03.ある意味チュートリアル
それは、夢のように美しい、あまりにも現実的ではない見た目の、そんな、ひとりの少女だった……。
身長約百四十センチ程。
小柄な体躯に相反し、足元まで伸びるのはキラキラと輝く美しい銀髪だ。
宝石をはめ込んだかのように煌びやかなアメジスト色の瞳は、見る角度によっては桃色にも見え、とても不思議だ。真っ白な頬は仄かに淡く色づいており、それがまた愛らしかった。
そんな低身長の少女が身にまとうのは真っ白なワンピース一着。フリルのついた丈の長いそれは足元までは伸びていないにせよ、それなりの長さを保っている。細く白い足が惜しげも無く晒されるよりは目に優しいと、高瀬はポカンとしながら思考した。
「初めまして、なのね。タカセヒサシ」
少女がにこっと笑う。それはそれは可愛らしく。愛らしく。高瀬はそれにはわわ、と震えながらゆっくりと尻餅をついた状態から立ち上がると少女の前へ。己よりも随分と小柄な彼女を見下げて、「は、じめまして……」を口にした。少女が笑う。
「はい、ハジメマシテ。よくできました、なのよ」
「あ、どうも……うす……」
「で。食いしん坊のタカセ……ヒサシは、力の使い方はもうわかっているのかしら?」
「な、なんのこと、でしょう……? てか、俺そもそもこの世界のことすらなんも知らないんですけど……」
「この世界のことを、知らない……?」
驚いた。そう言いたげに、少女は目を見開くと沈黙。何かを考えるような動作をとった後、そっと顔を上げ、彼を見上げる
「ヒサシはもしかして、異世界人なのかしら?」
「ぷれいやー?」
繰り返される言葉。
少女はこくりと頷いている。
「ぷれいやー。ぷれいやー……は、そうなのか? これ、ゲームの中みたいだし、そう言われても相違ないような……」
「……異世界人なら、最初に基本書を読んでいると思うのだけど、それはどうしたのよ」
「ええ、まにゅある……? そんなの同封されてませんでしたが……?」
「……基本書は”はじまりの街”にあるのね。そもそも、異世界人というのは基本的に、件の街が存在する”はじまりの大地”から突如現れるとされているのだけれど……」
言いながら言葉尻を無くしていく少女。どこかアホを見るような目を向けてくる彼女に、高瀬は後ろ頭に手を当てながら悩ましげに一言。
「……よくわかんないっす……」
「……いいわ。じゃあ、ハクアが説明してあげるのね。よぉ~く耳かっぽじって聞くのよ」
少女・ハクアはそう言い、説明を開始した。
「まず、この世界は”ベクターン”と言い、多種多様な生き物が生息している世界になるのね。異形・獣人・人間・その他諸々……この世界にはたくさんの生物がいるのよ。──そして、この世界とは別の世界から来た人を、この地の者は異世界人と呼んでいるのね。異世界人はその殆どが特殊な力を持っているから、ベクターンではとても重宝されている、と言われているかしら」
「ほう。なるほど……?」
「……そんなベクターンには五人の神がいて、そのさらに上に創造主とされる者も存在しているのよ。ま、神はともかく、創造主には会わない方がいいと思うのだけど……」
「なにゆえ?」
「そりゃあ、創造主は恐ろしい生き物だからなのよ。なにせ、アレは魂そのものを喰らうと言われているから……」
それはおっかないと高瀬。よくわかってないなと、ハクアは呆れたように彼を見た。
「まあ、いいのよ……で、ココからは基本書に記載されていることなのだけど──異世界人となり得る人物は皆、クエストというものを課されるそうなの。そのクエストを達成するにつれ、異世界人は力を増し、また持つ能力も増えていくのだとか……あとお金もね。クエストは五段階のレベルがあり、レベル五になるとクエストをクリアすることすら難しいだけでなく、命を失くしてしまう可能性だってあるみたいね」
「へ~」
「……異世界人は基本的にはアイテムブックとステータスを現すことのできる”Sia”を持っているそうなのだけど……おまえもソレを、持っているんじゃないかしら?」
「ええ……別にそんなの持ってないと思うけど……」
言って懐を漁れば、出てきたのは先ほど拾った宝石とリングの指輪。シルバーに輝くソレはどう考えても高瀬の持ち物でないことは明らかだった。なんなら元カノの持ち物でもない。
高瀬は思わず指輪をハクアへ。受け取った彼女は、しばらくそれを観察した後、そっと指輪を彼へと返した。
「おそらく、それが”Sia”なのね」
「これが? どう見ても普通の指輪だけど……」
「とりあえずつけてみなさい。そうすればわかるのよ」
「ほう……」
頷き、そっと指輪を右手の人差し指に装着する高瀬。ココだけの話アレルギー持ちの彼だが、指輪をはめても珍しくかゆくはならず、それでいやに感動してしまった。
思わず「おお!」と目を輝かせた彼の耳元、機械的な声が『おはようございます』と音を発す。慌てて「おはようございます」を返せば、ハクアから不思議そうな顔をされてしまった。恥ずかしい。
ゴホン、と咳払いして、何事もなかったように振る舞う彼。そんな彼に、機械的音声は続ける。
『はじめまして、高瀬ヒサシ様。この度は”ベクターンオリジナス”への招待をお受けいただきありがとうございます。私はあなた様の基準装備品、”Sia”。ぜひ、シアとお呼びください』
「……」
『今回は高瀬ヒサシ様にわたくしの簡易的機能を紹介させていただきます。尚、機能詳細を見返したいときはいつでもお申し付けください。──では、手始めにアイテムブックの出し方からお教えしましょう』
言って、声は高瀬に『”アイテムブック・オン”』を発言するように指示。
高瀬はこれに戸惑いながらも、言われた通りに声と同じ言葉を繰り返した。
「わ!?」
ボフンと音をたて、手元に分厚い本が出現した。表紙にドラゴンのような何かが描かれたそれが、どうやらアイテムブックなるものらしい。光沢のある、滑らかな革製のその本は、どことなく古風な香りを漂わせている。
高瀬は『お見事です』と褒めてくれる声に感謝しながら、本を開いた。しかし、その殆どが白紙のそれには、先ほど拾った宝石と指輪の名前、アイテムの詳細、そして値段しか記載されていなかった。悲しい。
そして指輪は非売品らしい。売れないのか、とちょっと残念がった。
「ふむ、アイテムブックは出せたようなのね。じゃあ次に、ステータスはどうかしら?」
ハクアの声に頷き、なんとなしに「”ステータス・オン”」と発言。瞬間、目の前に現れた透明な画面に、高瀬は「おお!」と声を上げた。ハクアが不思議そうにしている。
『ステータス画面では、今の高瀬ヒサシ様のレベルやクエスト達成率、身体能力や職業などが確認できます。画面に直接触れることで操作可能ですので、ぜひ試しに触ってみてください』
「うっす」
頷き、宙に存在する画面に触れる。
スライドしていくと、確かに声の言うレベルやクエスト達成率、身体能力や職業などが確認できた。どうやら今の高瀬はレベル二十五らしい。わりとあるなと思いながらそのままスライドを続ければ、画面に『禁忌エリア』と記載されているのがわかった。これは……?
『ソレは今現在、高瀬ヒサシ様がいる地点を記しています。つまり、高瀬ヒサシ様は今現在、禁忌とされるエリアにいるのです』
「……それ大丈夫なやつ?」
「は?」
「いやこっちの話」
というか、ハクアには見えてないのか?、と疑問を抱いた直後、ひどい悲鳴がココから近い場所で上がった。劈くようなそれに慌てて振り返った高瀬に、ハクアが静かに言う。
「白銀の森の主でも現れたかしらね。ココを訪れたバカな冒険者が殺されていないといいけれど……」
「……このゲーム死ぬの?」
思わず告げた高瀬に、ハクアも声も、あたり前だろうと言いたげに「イエス」を返した。




