終幕
「なにこれ、夢?」
目が覚めて起きてみると、可愛らしい女の子になっていた。
状況に戸惑っていたら、目の前にA4用紙がひらひらと落ちてきた。
拾い上げて見てみると浮世絵とともに、達筆な文字で文章が書かれていた。
『お主たちでいう宝くじに当たった、とでも思って経験を積むなり、恋をするなり、楽しんでくれ。このままこの世界で生きたいというならよし、現実に戻りたかったらいつでも言ってくれ。』
どんな話?こんなことある?
神様にこんなことされる言われあるっけ...?
ワンチャンご先祖様が何かした可能性あるけどまあいいや切り替え、どうとでもなるなる。とりあえず楽しもうかな。私の容姿や外の景色とか見た感じ知ってる世界、というか身を捧げるほどに大好きな世界のようだし。
ただこの世界は強制力、貴族のしがらみ、魔族の強さ、文明、魔法の進み具合、etc...だとか色々複雑に絡み合ってて御するには面倒すぎるポジションに転生してるんだよね。悪役令嬢に。
下手に物語から逸脱するとここ、世界が終わるしなあ。たしかスピンオフの英語学習漫画でそんな展開になってたはず。
だとしても好きに生きれるっちゃできそう。
物語に感知しないところ、つまり裏側での行動は影響されてなかった。とスピンオフ作品の考察班と話してた記憶がある。かくいう私も考察班の1人。
だからメディアミックスされてたゲームのグリッチとか攻略本に書いてた隠し要素とかを余すことなくゲットしよう。
悪いことをするのが1番楽しいからね。ふふふ
ひとまずこの紙を大切に保管して、ありがたいから毎日お供物でも捧げようかな。
「誰かいないの?」
部屋の外に声をかけるとガタンという音と共にメイドさんが1人来てくれた。
「お呼びですか?お嬢様」
お、おお、明らかに動揺してそうなのにポーカーフェイスで頑張ってるよメイドさん。
「これを額に入れたいから用意をお願いできる?」
「かしこまりました」
一礼してメイドさんは出ていく。
その足取りは優雅から少しはみ出してどたたたとかけていった。そこまでビビるかな!?
後で盗み聞いた話だと私が覚醒する前は、なんか私、無表情無感動で授業とか受けて過ごしてて、古代兵器お嬢様とか言われていたみたい。そりゃビビるね。
絶対神様の仕業。
まあ、まだ覚醒したのが3歳だからセーフかな。
それでも両親たちは私に愛情を注いでくれたのは心底嬉しい。
というかあれ...?確かこの世界の物語ってゲームも全部インディーゲームとかで作成してるのが1人だったはずで...あれ...?
そ、そんなこともあるよね。
さてさて、いっちょ世界を冒険しますか!
悪役令嬢ロールプレイもしつつ、可能な範囲で世界の表も裏も歩き回ろう!
手始めにダンジョンから、と愉快に私は物語を進めていった。
せっかくだしお嬢様口調にしておきますか、淑女教育でも指摘されてるし。
冒険の道中、物語のどこにも明確に記載されていなかった神代の悪魔と契約をして従者にしたわ。
びっくり。旅の仲間ができて本当に嬉しいことね。
どうしてか、一緒にいてとても楽しいわ。
春風吹き荒ぶ夏中、これほど清々しい日はあっただろうか。
私にとって輝かしい日にはピッタリの日よ。
待ち望んでいた。待ち望んでいた時が来た。
終わった、終わったのよ。
これでようやく私は両手を広げて好きなことをやることができるわ。
この開放感をなんと言えばいいの。
試験勉強に明け暮れて合格発表を受けた時の高揚感?
それともつまりにつまれた書類仕事をほってもいい定時が来た時の仕事という鎖を外された感覚?
もう何も、何も最高よ!
早速取り掛からなきゃいけないわ!
もう用意は終わらせてるのよ!
これまでの我慢はこのためよ!
触らないように金庫に入れていた本だって読むわ!
魔道具だってアイデアが溜まりすぎて触らないように紙に書いて鍵付きの引き出しに入れていたのだもの!
封印の魔法付きよ!だってあったら触ってしまうもの!
やっとよ!やっと!!!
嬉しいわ!!
「あなた!早く行くわよ!」
「お嬢、待ってくださいよ。私にも速度を合わせてください」
「あ、悪いわね、つい気が早ってしまったわ!」
従者に引き止められて慌てて速度を合わせる。
終わったからといってすぐに家に向かって走るものではないわね。危うく従者を忘れるところだったわ。
「貴族令嬢が夜中に走って家に帰るのもやばいですけど、そんなに急ぐ必要あるんすか?急がば回れって知ってます?」
「善は急げとも言うでしょう?それに解放された私は誰にも止められないわよ!」
流石に令嬢の体裁は保つために、走るとは言っても可愛い可愛い魔獣ちゃんに騎乗した状態だからどうということはなく優雅よ。
数分とたたずに自宅へと帰還したわ。
両親たちも皆寝静まっているからとても静かで暗くなっている。
起こさぬようにと2人して顔を見合わせて進んでいくわ。
領民たちや両親ともお別れはとうにおわらせて、あとは部屋に用意したものを持ちだすだけよ。
全て持ってあとは家を出るだけというところで門のところに人影が見えた。
よくみてみると父様だった。
「驚いたわ!もう寝ているとばかり!」
カバンを置いて駆け出し父様にさっと飛びつく。
父様は気にせずにいつものように私を抱き上げて、力を逃すようにくるくると回る。
「大事な愛娘の出立だ。見送らないわけがない。」
「ふふ、ありがとう。私、素敵な旅をしてくるわ」
互いに親子の親しい掛け合いをしていく。
「ああ、存分に楽しんでいってくれ。たまに手紙をくれよ?みんなを安心させてくれ」
「あら、便りがないのが良い便りだなんていうのに、仕方ないわね、たまになら送ってあげるわ」
「ああ、頼むよ。さ、行ってらっしゃい」
少し拗ねたようにいう私に苦笑いと愛しさを乗せて目を細める父様。
私は親愛を込めたカーテシーをして、その場から立ち去る。
涙は流さないわ。これが最後だというわけでもないもの。また帰ってくるのだからね。
従者は何も言わずに共にかけていってくれる。
何やら父上と瞳で会話をしていたようだけど、知らないでおこうかしらね。
「さあ!まだ見ぬ秘境を探しに行くわよ!」
「ご随意に。お嬢様。どこまでもついていきますよ」
子供らしく腰に手を当て、力いっぱいの笑顔黙って意気込みを世界に知らしめる。
一歩後ろに下がる執事は芝居のように恭しく令嬢の手を引いて進んでいく。
天も虹を湛え、2人の行く末を祝福していた。
既知のシナリオは終幕を迎え、深く待望された1人の令嬢と1人の執事の物語が新しく始まったのだ。