7、手紙~ラヴレター
何故だ―――?
自身を責めるのは、そんな自問だった。
何故、殺せなかったのか?
何故、あの女は本気ではなかったのか?
何故、そんな事で涙してしまったのか?
何故、何故、何故、何故、何故―――。
まるで、自分の首を絞めるかのように自問を繰り返す。
私の目的は復讐だ。
でも、それを目の前にして私は躊躇ったのだ。
その理由が分からない。
本気でなかったから、だなんて都合の良い言い訳にすぎない。
だって、あの時、静止してくれた人物がいてくれて、心の底から安堵したのだから―――。
/手紙~ラヴ・レター
電撃を操る少女、宝花院麗が立ち去ってから随分と時間がたった。
長かった夜も時期、明け始めるだろう。
「それで?えーと…状況を説明してもらおうかしら」
俺もマリアも随分と回復した為、今はこうしてこの街を管理する魔術師―――流神水菜に事情聴取をされているところである。
「えー、別に。ただ街にでたら、あの高圧金髪女に襲われただけだよー♪」
マリアは明るく答える。
さっきまで戦闘をしていたマリアとはエライ違いだ。
でも、俺はこっちのマリアのほうが好きだ。
「そんな訳無いでしょう?……まぁ、何が目的か?なんて聞いても正直に答えるタマじゃないか。でしょ?“血濡れの聖女”さん」
ニッコリ、と不敵に笑う、流神。
それは親愛などではなく、敵意の含んだ笑顔だ。
「あら、知ってたの?可愛げ無いじゃない」
ギン、と鋭い眼光を飛ばすマリア。
キャラが一転、二転するあたり、どちらかが猫かぶりなのだろう。
どちらか?といっても、それは分かりきっていることなのだが……。
「ふーん。流石、威圧感というか、そういうの本当に一人前じゃない」
そう言う流神は少しも気圧されている感じはない。
その辺、肝が据わっていそうな感じは会った時からしていた為か、然程気にはならなかったし、驚きもしなかった。
「有難う。誉められるのは悪い気はしないわ。で?アナタは私をどうしようって言うの?」
緊張が走る。
二人の言っている事は分からないが、敵対の可能性ということだけは十分に感じ取れた。
というか、マリアの敵意というのは猛犬のソレだ。
見境無しに敵を作るタイプだと思う。
流神は溜息をつく。
「はぁ。何だってあんたみたいなのが、この街にやって来ちゃうかな~、もう。本当っについてないんだから……」
頭を抱えて答える。
「今のところはどうする事もない。あなたが一体、何の目的でこの街に来たのかは知れないけど、取り合えず放置よ、放置。噂通りなら私じゃ勝っこないもの。まぁ、噂通りならね」
“噂通り”と言うのを強調して言う。
噂とは何かは良く分からないが、さっきの状態から見て、その噂というヤツに疑問を持っているのは間違いないようだ。
…………というか、いい加減置いてきぼりは勘弁して欲しい。
「おい、流が…」
と、言いかけたところで、凄い形相で睨まれる。
イメージは赤鬼。
それはもう殺意満々の形相だった。
「水菜よ」
「へ?」
「水菜って呼びなさい。次、苗字で呼んだら串刺しよ」
そんな物騒な事をいい放つ。
なんでキレられてるかは分からない。が、命の危険を確かに感じるので、ここは黙って従おうと思う。
というか、分からない事だらけで、しかも尻に敷かれてる感じがとても情けない。
「ん…じゃあ、水菜」
「なぁに、士快?」
照れくさそうに呼ぶ俺。
何の躊躇いも無く、呼び捨てにする水菜。
まぁ、つまり人間の大きさっていうヤツがここで表れた。
勿論、俺の大敗である。
「聞きたいことは沢山ある。でもまず言っとくと、マリアは別に悪いことをしようだなんて思っていない」
ああ、そうだ。
やり方はどうであれ、マリアはこの街の為に動いてくれているのだ。
そんな誤解だけは何としてでも正しておかなければならなかった。
しかし、水菜は
「あり得ないわね。“血濡れの聖女”と呼ばれた、この女を信用しろ、と?」
“血濡れの聖女”―――それはさっきも宝花院麗がマリアに対し使っていた呼び名だった。
「なんなんだよ?その“血濡れの聖女”って?」
「なに?あなた、そんな事も知らずに、この女と関わってたの?」
水菜はこれ見よがしに溜息をつく。
だが、知らないものは知らないので、そんなに落胆されても困る。
「“血濡れの聖女”―――と書いて“マリア”。彼女は元賞金首。多くの人間を見境なく殺して回った、文字どおりの“殺人鬼”……でしょ?“血濡れの聖女”さん?」
ちらりとマリア見る、水菜。
それが凄く挑発的に感じて、冷や冷やする。
この二人は仲よくなるってのは不可能に思える。
「普通に“マリア”でいいわよ?回りくどいから。……ごめんね士快。騙そうと思ってたわけではないのだけれど……」
マリアは申し訳なさそうに言う。
でもこれで、名前を聞いたときに、歯切れが悪かった理由が分かった。
マリアは“そう呼ばれている”と言った。
つまりそれは、本名では無かったという訳だ。
でも―――なんで本名を言わず、悪名である名前を告げたのだろうか?
「いいよ。別に、いまさらそんな事は関係ない……俺はマリアと一緒にこの街の“異常”とやらを食い止める。ただそれだけだ」
「士快……」
そうだ、俺はそう決めたんだ……マリアが例え、元賞金首だとしてもそんな事は関係ない。
だって、“元”ってことは今は賞金首では無いって事なんだから……。
「正気?……まぁ、いいわ。私がとやかく言う事ではないし」
水菜はそっぽむきながらそう言った。
「ま、お似合いなんじゃない?あなたも少しおかしな力を持っているようだし……」
と水菜が途中で話を切る。
彼女は何か凄く驚いた眼で何かを見つめている。
俺も水菜の視線の先に目をやる。
―――そこには一人の老人が立っていた。
気品にあふれる、その姿は英国の紳士のようだ。
しかしそうでありながら、影の様な不確かなモノを感じる。
「あなたは……!」
驚愕の声は水菜のものだ。
「あんたは?」
問いかけてみる。
いつからそこにいたのか?
全く気配を感じ取れなかったのはこの場にいる全員が同じなようだ。
「士快!こいつ只者じゃないっ!」
マリア凄い眼光で老人を見据える。
確かに不思議な感じはするが、そんなに危険な人物には思えない。
さっきの金髪電撃女に比べればなんの脅威も感じないのだ。
魔術、なんてものには精通してはいないが、直感的にそう感じた。
「そう…気を張らんでください。マリア様……ですね?このたび、貴女は選ばれました。……どうぞ、これを貴女に」
と老人は封筒を一枚、差し出した。
老人の姿は俺の目線の先には無く、気がつけばマリアの前の立っていた。
マリアも気付けなかったらしく、その顔は驚愕の色を表している。
「どうしました?恐ろしいのですか?」
注意深く、マリアは老人の手の封筒に手を伸ばす。
老人はマリアが封筒を手にした事を確認すると、ニコリと笑う―――シルクハットのせいで表情は確認できないがそんな気がした。
マリアは受け取った封筒を注意深く観察する。
その封筒は高級感の漂うもので、遠目からだが、かなり高そうだ。
「アゼルっ、まさか、“血濡れの聖女”も!!」
水菜は声を上げる。
どうやら水菜はその老人を知っているようだった。
「ええ、その通りです。水菜様。……マリア様、申し遅れました、私、アゼルと申します」
アゼルと名乗る老人は一礼をする。
それは全くの無駄のない、所作だ。
「これは……?」
「それは、招待状です。マリア様?貴女は我“主人”に見染められたのです」
「つまり、これは…“無限”への招待という事でいいのかしら?」
老人は答えない。
「そう。それは好都合だわ……此方から探る手間が省けた。そう…そういう事」
マリアは何か含んだように呟く。
俺の横で驚いた顔を見せるのは、水菜だ。
「“無限”ですって?」
水菜は呟いた。
「それでは…私はこれで……。“主人”共々、マリア様の御参加を心よりお待ちしております」
と言い残して、アゼルは闇に融けるように姿を消した。
マリアは俯いている。
その表情は確認できない。
「“無限”っていったわね?マリア…どういう事?」
水菜はマリアに問いかける。
マリアは顔を上げると、
「儀式、“無限”よ。一体、何を呼び出そうとしているんだか……まぁ、良くないものである事は確かね」
水菜は、顔をしかめる。
「まさか……この街で本当にそんな大儀式が」
「ええ、私はその儀式を止めるために来た……議会からの依頼でね」
水菜はさらに驚愕する。
“議会”とはなんの事か、やっぱり俺にはさっぱりだ。
「なぁるほど。そういう事?……あなたが議会に捕まったという噂は本当だった、って言うワケね」
「ええ、クソ生意気なことにね」
やっぱり俺は置いてけぼり全開で話は進んでいくのだった。
/
今晩わ。
突然ですが、愛しています。
貴方のうちに眠る“闇”に私はもう虜です。
毎晩のように貴方の“闇”思い返しては
うずく身体を慰めています。
もはや自慰では限界です
どうか…… どうか……
私に貴方の“闇”を見せてください。
どうか… どうか…
私の“無限”に参加下さい。
勿論“勝者”には
貴方の願望 渇望 を叶えましょう―――
満月の晩
青の魔力の宿る所でお待ちしております
“主人”より
「―――なんだ、コレ?」
俺の口からでる感想はそれだけだ。
どう考えても頭が悪すぎる。
ラヴレターにしては内容があまりにもぶっ飛んでいる。
マリアはというと身体をフルフルと震わしている。
嬉しいのか?悲しいのか?怒っているのか?……まぁ、俺の予想では全部だ。
「同じものが私のところにも来た」
と言って、水菜はマリアと同じ封筒を差し出す。
それはマリアが受け取ったものと同じ、金の塗装が施された封筒だった。
「で?何なんだよ?“無限”ってのは?」
「ああ、それは儀式の名称よ……そうよね、マリア?」
水菜はマリアに話を振る。
マリアの体の震えは止まっており、ため息混じりに話し始める。
「えぇ。士快は私を手伝ってくれるって言うし、話しておくわ」
マリアは地面に腰を下ろす。
体育座りが何というか、似合わない。
「魔術の中には、外界、もしくは別次元、別セカイとの“パス”を繋げることによって、このセカイでは存在し得ぬモノ、つまり―――異形のモノを呼ぶことが出来る」
「異形のモノ?」
つまりモンスターとかクリーチャーの類だろうか?
まぁ、魔術師がいるのだから居てもおかしくは無いだろう。……うん、だいぶ俺もオカシクなってきたようだ。
「まぁ、異形っていっても、邪悪なものとは限らない。それは天使や悪魔、時には神様だって呼ぶことが出来る。つまりこのセカイには在ってはならないもの……人間が本来、空想でしか視る事の出来ないもの。それが異形」
神様や天使に“異形”とは失礼ではないかと思ったが、確かに存在し得ぬモノなのだから異形と呼ぶしかないのだろう。
神や天使なんてものは人間が崇める、空想や妄想でしかないのだから。
「でも、それはこのセカイの常識であって、別次元、別セカイでは当たり前だとしたら……そう、そういうセカイとセカイを繋げることで此方に呼ぶ魔術。そんなモノがあるのよ。……士快、待って」
マリアは出掛かった俺の言葉を制止する。
「質問があるなら後で聞く。でもそんなモノ無意味よ。どうせ理解出来っこないんだから……今は私の言うことだけ真実として受け止めて……勿論、水菜ちゃんは反論があればどうぞ?」
少し喧嘩腰だが、水菜はそれには乗らず、ただ首を振った。
「それで、セカイ同士を繋ぐ“パス”を作るには普通の魔術行使ではだめ。しっかりとした式典、儀式を行う必要がある。これは本来の魔術行使とは異なるわ。儀式と言えば、生贄や供物が相場でしょ?
つまり生贄が必要なのよ、大掛かりなら大掛かりな程ね……。ようは等価交換よ?まぁこれは魔術の大原則な訳だけど。
つまり儀式には生贄が必要って訳、それも人間のね。そこが普通の魔術とは違うトコ」
受け入れがたいが、受け入れる。
つまり、マリアはその儀式が始まる前に、生贄を消してしまおうという魂胆だったのだ。
だから魔術師を殺して回るという奇行に走ったのだ。
その過程で犯人を殺せばラッキーということだ。
「で、そのパスを作るにはね儀式の内容が問題なの。儀式は必ず、超越した事象、現象を象らなくてはならない。それも人間の中にあるね……。
今回に限れば、それは“無限”。だって士快?“無限”なんてものは人間社会の中に身近にあるけど、ソレは確かに卓越した神秘なのよ?」
うむ、言ってる意味が分からない。
「いい?魔術ってのは、人間が解明できないモノだから、その力が神秘だと教えたわよね?」
俺は黙って頷く。
魔術を神秘たらしめているのは、それが人間が解明できないモノだから。
解明してしまえば、魔術なんてものは現象になり下がる。
「そうか、つまり人間が身近に感じる、つまり人間社会の中の神秘を象ったものでないといけないってわけか!?」
「ご名答。“無限”なんてモノは人間は安易に使えるでしょ?数が無尽蔵にあるものを指すんだもの。でも、世の中に限りが無いなんて在り得ない。無限なんてモノは数ではなく言葉でしょう?それでも人は無限なんて言葉を分かりもせずに使う。その言葉はつまり人間が理解しきれていない“不明”なのよ……それは十分な神秘」
成る程、理解は出来ないが、なんとなくは飲み込めた。
ようは、そんな儀式をしようとしている馬鹿がいるってことか。
「それでこの手紙は、生贄候補に送られるものね……ゲームか?何をするつもりか知れないけど……まぁ、命の奪い合いであることは確かね。確かに“無限”程の大魔術なら、人の願望くらい、叶えることはできそうね……」
「つまり、生贄を厳選してるってこと?確かに、大儀式になればなる程、生贄には魔力をもった生贄が必要ってのは分かるけど……」
今まで黙って聞いていた水菜が口を開く。
「それに、この“闇”ってのは気になるわね……」
マリアは考え込む。
まあ、つまりは俺はもう、何が何だか分からないことに巻き込まれるということだ。
「まぁ、考えるのは後にしましょ?マリア、あなたはどうするの?」
「そうね……取り敢えずは、“青の魔力”って言うのを調べるわ……コイツ頭悪そうだから、大した意味なんてなさそうだけど。でもこれを解かないわけには“主人”の居場所も特定できそうに無いから…………んっっ」
と、水菜の問いかけに答え、なにやら自分の頬を抓るマリア。
というか、意外と息が合ってきたような気がするのは気のせいか……この二人。
「あーー。疲れた♪やっぱ、私、こっちの方が合ってるわー♪」
口調と表情が戻る。
俺はてっきり此方が猫かぶりだと思っていたが、こいつ……どっちも性格作ってる気がする。
「あら、随分な変わりようじゃない?さすが、議会を悩ます、悪女さんね」
「ははは♪べっつにー、こっちが素なんですー♪」
ゴゴゴゴ、となにやら二人の間で無言の抗争が始まる。
前言撤回。息なんて一生揃わない気がする、この二人……。
「で、水菜ちゃんはどうするのー♪」
「―――そうね。本当は嫌だけど、そりゃあもう、納豆とマヨネーズとトマトジュース、トドメにヨーグルトを混ぜて食べる位、嫌だけど、あなたと協力するわ。どうやら本当に儀式を止めようとしているようだし」
水菜は本当に嫌そうに言う。
しかし、この街の管理者である彼女が味方についてくれるのは心強い。
これで無駄に人殺しをせずに済む。
そうだ、だって、犯人の手掛かりはスグ手の内にあるんだから。
「私は構わないよー♪管理者なら、色々と利用出来そうだし……それより……」
なんか癇に障る言い回しをして、首を傾げる。
「納豆とマヨネーズとトマトジュース、トドメにヨーグルトって…美味しそうじゃない?」
などと、相変わらずのふざけた事を大真面目に言う、マリアさんなのでした。
◇
私の身体が震える―――。
歓喜の渦が私の中を這いずり回る。
イイ、イイ、イイ!!
最高だ
私は必ず……空を飛ぶんだ―――。
そう歓喜した。
◇
俺とマリアは取り敢えず、自宅に戻ることにした。
自分の部屋に足を踏み入れた時、俺は本当に涙しそうになった。
“帰ってきたんだ”だと、そんな奇跡に感謝する。
同時にそんな俺を全力で誉め称える。
「士快、ご苦労様♪」
そんな俺を見てか、マリアは労いの言葉をかける。
と言っても頑張ったのはマリアであって、俺は何もしていないのだが……。
「いやー、マリアの方がご苦労さんだよな?」
ハハハ、と苦笑いする。
と、突然マリアは俺の手を握る。
「へ、え、ぁ、マ、マリアさん!!?」
ドキマギしながら、なるべく冷静さを保とうとする。
しかし体温は上昇するばかりだ。
「ねぇ?士快、少し話さない?」
マリアはそう言って俺を、アパートの屋根に誘う。
朝焼けの空は実に気持ちがいいものだった。
しかし数時間後に学校に行かなければならないと思うと、億劫過ぎて仕方なかった。
「空、綺麗だね」
「あ、あぁ、そうだな……」
何というか調子が狂う。
忘れていたが、マリアって凄く美人だ。
こんなの男だったら誰でも緊張してしまうと思う。
隣に座る、マリアが近い。
「士快って、夢ってある?」
空を自由に飛たい……そんな事言えば、笑われると思った。
だから俺は
「マリアは?」
と言って逃げた。
「うーん、私はねー、空を自分で自由に飛ぶ事、かな」
意外な答えに、一瞬凍りつく俺。
その夢は、確かに俺のものだ。
「なんだよ?じゃあ、叶ってるじゃん。マリアは魔術で翼が生えるだろ?」
「ふふふ♪違う、士快は勘違いしてる」
マリアは笑う。
俺は言葉の意味が理解できない。
「そうなのか?でも意外だな……マリアが俺と同じ夢だなんて」
「そうなの?」
マリアの顔は何処か嬉しそうな表情だ。
「ああ、俺も空を自由に飛びたい。この綺麗な空を自由に自分の翼で」
それは誰もが笑った、夢物語。
小さい頃から変わらない想い。
マリアなら分かってくれると思った。同じ夢を持つマリアなら……
「ははははっ」
力なく笑う、マリア。
どうやら馬鹿にされてしまったようだ……。
「なんだよ?馬鹿にしてるのか?おまえと同じだろー」
俺は不服を申し出る。
しかし、マリアは優しく笑って。
「だから同じじゃないってばー……でも、そうかー。ふふっ、おかしいね、私と士快は夢と叶ってることが逆なんだもん」
「え?」
「私が欲しいものを士快は持っていて、士快が欲しいものを私が持っている……これって、おかしなことよね?」
マリアの欲しいものを俺が持っている?
そんな事ありえるのだろうか?
マリアは魔術で何でも出来るって言うのに……。
「あ、そうだ!士快に私の宝物、見せてあげる♪」
しんみりとした空気を壊すかのようにして、明るくマリアは言った。
マリアが出したものは、クロスのシルバーペンダントだった。
何というかマリアには似合わない、神々しいものだ。
「これ、お母さんの形見なの♪」
「形見……?」
形見ということは、もうこの世にはいないということになる。
「うん。私が生まれてスグにね……お母さん死んじゃったの。だからお母さんの顔とか写真でみただけなんだけど、私に似てとても美人さんだったんだよ♪」
明るく笑う。
でもそれは消えてしまいそうな笑顔。
「それでね、これはお母さんが私に残してくれたものなの。このペンダントにはお母さんの“魂”が宿ってるんだって♪だから、これ大事な物なんだ……士快には特別見せてあげる。普段は絶対に見せないものなんだよー♪士快ってば、最高にラッキーだね」
そんな彼女の笑顔は強がってるようにしか見えない。
なぜ、今、こんな話を俺にするのかは分からない。
母が健在な俺にはその気持ちも共感してやれない……。
そんなもどかしい気持ちの俺に彼女は精一杯の笑顔を向ける。
一体、なにがあったのか?きっと母の顔を思い出す何かがあったのだろう。
否、彼女が生まれてスグ死んだのだから、母の記憶は無いはずだ……でも、きっと、彼女は知っているのだ、母の笑顔を、母の強さを。
それは遺伝子レベルで刻まれた、愛情だ。
―――そんな確証も無いオカルトを俺は信じたい。
魔術なんてものがあるくらいだ、そんな奇跡だってあっていい筈だ。
「ゴメンね…なんか、結局、しんみりしちゃ……」
気づけば俺は力一杯、マリアを抱き寄せていた。
「し、か、い……」
マリアは抵抗しない。
それをいい事に、抱く腕に力を込める。
彼女の過去。
それはきっと俺にはわからないものが見え隠れする。
人を殺す殺人鬼。
確かにマリアは人を殺すのを躊躇わない。
だからそれはきっと真実だ……。
でも彼女は、彼女なりに何かと戦っていたのだろう。
一人で、どんなに殺人鬼と罵られようと―――
それを想像してちょっぴり涙が出そうになる。
悪魔のカタチをした殺人鬼。
俺を日常から引き離した、張本人。
でも俺は……。
いや、だからこそ俺は、彼女と一緒に戦おうと思う。
殺人鬼と周りから言われ続けた、きっと今まで一人ぼっちだった、そんな彼女と俺は共に戦う。
ああ、もう決して一人ではない。
俺がいるんだから……。
日が昇りきるまでの時間。
俺はマリアを力強く、抱き続けた……。
駄文、拝読ありがとうございました~。
文章を読み返すたび、泣きたくなる、ガーデン(英語表記めんどくなった)です。
文章力を上げるためには、やはり、書いて、読んで、書いて、しかないですねっ。
精進したいです。
あと、更新がストップしていた、誰も読んでいないだろう作品、アークを近いうち(もしくは同日)に更新します。
読んでくださるとありがたいです。
メインはこちらを執筆していきたいと思ってます。
(まぁ、あっちはストックあるから、更新速度こっちより早いかも・・・)
でわ、皆様、また~。