第1話 炎帝「ラーヴァ」堕ちる
青空の下、風がやたら爽やかに吹いている丘の上に、ひとりの男が立っていた。
「よし、今日こそは伝説の100体目に向けて、一歩前進だな!」
その名はアルド。見た目はそれなりにイケメンで、背は高く、筋肉は引き締まり、剣の腕も一流。
ただし──とんでもない変態である。
何せ彼の旅の目的は「ドラゴン100体斬り」──ただし、「斬る」といっても、物理的に倒すのではない。あくまで性的な意味での「攻略」である。
「待ってろよ、ドラゴンたち!おれの熱い……愛を受け止めてくれ!」
叫ぶアルドの目は、太陽以上にギラギラと輝いていた。
そんなこんなで、アルドが次に訪れたのは、ダルグ火山地帯。
赤黒い大地に、熱風が吹きつけるその場所に、今日のターゲットはいた。
「ほほう……あれが炎帝の異名を持つ『ラーヴァ』か」
岩の上に寝そべっている、真紅の鱗を持つドラゴン。その瞳は金色に輝き、巨大な翼は悠々と広がっている。力強くも美しいその姿に、アルドは目を細めた。
「美しい……この世の理想だ……」
いや、たぶん理想の形がちょっとズレてる。そんなことはどうでもいい。アルドは地を蹴り、一気にラーヴァの前まで躍り出た。
「炎帝ラーヴァ!おれはアルド・ドラゴンスレイヤー!貴様を……愛しに来た!!」
ゴォォォッ、と地面が揺れた。ラーヴァが大きな顔をこちらに向け、眉をひそめる。
「……ふむ?貴様、命知らずの人間かと思ったが、耳を疑うことを言ったな?」
「疑うな!おれは真剣だ!おれの心は、常にドラゴンのために燃えている!」
手を広げて堂々と叫ぶアルド。まるで勇者然としているが、その目はいやらしさ満点だ。
「……くだらん。人間風情が私を手籠めにできるとでも?」
ラーヴァは大きくため息をつき、まるで興味をなくしたように翼を畳もうとした。
だが、そこでアルドがにじり寄る。
「炎帝ラーヴァ、お前の孤独は、おれには痛いほどわかる。何百年も生きて、誰にもその炎を理解されなかったんだろ?」
「……!」
金色の瞳がわずかに揺れた。
「強すぎる力は孤独だ。誰も近づかないし、誰も触れてくれない。だからお前は、ずっとひとりで……寂しかったんじゃないのか?」
ラーヴァの巨大な爪が、そっと地面を掻く。その仕草は、戸惑いに満ちていた。
「そ、それがどうした?貴様には関係ない……!」
「あるさ!おれは、そんなお前を理解したいんだ!」
アルドは懐から、妙に高級そうなオイルを取り出す。
「見ろ、この『ドラゴンスケール専用マッサージオイル』!竜族の皮膚に潤いとツヤを与える、王国認定の逸品だ!」
「……なっ!?」
「試させてくれ。お前の鱗を……その炎を、誰よりも丁寧に愛でさせてくれ!」
ラーヴァの顔が赤くなる。いや、元から赤いのだが、耳元が微妙に蒸気を吹いている。
「バ、バカな!私の鱗に触れられるものなど……!」
「おれならできる!いや、やらせてくれ!」
グイッと迫るアルド。ラーヴァは大きな翼をパタパタさせて後退するが、その巨体がバランスを崩し、ドシン、と座り込んだ。
「……ぐ、偶然だ!バランスが悪かっただけだ!」
「ふふっ、かわいいな。大丈夫、おれは優しいぞ。痛くしない……むしろ気持ちよくさせる!」
「ば、ばかなことを!」
ラーヴァはしばらく口をパクパクさせていたが、ついに観念したように、ゆっくりと翼を広げた。
「……ほんの少しだ。試してみてもいい……だが、調子に乗るなよ?」
「任せろ!おれは紳士だ!」
その後、ラーヴァの鱗を一枚一枚丁寧に磨き上げ、オイルを塗り込むアルド。
ラーヴァは最初こそ警戒していたものの、だんだん目がトロンとし、ついにはうっとりとした表情に。
「ん……そこ、もう少し優しく……」
「お、おう、加減が難しいんだよな、固いけど敏感だし」
「ふぁ……うむ、なかなか心得ているな……」
そうして、アルドはラーヴァを完全に骨抜きにしたのであった。
数時間後。
「ふう……いい汗かいたぜ」
アルドは満足げに腰を伸ばす。その後ろで、ラーヴァはぐったりと地面に横たわり、尻尾を小さくパタパタさせている。
「……貴様、なかなか……やるな」
「おれを誰だと思ってる。ドラゴン専門、ドラゴンスレイヤーのアルド様だ」
「くっ……人間ごときにこんな……」
ラーヴァは照れたように目を逸らし、翼で顔を隠した。
「でもまあ……悪くは、なかった」
「へへっ、次はもっとすごいのやろうな」
「な、何を……!」
「いやいや、楽しみにしてろよ。次はもっと情熱的に、火傷するくらい愛してやる」
「バカめ……!」
だが、ラーヴァの目はほんの少し、期待に輝いていた。
「よし!次のドラゴンを探すぜ!」
アルドはラーヴァに手を振り、再び旅立つ。
彼の変態的冒険は、まだまだ続くのであった。