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04.契約と現実

「で? ヒサシのステータスはわかったのかしら?」


「一応?」と答えて、高瀬は声に指示されるまま「オフ」と発言。共に消えるアイテムブックとステータス画面。それを確認すると共にブツリと切れた声。大丈夫かと思いながらも特に言及することのない彼は、腕を組み、己を見ているハクアに目を向けた。


「で、さっきの悲鳴が気になるんだけど、もしかしてこの森の……ヌシ……ってのは、やばい奴なわけ?」


「そりゃあね」


「出会ったら死ぬレベル?」


「そうね。まあ、今遭遇してる奴は確実に死ぬと思うのよ」


「……」


 高瀬はどうすっかなー、と考えた。


 別に顔も姿も知らぬ他人を助けてもなんの得もないわけだし、無理に助ける必要性はないと思う。けれど、さすがに見捨てたとなると良心が痛む気もする。でも、万が一にもその可哀想な人物を助けに行って間に合ったとしても、戦える力もなにもない自分にはどうすることもできない。ならば潔く諦めるしかないだろう。なんたって、人間みな自分の命は惜しいのだから……。


「……ていうか、キミは戦えたりする系?」


「なにを当たり前のことを……そもそも、ハクアを起こした時点で、おまえも戦えるのは戦えるのね」


「うっそまじ? 年がら年中筋肉痛の俺が? 戦えるって? 冗談きついぜハクアさん」


「ホントなのよ」


 憤慨したように整った眉間にしわを寄せ、ハクアは言った。その美しい顔も相まって迫力ある怒り顔に、高瀬はつい謝罪する。


「ハクアを目覚めさせたヒサシはもうハクアと契約を完了してると言っても過言ではないのね。つまり、ハクアの力を半分ほどおまえは使うことができるのよ」


「……例えばどんな?」


「……これは実践の方が覚えが早いかもしれないのね。行くのよ、ヒサシ」


 言って、てこてこと歩き出すハクア。高瀬は訳が分かっていない様子で、とりあえず彼女の後を追った。若干忘れかけていた浮遊する光が、別れを告げるようにフルフルと揺れている。

 それに片手を振りながら、高瀬はその場を抜け出した。そして、来た道をもどるように前へ、前へ。そんな高瀬の前を、堂々たる態度でハクアは歩く。


「まず大前提として、ハクアがそんじょそこらの冒険者や魔獣如きに遅れをとるような生き物でないことは、その使えないであろう頭に叩き込むのよ」


「ほい」


「つまり、強い、とても強い。とてつもなく強いハクアは、契約の(かなめ)として己の能力を半分ほどお前に分け与えているのね」


「ほう」


「ステータスを見たならわかると思うけど、身体能力、かなり上がっていたと思うけどどうかしら?」


「んえ? そうなの? 確かに謎の色着いたバーはめっちゃ溜まってたけど、あれデフォルトじゃないわけ?」


「ハクアの力をデフォルト扱いするのはやめるがよろし。というか、おまえ、自分のステータスの変化にすら気づけないって……相当鈍感なのね」


「あー、鈍感……」


 確かに、付き合ったりする女性や同じ店で働く同僚からは「貴様は鈍感!」と何度も言われた記憶がある。そしてそんな、己が鈍感なことを言い訳に裏切られたことも山の如し。自分はそこまで鈍いつもりもないのだが、ゲームの中ですら言われるのだからわりと相当なのかもしれない、と今更ながらに彼は思った。


 戻ったらどうにかしよう。

 そうしよう。


 強く心に決めたとき、前方から足音。大きな、大地を揺らすようなその足音は、ゆっくりと、徐々に高瀬たちに近づいてきていた。


「ヒサシ」


 思わず固まる高瀬を、ハクアが呼んだ。それに慌てて彼女を見れば、美しい白銀の髪を揺らしながら、彼女は笑う。

 その、天使の如き笑みに目を見開く高瀬に、ハクアは言った。「怖がらずとも大丈夫」、だと。


「ココにはハクアがいる。だから、存分に練習するのよ。そして、知らしめるといいのね。おまえの力は、もはや最強レベルだと」


「……なにを──」


 ドシン、と一切大きな音をたて、彼、彼女らの前にソレは姿を現した。


 狼。一言で言えばそのような体躯の獣。しかし、その全長がかなりでかいことと後ろ脚の二本で立っているところを見れば、これが到底普通の獣とは言い難くなるのは仕方のないことだろう。

 グルル、と唸る、この世界ではじめてエンカウントした魔獣を前、高瀬は情けなくも足を震わせた。ガクガクと揺れるそれと共にガチガチと歯を鳴らせば、その様子に魔獣が気づいたようだ。ニタリと牙を見せて笑い、地響きをあげながら近づいてくる。


「おーおーどうした小僧? 怖いか? 俺様が。それはそれは……良い反応をありがとうなア?」


 ケタケタと笑い声を響かせながら、魔獣は高瀬たちに近づいていく。距離が縮まるに連れわかる、あまりにもつよい迫力と居心地が悪くなるほどの重い空気。これが殺気というものなのかは、それは分からないが、あまりにも気分が悪くなる。

 思わず口元を押さえる高瀬を庇うように、ハクアが彼の前に出た。小さな体で大きな魔獣を見上げる彼女に、魔獣はニヤッと笑みを落とした。


「あ? なんだちび助? 俺様に歯向かう気か? この、俺様に!」


 言って、高らかに笑う魔獣。ハクアはそんな魔獣に深く息を吐くと、天高く片手を上げ、思い切りそれを下へと振った。


「ギャッ!?」


 ゴオッと、噴き出したのは身を焦がすほどの熱い炎。まるで蠢く蛇のように魔獣を焼くそれを目前、硬直する高瀬にハクアは叫ぶ。


「『オープン』、と!」


「へ!?」


「はやく!!」


「は、へ……!? お、『オープン』!!」


 パカリ。


 なにかが開く音と共に、目の前に四角い穴が空いた。

 驚きそれを見つめていれば、ハクアが振り返ることなくまた叫ぶ。


「ヒサシ! 想像しろ! 今、おまえが欲しいものを! この戦いに必要なものを!」


「この戦いに、必要なもの……って……」


 突然言われてもそんなもの浮かばないと、オロオロする高瀬。そんな彼がもたつくのを好機と捉えたのか、炎を抜け出した魔獣がガパリと大きく口を開いてハクアに向かい駆けていく。


 即座に防御魔法を展開するハクア。すんでのところで防がれたものの、牙と爪でそれを破壊しようと押し込んでいく魔獣。


 高瀬は目の前の、到底現実とは思えぬ現実を目にしてから、そっと、目前の穴に手を伸ばした。

 そうして、そこから出てきた一つの光をわし掴むと、それを勢いよく掴み、引き抜いて見せる。


「いけ! ヒサシ! 跳べ!!」


 ハクアの声を耳、高瀬は強く地を蹴った。それにより、理解する。自分が、”超人的なまでの力”を手に入れたことを。


 遥か下に見えるは魔獣たちの姿。戦うそれらを見つめ、高瀬は手の中で形を成した剣を強く握ると、大きな声を上げながら魔獣に向かいそれを振るった。落下の力も加わり重い一撃となったその攻撃を受け、魔獣の体には大きな傷が斬り込まれる。


「がッ……は……、っ」


 たった一撃。たった一撃で白目を剥き倒れた魔獣。その姿が塵となり消え行った時、その場に残されたのは王冠と赤いマントだけだった。高瀬が剣を手に大きく呼吸を繰り返しているのをよそ、ハクアは落下したアイテムを見下げると沈黙。「魔獣の持ち物ではなさそうね」と口にした。


 青ざめ、今にも吐瀉物を吐きだしそうな高瀬は、真っ青な顔で腕を組むハクアを振り返る。


「まじゅうの……もちものって……ウッ!!」


「……吐きたいなら吐けばいいのよ」


「れ、レディの前で、それはさすがに……ッ」


 変なところで紳士的な高瀬に、ハクアは思わず鼻から息を吐きだした。

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