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ミーコ、ローグにプロポーズする


「ちょっと、ちょっと待って!」


 ズンズンと突き進むローグにミーコは慌てて追いかける。ネフィリムの民と猫の住人は交流が少なく行き来することがあまりない。だから猫の国へ行く道は必然的に獣道のようになっている。

 こういった道を歩くのは慣れているのか、茂みをざわざわと突っ切るローグの足取りはしっかりしていた。だが猫の国の子爵家のご令嬢であるミーコは慣れていないようで、足取りは不安定だった。


「ちょっと! 待ってよ! ぎゃ!」


 ついに木の根に躓いてミーコは派手に転んでしまった。

 ミーコの悲鳴でようやくローグは振り返って、ミーコの元に戻り、起こすのを手伝った。


「……大丈夫?」

「大丈夫」

「よくそれでここまで来れたな」

「……ニアンに連れて行ってもらったの」


 ニアンの名前にローグは「ああ、あいつね」と言う。

 ニアンは気難しいと言われる猫の獣人でありながら人懐っこく、社交的な商人だ。猫の国やネフェリムの民、他にも都市部にも商売をするため足を運ぶ。

 彼が持ってくる商品は珍しく、ネフェリムの民もニアンが来るとすぐに集まってくるくらい人気だ。それにこの森の歩きやすい場所も熟知している。


「ところでミーコさん、なんでネフェリムの民の丘にいたの?」

「ああ、それよ!」


 思い出したようにミーコは胸を張って優雅に答えるようとするが、頭に葉がついていてちょっと間抜けな感じになっていた。


「ねえ、ローグ。私も婚約者を失ってしまったの」

「ふうん」

「もう少し興味持って聞いてほしいんだけど」


 ミーコの要望にローグは「分かった。興味を持つよ」と言い、彼女についていた頭の葉を取ってあげた。


「私の婚約者、ネロウなのよ」

「え?」

「だけどあいつは【運命の番】が見つかったからって私との婚約を破棄したのよ!」

「最低だな」

「でも、これって好都合じゃない?」


 ミーコの言葉にローグは意味が分からず首をかしげる。その反応にミーコはフフンと得意げな顔になってこう宣言した。


「私たち【運命の番】によって婚約者を失った。失ったもの同士、痛みを一緒に癒して私たち結婚しましょう!」


 ミーコの言葉にローグはキョトンとした顔になった。その顔にフフンと満足そうに見ていたミーコだったが、突然ローグに「かがめ!」と言われ無理やり肩を押さえて屈まされた。

 しゃがんだミーコにフワッと大きな黒い布を被せ、自分も中に入った。ローグに体を密着させて布を被せられたミーコはパニックになった。


「ちょっと! なんなのよ!」

「シー、静かに」


 びっくりするくらい顔を近づけてミーコに忠告するローグ。突然の事だったので、ミーコは素直にローグの言葉に従った。

 布の中は薬草の臭いでミーコはちょっと顔をしかめる。だがそれ以上にローグはなぜか腕を回してミーコの体を抱き寄せる。だから否応なくミーコとローグは体をくっつけていることになり臭いは気にならず、恥ずかしさでいっぱいだった。


 ……いや、結婚しようって言ったけどさ。なんでこんな事するんだろう……。


 ミーコは顔を真っ赤にしてそう思っていると、風を切る音が聞こえてきて思わずミーコの尻尾がブワっと太くなった。


 竜だ!


 そう分かった瞬間、心臓がギュウっと縮んで体が震える。猫の獣人で竜を恐れずに倒せる者は少ない。女の子や子供なんて恐怖で動けなくなってしまう。

 怖くて泣きそうになっているミーコにローグは「大丈夫」と呟いた。


「あいつは俺たちに気が付いていない。山に帰ろうとしているところだろう。それにものすごく空腹でなければ、竜は襲わないよ」

「……」

「襲ってきても、俺が倒すから」


 ローグの言葉にミーコの心は安堵する。そしてその言葉に懐かしさも感じた。

 ネロウは竜を倒せる者の一人だった。婚約者だった頃、竜におびえるミーコにネロウもローグと同じことを言ったのだ。その言葉にミーコはいつも嬉しかったし、安心したのだ。


 あいつと同じことを言っている。


 それに気が付くとミーコはちょっと顔が赤くなった。

 しばらく布を被って隠れていたが、ローグは「もういいかな」と言って布から出た。ミーコは空を眺めるローグに「ありがとう」と小さく言う。だがローグには聞こえていない。


「もう竜は居なくなったから、隠れなくて大丈夫だ」


 もじもじしているミーコの尻尾にローグは興味津々に見て、口を開いた。


「尻尾が太くなっている」

「あ、びっくりすると毛が逆立つから……」


 そういって毛羽だった尻尾をミーコは恥ずかしそうに直す。それを見てローグは「ねえ、尻尾を触ってもいい?」と聞いた。


「尻尾? いいよ、触って」

「ありがとう。わあ、フワフワ」


 目を丸くしてミーコの尻尾を触るローグ。子供っぽい表情のローグにミーコはちょっと微笑む。そしてローグは尻尾を触っていると「そういえばさ」と話し出す。


「猫って尻尾の付け根をトントンすると喜ぶけど、猫の獣人もそうなの?」

「……」

「叩いてもいい?」

「触るな! スケベ野郎!」


 シャーっと威嚇するミーコにローグはびっくりする。


 こいつに一瞬でも、ときめいた私がバカだった!


 ミーコが怒るのも無理はない。猫の尻尾の付け根をトントンすると、性行為に似た刺激で気持ちよくなるのだ。



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