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第3話 森の王「ユグリード」癒される

 フロステリアとの別れから数日後。

 アルドはすっかり気を良くし、新たな土地へと足を踏み入れていた。

 そこは、鬱蒼とした森の中にある、「眠れる森の巨竜」が棲むという聖域だった。


「よし、今度は森属性、いや、植物属性のドラゴンかもしれないな……!

 もしや、触手系まであるか……!? はぁはぁ……」


 息を荒くしながら、森の奥深くに進むアルド。

 途中、ツルが絡みついてきたり、妙に湿っぽい空気に包まれたりしながらも、まるで気にしない。

 むしろ嬉々として進むあたり、もはや感覚が常人のそれではない。



 そしてついに、目の前に広がったのは、巨大な樹木に寄り添うように丸くなったドラゴンの姿だった。

 その体は緑と茶色が織り交ざり、鱗というよりも苔や樹皮に覆われているようにも見える。

 大地と完全に一体化しそうなその姿は、生命の源たる大樹の守護者そのものだ。


「うおぉ……これぞ、森のドラゴン! 名は何だ……?」


 アルドがうっとりと呟くと、ゆっくりとその巨体が動き出す。

 まるで地面そのものが揺れるような、重厚な音とともに、その竜は頭をもたげた。

 瞼を開けると、そこには翡翠色に光る瞳。


「……人間か。よくぞ、ここまで来たものだな」


 その声は低く、どこか眠たげで、耳の奥まで響くようだった。

 まるで風が森を撫でる音のようにも聞こえる。


「おお……おれはアルド・ドラゴンスレイヤー!

 今日は、お前を愛しに来た!!」


 即答。ブレない。

 どのドラゴン相手でも同じテンションなのが、むしろ凄みすらある。


「……は?」


 ドラゴンの動きがピタリと止まる。

 その名は「ユグリード」。森の王とも呼ばれ、千年の眠りから目覚めたばかりらしい。

 さすがの古竜も、アルドの言動には固まらざるを得なかった。


「愛だ! 見ろ、この手!」


 アルドは得意げに、泥だらけの手を差し出す。

 だが、そこに握られているのは、なぜか大量の「栄養たっぷり腐葉土」。


「お前の鱗には、森の滋養が必要だろ?

 おれは準備万端だ! この手で、お前をもっと……もっと豊かに育ててやる!」


「……お前、何者だ?」


「ドラゴンを愛する男さ!!」


 声は無駄に爽やかだが、内容は完璧に変態である。

 ユグリードはしばらく絶句した後、ゴリゴリと首を鳴らしながら呟いた。


「私は、戦いに来た人間としか会ったことがない。

 それがまさか……肥料を持って愛を囁く者とはな……」


「それが、おれだ! どうだ、ちょっと興味湧いただろ?」


「いや、湧かない」


 即答でバッサリ。だが、ユグリードの尻尾が微妙にゆらりと動いているのをアルドは見逃さなかった。


「じゃあ……こうしよう。まずはこの栄養を、お前の根っこに塗り込む。

 それで気持ちよくなったら、おれの勝ちってことで!」


「勝負ではないが……ふむ、まあ、よいだろう」


 ユグリードは少し考え込むように目を細めたが、すぐに地面にごろんと横になった。

 巨大な身体が土に沈み込み、根のような尻尾がしなやかに伸びる。


「お前のような変わり者は、千年に一度も出会えまい。

 ……好奇心には勝てぬな」


「それでこそだ! じゃあ、いくぜ!」




 アルドは腐葉土と特殊肥料を混ぜ、丁寧にユグリードの尻尾や足元、果ては腹のあたりにまで塗り込んでいく。

 巨大な身体にもかかわらず、細かい鱗の隙間にまできっちり詰め込むというこだわりっぷりだ。


「どうだ? 気持ちいいだろう?

 おれの手さばきは、国家資格レベルだからな!」


「む……たしかに、暖かい……。血の巡りがよくなるようだ」


「そりゃそうだ。おれはお前の生命そのものに触れてるんだからな!」


 気持ちよさそうに目を閉じるユグリード。

 その息遣いは次第に深く、満ち足りたものになっていく。


「……これは、なかなか癖になるな」


「だろ? おれは一度やったら、ドラゴンはみんなおれのトリコになるって評判なんだぜ」


「……貴様、前にも同じことをしたのか」


「おう、今まで99体だ! お前は、記念すべき100体目だ!」


「な……!」


 驚きと同時に、ユグリードの巨体が一瞬震えた。

 だが、アルドの手が再び滑らかに動くと、すぐにその表情はうっとりと緩んでいく。


「……く、悔しいが……お前の手は……悪くない」


「へへっ、愛してるぜ、ユグリード」


「……バカめ」


 だが、その声はどこか、くすぐったそうだった。




 数時間後。

 すっかり「手入れ」を終えたユグリードは、森の中で静かにまどろみ始めた。

 その表情は安らかで、あの眠たげな目も、今はどこか幸せそうだ。


「また、来てもいい……その時は、もっと肥料を持ってくるといい」


「もちろんだ! さらにパワーアップした愛を持って、戻ってくるさ!」


「ふふ……楽しみにしているぞ」




 こうして、アルドはついに「ドラゴン100体斬り(性的な意味で)」を達成した。

 だが、彼の旅はまだ終わらない。

 次なる未知のドラゴン、そしてさらなる変態的愛を求めて──。


「よーし、次は天空のドラゴンでも狙うか!」


 爽やかに吠えるその顔は、誰がどう見ても変態だった。

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