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婚約式の波乱Ⅱ

突然のエドワードの婚約破棄もしかねない婚約式の中断、ルナの失神とせっかくの慶事が台無しに。



あの美しい瞳は瞼に閉ざされたままピクリとも動かない。

あれから五日後になるのにまだルナは目が覚めていないからだ。


あんな衝撃的な出来事があったのだもの。

目覚めたいなんて思わないわ。

本当にあんなにエドワード大公子が不敬な方とは知りませんでした。

いったいルナが何をしたというのでしょうか?

ルナの婚約破棄の様な言動も問題ですが、理由もなくあのような暴挙に出るなんてもってのほかよ…!。


私は頭から煙が出てきそうなほど、烈火の如く怒っている。

自分の事ならなんとでもできる。

だけど小さな時から大人しく、内気なルナがこんな目にあうなんて本当に許せない。


私の瞳からはまるで終わりがないように、どんどん涙が流れ悲しみが私の心を溺れさせる。


ルナの頬を優しく撫でる。あんなに高揚した頬の熱を今は感じない。

体温が異様に低い気がする。

本当に息をしているのかしら?

不安な心を振り払うやかのように手の甲をルナの鼻に近づける。

微かに息を感じてほっと胸を撫でおろす。


丁度その時に誰かの人影を感じ、はっとして顔をそちらに向ける。

アンドリューだ。

真剣な顔をルナの顔を覗き込んでいる。


「すみません。

 お呼びしたのですがお返事がなく。

 ………泣いていたのですか?」


あのアンドリューが本当に優しい口調で心配そうに聞いてきた。

誠意が感じられアンドリューの違い一面が見えて、なんだか安心する。


「えぇ。ルナが可哀そうで。

 あんなに幸せそうだったのに。

 あんな目に。」


「あぁ。貴方のそんな悲しそうな泣き顔を見たくない」


「…私が勝手に悲しんでいるだけよ」


「でも見てられない。

 彼がどうしてあんな行動に出たのか?

 私にはわからないな。

 本当にルナ皇女殿下との婚姻を楽しみにしていたのだから。

 訳がわからない。

 僕も彼に問いただしたけれど、どうしても口にしない。

 本当に訳がわからないだ」


「そんなに私を気にするのかどうしてかしら?」

少しはにかんだように不思議に思い思わず口にする。


「それは貴方を思っているからです」

アンドリューの瞳がきらりと光る。


「私を思ってくれる方ならあの不実なエドワードにルナの汚名を晴らしてくれるはずですが」

鋭い眼差をアンドリューに向ける。


「……何をお望みか?

 私は愛しい貴方の望みを叶える。

 私は貴方を愛している。

 えぇ。愛しています」

アンドリューが私の手を思わず握りしめる。


「貴方が私を愛しているならその証拠を私に見せてほしい。

 そうしたら()()()()()()()()ようになるわ。

 きっと…」


「僕は生死を共にしたこの剣に誓おう。

 貴方をおこがましくも愛していると。

 この剣に誓う」


「まあ騎士の貴方が剣に誓うというのは本当の事そうね。

 騎士だもの。レディーの危機には命も捧げるのでしょう?」


落ち着いた声で期待を込めて賛辞を贈る。


「勿論です。

 レディーの為なら死ねます。

 そして僕のこの思いが嘘だという奴がいたら、この剣でそいつを叩きつけてやる」


「まあ~頼もしい方です」


「あぁ~私は貴方を愛している」


「では私も言いましょう。

 貴方を愛している。

 そしてその愛を求めている。

 その愛の証に私に証明してほしい」


「何を?望みのままに。

 貴方の為になんでもしよう。

 何をお望みか?」


「エドワードを殺して」


「………そっ…それはちょっ…と」


「えっ?私を愛していると言ったのは狂言?

 愛していないのね。

 それほどの陳腐な台詞。

 場末の劇場の大根役者ね」


「いや愛している」


「いいえ愛していないわ」


「いや。

 しかしあの者は私の親友。

 そんな彼を…」


「そう。貴方の私への思いもそんな程度なのね。

 ルナは言葉で殺されたわ。

 本当に血を流したり、命を奪われたりしたわけではないけれど。

 心を殺されたわ。

 そんな私の苦しみをわかって仇をとってくださらない方の言葉は信じられません。

 結局貴方は私を愛していないのよ。

 さようなら。

 出て行ってちょうだい」!!


「えっ皇女殿下?」


「もう終わったわ。

 まあ始まってもないものね」


「そうさようなら。

 今後私に話しかけないで。

 ルナの敵は敵の友も敵よ。

 私の敵。

 そして私が彼を殺すわ。

 そしたら二度と貴方にお会いできないわね。

 さようなら。」


「皇女殿下!

 お許しを。

 皇女殿下!!

 そんな人殺しになってはいけません。

 殿下!!」



その時廊下側で侍女の声が聞こえた。


「両陛下。並びに大神官様ご訪問」


私とアンドリューはルナの寝室を出て、身なりを侍女に正させて居間へと移動して入室を待った。




両親と大神官は固い表情のまま部屋に入り、静かにソファーに腰を掛けた。

大神官はソファーの角に立ち、私達が見える場所に立っている。


まず大神官殿が口を開く。

「まずはこの度の騒動について詳細を知る必要がございます。

 一国の皇女殿下の婚姻解消。影響は大きく存じます。

 しかも皇室大公家の確執となる原因は取り除かなくてはいけません。

 私にはまったく信じられません。

 あれほど婚姻を楽しみにしていた両殿下がこんな状況になるなど。

 これにはなんだかの策が働いている様に思います」


「大神官殿。

 どうやって。 

 大公も大公子の話をしているが、聞いた限り頑として理由を言わないそうだ。

 やはりここだと思うな。

 彼がどうして言わないのか?

 彼自身の言えない問題なのか?

 もしくは皇女の問題だと考えているのか?」

怪訝そうにお父様が策はないといわんばかりに珍しく万策尽きたといわんばかりの顔をしている。


「私は両殿下のお人柄をお小さい時から拝見いたしておりますが、両殿下とも人から非難される事は一つ

 としてござません。

 これは誠でございます。

 この婚姻のお話から私は両殿下に多くお会いいたしておりました。

 なんだ問題があったと認識などございません。

 いくつか質問ですが、大公子殿下の態度に変化が出たのがいつ頃でしょうか?」


「あっ!そう言えばルナが婚約式前日にお会いする予定になったのに。

 いらっしゃらないお手紙もない。

 ってぼやいていたわ」


「なら仮装舞踏会までは大変仲がよろしかったという事ですね」


「えぇえ。私と部屋で話したから本当よ。

 会が終わった後もルナは普通通りで、薔薇園を散歩して殿下と別れた。

 でもその後突然ルナの部屋を訪問した後、何も言わずに去ったそうよ」


「何かあるとしたら舞踏会の後という事ですね。

 皇帝陛下、あの会の後何者かがおかしな動きがなかったか。

 その後に奇妙な事がなかったかを調査願います」


「あぁ。わかった」


「それと皇女殿下は現在は危篤としましょう。

 その方が原因がわかってから策を講じましょう。

 お目ざめになられたら皇后陛下、エルイシア皇女殿下。

 ルナ皇女殿下を慰め諦めない様にお願いいたしますね」


「えぇ。勿論よ」


「本当に可哀そうな娘。

 つきっきりで看病しますわ」

母が強い決意で言った。


「では早く調査しよう」


お父様は内密に精鋭の諜報部の幹部を皇帝執務室に呼びだし、内々に舞踏会以降の宮殿内の小さな変化異変を調査し、原因を追究していった。


私とお母様はルナの看病に時間を費やし決して一人にはさせなかった。


一週間後ようやくルナは目を覚ますが、その後は手がつけられないほど嘆き悲しだ。

私と母は始終傍にいてルナを慰め励まし、どんなに私達がルナを愛しているかを耳にタコが出来るほど伝えた。


一方の大公家はダルディアン大公は息子のエドワードの会話をし続けていたが、婚姻解消の理由を決して言わなかったらしい。 


大公も万策尽きた様子で、ここにきて事態が悪い方向に来ているようで焦りが出る。


皇室と大公家が反目すれば皇統の亀裂が懸念される。

そもそもルナ皇女殿下との婚姻はこの二つの皇統を一本化する意味もある。

フェレ皇国がオルファン帝国の影響化を未だに諦めていないのは承知の事実。

ここでもし対立などしたら、内紛になりクーデターすら警戒しないといけないからだ。


大公は困惑してどうしていいか悩める日々を過ごしている。

昼は扉越しに大公子の説得、夜は夜で宮殿で毎夜呼び出され深夜まで両陛下と内密の話し合い。

疲労困憊していた。


ここにきて再び大公家の後継者を選抜しないといけないのか?

しかし大公子が替わったからといって、ルナ皇女殿下と婚姻出来る者などいない。

そもそも恋愛の延長線上で、たまた両陛下の考えに同意をこじつけた。

つまり相手がエドワードだから成立する。

このままだと非常に危険だ。


あの子はそれをわかっているのか?

原因がわかれば対処できる。

何故言わない。

どうすればいい?

このままだと皇室の危機だ。


ダルディアン大公はこの一週間生きた心地がしなかった。

事態は悪化しているような気がする。皇女殿下は危篤だと言うし。

あの子は私が呼びだす以外は部屋から出てこない。

頭が痛い事だらけだ。


「大公殿下!

 宮殿より急ぎの緊急呼び出しでございます」


そう言って執事長が持ってきた皇命に印が押された書簡に背筋が凍る思いのようだった。

震える手で封を開けて目をやる。


「早く大公子を連れて宮殿へいくぞ。

 一刻も早くだ」


無理矢理義父に馬車に押し込まれ、今一緒に宮殿に向かっている。

僕はおそらく今回の皇女殿下への処分についてだと確信している。

仮にも理由なく皇女殿下との婚姻に異議ととれる言動をしたのだ。

生命を差し出さねば事はすむまい。

いやそれだけではすまないかもしれない。

大公家として責任を負う可能性がある。

僕のせいで……そうあのまま知らぬ顔で婚約式に臨む方法もあった。

しかし皇女殿下が僕では不満がある可能性もあったのだ。そうだとしたら結果はやはり同じだろう。

どちらにしても次期が早いか遅いか。

どちらにしても僕の処分は変わらないのだ。



「エドワード。

 ルナ皇女殿下はあれから危篤でいらっしゃる。

 今回ばかりはどうしようもない。

 陛下の命に従うしかないのだ。

 しかし何故なのだ?

 幼い頃から聞き分けがよく、素直で優しいお前が。

 理由を言ってくれたらどんな事でも力になるものを。

 何を言ってもしかたないか?」


僕は義父への罪悪感で頭を下げて、顔は俯いたまま。

何も言えないのは変わりない。真実をいえばそれこそ不敬。

同じ不敬なら僕だけでいいのだ。


行きなれた道のこんなに短く感じた頃はなかった。

馬車から宮殿の道のりも、宮殿に到着しても皇女殿下の部屋までの廊下ですら長く感じたものだった。

その時はやってくる。

あれほど溺愛されている皇女殿下に不敬をしたのだからただではすまない。

心残りがあるとしたら義父に対してだ。

これでダルディアン大公家が衰退し、家門が衰退したら死んで詫びにならない。

もうこの身は皇帝陛下に任せよう、しかし大公家には被害を及ぼしてはいけない。

弁解もいい訳も理由さえいう気には変わりないから。


「義父様。

 どうか私の養子縁組の解消をお許し願います。

 最初から過分な待遇でしたのです。

 帝都のはるか遠い田舎の子爵家の三男。

 学業さえ就学出来ない貧しい名だけの田舎の貴族出身。

 ただ遠縁であるというだけで義父様には感謝してやみません。

 どうか大公家に迷惑が掛かる前に」


父は同意も否定もせずに瞼を閉じ、腕を組んで私の話をただ聞いていた。

そうただ。





宮殿からの呼び出しに緊張感が走る大公家。

宮殿に到着した大公と大公子は?

皇室と大公家の反目はどうなるのか?


ルナとエドワード、エルイシアとアンドリューはどうなるのか?

次回最終回お楽しみにしていただければ嬉しいです。

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