ミーコ、ローグに別れを告げる
イリスと話したローグは、ネロウと二人で嫌々謝罪をした。
「すいませんでした」
「悪かった」
謝罪の言葉を述べてはいるが、心はこもっていないなとミーコは思う。それでも仲介役したイリスは満足そうに笑っている。
そうしてローグは帰る準備を始めた。
「なあ、イリス。この眼鏡ってやつ、取りたいんだが」
「似合っていますよ、ネロウ。それに目が悪いんですから」
「でも邪魔だ!」
「駄目ですよ。ネロウは【運命の番】を臭いで判断していますが、これからは姿も見てほしいんですよ」
「むう、そうか」
眼鏡を取りたいネロウと勧めるイリス。なんやかんやで仲は良さそうである。
それを遠い目で見ながらローグは荷物をまとめる。ズズッと鼻をすすりながら。ミーコはぼんやりとローグを見ていた。
「ローグは帰るの?」
「うん。イリスも元気そうだし、イリスの前だとネロウは黒猫になるから」
ローグの言葉にミーコはちょっとクスっと笑う。確かにクロヒョウの怖い顔をしているネロウだけど、イリスの前だと黒猫である。
冗談を楽しく言っていたが、もう一度イリスの方に目を向ければローグはものすごく切なそうな顔になって鼻をすすっている。
ミーコはイリスの「ずっと前から私たちもっと素直に話せていれば良かったね」という言葉を思い出す。
ローグが素直に自分の気持ちを言っていたら、イリスはネロウの【運命の番】から逃げたのかな? そして今もローグはイリスの事を思っているのかな?
そう思った瞬間、ミーコの胸は苦しくなった。
……ん? なんでこんなに胸が苦しいんだろ。まるで【運命の番】が離れたみたいじゃん。
ミーコは野生の本能が無い方だし、ローグと最初に会った瞬間は何にも思わなかったのに。なんで、今、胸が苦しくなるんだろう?
理解できない苦しみにミーコは戸惑っているとローグが「ミーコ」と言った。
「色々とありがとう」
「え? 何にもしていないよ?」
「いや、俺の気持ちをちゃんと聞いてくれたりしてくれただろ」
「……あなたがくれたチーズとパンのおかげ」
可愛らしくないミーコの返答にローグはクスクスと笑う。
「また遊びに来なよ。イリスと一緒に」
「……イリスと一緒だと、ネロウもおまけでついてくるよ」
ローグはちょっと難しそうな顔で「確かにそうだな」と言い、ミーコはちょっと複雑そうな思いになった。
と言うかネロウどころかイリスも一緒じゃなくて、一人で行きたいな……。
ミーコがそう思っているとローグが「おい! ネロウ!」と言った。
「イリスを大切にしろよ! やっぱり【運命の番】じゃないって言って傷つけたら許さないからな!」
「言われなくても、大切にするわ!」
「じゃあ、イリス! また」
「ええ、またね」
ネロウとイリスに別れを告げた後、ローグはミーコと向き合って手を握った。
「本当にありがとう、ミーコ」
「うん。またね」
「ああ、また会おうね」
ローグがほほ笑みミーコの心がドキドキする。そして手が離れるとちょっと切なくなってきてしまった。
変な気持ちだとミーコは戸惑い、また絶対にローグに会おうと思った。
これが恋って言うものだとミーコが知るのはもう少し先の話し。