ミーコ、ニアンにローグを止めろと説得される
ローグはムウっと難しい顔になって考えていると、ニアンが時計を出して「おや、もう夕方になっていますね」と言った。
ニアンの言葉で気づいたが、薄暗い森はすっかりと真っ暗になってしまった。枝と葉の隙間から見える空には一番星が見えている。
「ローグ、もう夜になるから帰ったらどうですか?」
「あ、大丈夫。キャンプ用具を持ってきているから」
「……もしかして、朝一でネロウ様に戦いを挑むつもりですか?」
呆れた顔でニアンが質問するとローグは「当然!」と答えた。
「ネロウの野郎は夜行性だ。つまり夜に活動するから朝は辛いはず。そこで戦いを挑む!」
自信をもってローグは言い、ニアンは「マジですか」と呟いた。
***
「いやはやミーコ様、責任重大ですぞ」
ニアンは真剣な顔になり小声で言った。目線の先には今夜寝るためのテントを張っているローグだ。
「ミーコ様の愛の力でローグを止めてくだされ」
「……えー、無理そうだよ」
「そんな事はありませんよ。今こそ僕が売った恋愛小説を活用して、ローグの心を落とすのです。そして愛の力で戦いをやめさせるのです」
「あのさ、恋愛小説のヒーローはみんな王子様か貴族よ! そしてあいつはネロウを狙うテロリスト! 参考すらできないわ!」
「大丈夫です! 愛の力は無限大なのです!」
愛の力を誇張するニアンにミーコはちょっとうんざりする。
ローグが張っているテントを見ると、なんだか絨毯のような布を使っているような気がした。そしてローグの姿を見ながらミーコは「そもそもさー」と話す。
「あいつって、本当に強いの? 古き巨人の子孫とか言われているけど、私より少し高いくらいじゃない。ネロウよりも低いし、体もがっちりしていないし」
「古き巨人云々はこの山々の近くに住む人々が言っているので、ネフェリムの民自身は言っていませんよ。小山ほどの岩を持ち上げているのを遠くから見て、この森には巨人がいると思われていたとか……」
「でもそんなに怪力を持った人間には見えないわ、ローグって」
テントが完成して満足そうに見ているローグ。嬉しそうに笑う顔は年相応な感じだ。でも強そうには見えず、「普通の少年って感じだよね」とミーコは言った。
するとニアンは「そうですよ」と返事をする。
「冒険小説が好きな普通の少年です。だけど戦闘センスは群を抜いて優れています」
「確かネロウのように一人で竜を討伐できるですっけ」
「そうです。ネフェリムの民ですら数人で竜を討伐します。一人で倒せるのは長や限られた者のみ。でもローグは最年少で竜を一人で倒せました」
そしてニアンは「それに……」と言葉を続ける。
「彼は獣人に詳しくないはずなのに、ネロウが夜行性と気づいていたでしょう」
「確かに。野生の本能が強い者はみんな夜行性って言うのはあまり知られていないのに」
「そうです。戦闘センスに加えて彼には観察力もあるんです」
テントの隣に焚火を作るローグを見ながら、ニアンは「ネロウとどっちが強いかな?」と呟く。ニアンは肩をすくめて答える。
「分かりませんね、こればっかりは」