞬けば、男は慌てたように笑みを貼り付け両手を振る。「な、なんでもないです!」と笑う彼に頷けば、「ところでその……」と名前を訊ねられた。高瀬はかけたメガネの位置を正してから、「高瀬ヒサシ。こっちはハクアさん」と二人分の名を告げる。男はそれに、「ありがとうございます」と感謝を告げると、自らも名乗った。


「白柄木鉄平です」、と……。


「今時の名前にしては変ですけど、親が、その……鉄のように強くなりなさいとつけてくれた名前でして……」


「へえ、いいじゃん。俺は好きだな、鉄平」


「……ありがとうございます」


 へへ、と照れたように笑う。そんな白柄木に、高瀬は「じゃあ道案内よろしく、鉄平くん」と彼の肩を叩く。


「はい!!」


 頷く白柄木。明るく笑う彼を冷たい目で見つめるハクアは、人間の愚かさを哀れむように深く息を吐き出していた。

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