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ミーコ、ローグのキャンプに参加する


「じゃあ、僕はこの辺で帰りますね」


 そういってニアンはローグにそう言った。


「とにかくネロウ様と平和的な解決をしてくれたらうれしいです」

「あいつが俺の話を聞いてイリスを返してくれたらね」


 ニアンは「やれやれ」と肩をすくめて、ミーコの方に行き「じゃあ、頼みましたよ! ミーコ様!」と期待しているとばかりに目力を入れた。


 正直、そんな目をされても困る。絶対に無理だもん。ローグってネロウ並みに頑固そうだから。


 ミーコは心の中でつぶやく。


「あれ? ミーコは帰らないんだ」

「一応、あんたは私たちの王を倒すテロリストなんだから無視できないもん。と言うか、いつの間にか呼び捨てにしているね」

「あ、ごめん」

「もういいよ」


 パチパチと拍手のような音が焚火から聞こえる。そして焚火の周りにはローグがさした二本のチーズの棒があった。火に浴びたチーズはトロトロと解け始めている。焼けたチーズの香りがミーコの鼻をくすぐり、クッキーを食べたばかりなのにお腹が空いてしまった。

 ローグは「もういいかな」と呟いて、棒を取ってチーズをパンに置く。


「熱いから気を付けて」


 そう言いながらミーコにチーズパンをローグは渡す。「ありがとう」と言ってミーコは受け取り、匂いを嗅ぐ。トロトロに焼けたチーズがパンに染み込んで美味しそうだ。ミーコはふうふうと冷まして食べる。


「んー! おいしい」

「あれ? 猫舌じゃないんだ」


 不思議そうにローグが見たのでミーコは得意げに「まあね」と返事をする。

 猫の獣人は猫舌で熱い食べ物は苦手と思われているが、それは野生の本能が強い者のみで、ミーコのように本能が弱い者は普通に食べられるのだ。

 その後もパクパクとミーコが食べる。それを見ながら、ローグもチーズパンを食べながら聞いた。


「ところで俺と結婚したいんだっけ? ミーコって」

「ムウ!」


 いきなりそんなことを言うもんだからミーコは驚いてしまった。


「だってさっきも言っていたじゃん。結婚しましょうって」

「ネロウを倒してイリスを助けるって言うまでは、あなたと結婚しようと思っていたわよ」

「じゃあ、今はしたくないのか」

「なんであんたは結婚にノリノリなのよ! イリスを助けるのは婚約者だからでしょう! 助けた後、イリスと結婚するんでしょう」

「え、しないよ」


 衝撃的な発言にミーコは「どういう事?」と聞く。ローグは伸びるチーズパンに悪戦苦闘しつつ語る。


「俺はまだ十四で一人前じゃないから、まだ結婚できる年じゃない。だから俺が一人前になる前にイリスが王都に行ってもらえればいいかなって思っていたんだ。そのためにはお金が必要だから、魔物とか竜とか倒してに商人に売って稼ごうと計画していたのに、ネロウの奴が!」


 なんだ、ローグはイリスと結婚したいわけじゃないんだ。ただ昔言っていた夢を叶えてあげようってだけなんだ。

 それを聞いて、ちょっとホッとした。……あれ? なんでホッとしたんだ?

 こいつはネロウを狙っているテロリスト! そう! ネロウ並みに乱暴な奴なんだ! 私は恋愛小説に出てくる優しい人と結婚するんだ!


 そう気持ちを強く持ってミーコはローグが話したイリスの夢計画を考えて、口を開く。


「でも魔物とか竜とか倒しても大学に行くお金はすぐにたまらないでしょう。数年かかかっちゃうわよ」

「……」

「それに魔物と竜の乱獲はいけないってネフェリムの民とうちの国で決めたでしょう。いっぱい取ると森や山に生態系に問題が出ちゃうって」

「……」

「あと、ここから王都へ行くためにはかなり遠いよ。その旅費とかも稼がないといけないよ。あと生活費とかも」


 ミーコの現実的な話しにローグは不機嫌な顔でパンを噛みしめ、黙る。どうやらそういったことは考えていなかったようだ。

しばらく二人は黙って、パンを食べる。焚火の音のみが森に響き渡る。


「あのさ、ローグ。イリスとお話しした?」

「……実はネフェリムの民になった時からあまりしていない」

「え? なんで?」


 ものすごくローグは難しいような、恥ずかしいような顔になって「どう話せばいいか、分からなかった」と言った。


「イリスは年上で頭がいいから、バカなことを言って失望されそうとか嫌われるとか色々と考えちゃって……喋れなかった。昔はそんな事を考えたことは無かったけど、数年前からイリスが喋る話がしっかりしているって思って……。俺が喋る言葉すべてがバカっぽく思えてきちゃったんだ。もちろん、イリスの陰口をいう奴は懲らしめたし、『そういう言葉を気にするな』って言ったこともある。だけどイリスから『王都へ行きたい』って言葉は聞いていない、んだ」


 小声で言うローグにミーコはちょっと驚いた。


 なんか私が読んでいる恋愛小説のヒロインの子と同じ事を考えている。色々と考えを巡らして、嫌われるとか恐れて、空回りして……。つまり恋愛小説のヒロイン並みにローグはイリスの事を思っているのだろう。


 そう思うとローグの事に親近感を覚え、好きな子ができた友達にアドバイスするように話し始めた。


「ねえ、ローグ。ネロウを倒す前に、イリスとお話ししましょうよ」

「はあ? なんで?」

「だって突然、ネロウを倒して助けに来たって言っても戸惑うだけじゃない? まずはイリスとお話ししてからにしようよ。ネロウを倒したって言ったら、もしかしたらイリスに嫌われるかもしれないよ」

「う! ……でも」

「恥ずかしいの?」

「恥ずかしくない!」

「だったら、お話ししてイリスの気持ちとかちゃんと知ってから動こうよ。朝早くに行けばネロウも寝ているから、私がイリスを呼んで一緒に話し合える場を作ってあげるから」


 ローグは少し考えて「分かった。そうする」と言った。





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