表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無限の夜  作者: Garden
3/8

2、悪魔と魔法

 仮面の少年が淡々と語る。

 “はじめまして。僕の名前は静寂−−−アロン。僕はセカイの傍観者。何もせず、何も感じず、介入せず・・・ただ、見守るだけにある存在。今、見ているセカイは無限。これから始まる事を傍観し、記録する”

 星の綺麗な夜。

 街は活気を無くす事無く、活動を続ける。

 作為的な光で赤や黄色に光るこの街の住人達は、そんな自然の光に目を奪われることは無い。


 私は、とあるビルの屋上で一人、空を仰ぐ。

 うん、凄く綺麗な星。

 ふと、三年前の事を思い出す。

 まるで昨日のことのような記憶。

 傷つき、色褪せてしまった記憶はこんな夜の度に鮮明に再生される。


 それは空に恋をした、一人の男の子との記憶。

 その時に似た、今夜の夜空。

 きっと彼もこの空を見上げているのだろう。

 そう考えるだけで、胸が踊る。


 −−−空はどこまでだって、繋がっているから・・・・・・


 それは彼の言葉だ。

 私の大切な魔法の言葉。

 彼は言った−−−魔法が使えたらいいと。

 私もそれは素敵な事だと言った。

 でも、それは嘘だ。

 だって彼は、こんな素晴らしい魔法の言葉をもう知っているのだから・・・。




 /悪魔と魔法




 ぐちゃり


 と異様な音を立てながら、また一歩、人の形から遠ざかっていく人だったモノ。

 もう既に、人だった頃の面影はない。



 ここは薄暗い路地裏。

 鼻を裂くような強烈な悪臭は壁や地面に撒き散った血の匂い。

 地面には赤い血液が水溜まりを作っている。


 今、ここに俺以外の人影は無い。

 あるのはぐちゃぐちゃにされてしまった、人だったとは思えない一つの肉塊。

 それと、悪魔が一人。

 

 一見すれば、それは人の形をしている。

 だが、それを人とたらしめない異形の翼がそれは人ではない事を物語る。


 それは墨を零したような、黒い翼。

 その凶々とした邪悪さには、悪寒を感じずにはいられない。

 それと、もう一つ・・・彼女が人間ではないことを思わせるモノがある。

 それは酷く的外れな感想だと思う。

 しかし思ったのだ、血に濡れた彼女の姿は−−−とても美しいと。




 悪魔の様な少女は、酒に酔ったかのように、どこか虚ろな目で肉塊を見る。

 にやり、と一度笑うと、そこにしゃがむ。


 −−−ぴちゃり

 と水が揺れる音がした。


 そして唐突に、彼女は唄いだす。


 「ぴっちゃぴっちゃ♪るんるん♪」


 ふんふん、と陽気に鼻歌混じりに唄いだす。


 −−−ぴちゃり


 そして聞こえる、水の揺れる音。

 彼女の目は未だ虚ろなまま。


 ぴちゃり

 ぴちゃ

 ぴちゃ


 彼女はまるで子供のように、水遊び−−−血遊びを楽しんでいる。

 肉塊より、流れ出る赤い血液がつくりだした、水溜まりを、ぴちゃぴちゃ、揺らして楽しそうに微笑んでいる。

 しかし、それは酷く邪悪でありながら、同時に酷く純粋だ。


 子供が蟻を潰すのに悪意は無く、ただ純粋なものだ。しかし蟻にとってそれは、ただの殺戮であり、恐怖以外のなにものでもない。


 

 彼女の行為はそれに近いと思う。

 彼女はただ純粋に殺し、それを楽しんでいる。


 そんな純粋さが最も怖いものなのだ。



 ぴちゃん

 ふと、彼女は手を止める。


 −−−悪寒が全身を走る


 彼女の手からは、ぽたぽたと血液が滴り落ちる。


 −−−恐怖は戦慄となって確かに脳を侵食してしいく


 彼女はゆっくりと、こちらに首を捻る。


 −−−体は麻痺したままでピクリとも動かない


 黒々と深い瞳が俺をとらえる。

 瞬間、俺の脳は死をイメージしたまま、その機能を麻痺させた。






 ふと、空を見上げると空いっぱいに星々が散りばめられていて、なんて気持ちがいい。


 「あちゃー、今日は星が綺麗ね」


 私は、こんなことなら自分の家で星空でも眺めながら紅茶でも飲んでいれば良かったと後悔する。


 人通りの無い夜道を歩きながら、そんな事を考えてみるが、今となってはもう遅い。

 探索開始から有に三時間。収穫はゼロ。

 ため息が出る結果だ。

 だからこそ、手ぶらで帰るワケにはいかない。

 こんな事がもう4日も続いているのだ。


 −−−この街は異常だ


 さしたる証拠も無ければ根拠もない。

 それでも異常。

 それは予感や不安に近く、別に今現在、この街に異常は見られない。


 「嫌な予感に限って・・・」


 当たるものだと思うのは、私の考えすぎなのだろうか?

 昔から私の嫌な予感は大抵的中した。

 だからこそ私は私の予感を信じて、この街の探索を毎日続けている。

 だが、何も見つからない。

 怪しいところもなければ、歪んでいる所もない。


 「だから、おかしいのよ・・・」


 そう何もない。いや、無さすぎる。

 この不気味なまでに何も無いことが、代えって作為的な何かを感じてしまうのだ。


 「さて、ここも特になし・・・か」


 この辺りは一通り調べたが、やはり何もでてはこない。


 「かえって気持ちが悪いわね・・・さて、今日はもう一ヶ所行っておきますか!」



 そう言って、気怠い身体に鞭打って次の場所をめざす。




 魔法使いはこうして今日も一人、夜の街を闊歩するのだった。



 ◇




 夜の人通りの無い道を、全力で駆ける。

 背後に感じるのは、絶望的な死の香り。

 そんな恐怖から逃げるべく、今にも壊れそうな心臓なんかお構い無しに走り続けた。


 心臓が暴れ回っているのとは裏腹に頭だけは冴えていた。

 だからだろう、俺は無意識に人のいないところを目指した。

 アレはきっと人を殺すのを躊躇わない。それが一人でも二人でも、十でも二十でも変わらないんだと思う。

 だから人通りのある所に逃げるのは、ダメだったのだ。

 それを頭が理解していたのが、唯一の救いといえば、救いだった。


 「はぁ、はぁっ」


 息は絶え絶えになり、もう長くは走れそうもない。

 俺はある十字路の塀に背中を預けた。

 幸い、あいつの姿は無い。俺は乱れた息を整える。

 心臓が煩い。

 どくんどくん、と一向に落ち着きを取り戻そうとしない心臓は重く、今にも吐き出してしまいそうだ。


 俺をあの恐怖による麻痺から救ったのは、心臓による鼓動だった。

 高鳴る心臓の鼓動が呪縛から俺を解き放ったのだ。


 しかし、今はその心臓が喧しくて仕方がない。

 この心臓の音であの悪魔が気づいてしまうのではないかと、杞憂してしまう。

 胸を撫で下ろしおちつかせようとするが、心臓はそうすればする程、俺の中を暴れ回る。


 「くそっ」


 なんだって、こんなことになってしまったのだろうか?

 真っ直ぐ家に帰っていれば、あんなモノを見る必要なかったのに。


 「うぐっ!」


 あの光景を思い出し、吐きそうになるのを必死に耐える。

 あの肉塊は本当に人だったのだろうか・・・?

 人があんな形になることが信じられない。

 あれは人の死に方じゃない。

 人はもっと人らしい死に方があるんじゃないのか・・・?


 近くの街頭が、チカチカと点滅する。それが異様に不気味に感じた。


 「どうやら、追ってこないらしい・・・」



 走ってきた方に目をやるが、あいつの姿はない。

 どうやら、俺は標的にされなかったらしい。


 「それとも、もう食事が終わりだったんだろうか?」


 俺は安堵の息をつきながら塀に背を預けたまま、その場に腰を下ろす。


 −−−しかしそれは不意にやってきた


 耐え難い吐き気、そして圧倒的な死の存在感。

 その恐怖をかたどったかのような“ソレ”は不気味に浮かぶ月を背景に舞い降りた。


 トン、と地面に足をつく。

 その優雅さは、まるで人ではないような妖しさだ。


 「今晩ワ♪」


 人形をした妖は、クスリと微笑み、挨拶をする。

 俺は絞りだすように、


 「よ、よう」


 と声を出した。

 我ながらなんと頭の悪い。

 言葉も去ることながら、これから殺される相手に対して挨拶なんて、まるで馬鹿だ。

 人生の終わりって、こんなものなんだろうか?

 死ぬ寸前まで馬鹿を演じるとは、遥に笑われたってしょうがないな、コレ。


 「いや、怒るかな・・・あいつ」


 と、独り言を漏らす。

 それが良かったのか、遥の怒る姿を想像したのが良かったのか、あれ程煩かった心臓は今は静かに体中に血液を巡らせている。


 「なぁに?何か言った?」


 と、その黒い少女はこちらの顔を覗く。

 俺はゆっくりと立ち上がると、その少女を初めてしっかりと目にした。


 特徴的なのは漆黒の様な翼、そして長い黒髪。

 服も黒を基調としたもので、ドレスみたいだ。

 えーっと、ゴスロリっていうんだっけ?

 以前、秀也に熱く語られたっけ。

 顔たちは少し幼い感じだが、人間の年齢が当てはまるのならば多分同い年くらいだ。

 瞳は黒々としており、果てのないブラックホールの様に深い色をしている。

 首には首輪の様なアクセサリーを身につけており、それ以外は装飾の様な物は見られない。

 あの翼もアクセサリーだったら、どれ程、安心できるか・・・。

 しかし実際、空から舞い降りて来た以上、本物と認めざる得ない。


 そして何より彼女に目を奪われる理由は、そのしつこいまでに黒一色の彼女の肌が、とてもきれいな白色の肌っていうことだ。

 

 「なぁに?さっきから、人のこと睨んで・・・見つめられる事はあっても、睨むなんてあんまりじゃない!?」


 ムスッ、と頬を膨らませながら怒る黒い少女。

 それはさっきまでの彼女とは思えないほどの幼さだ。自然と口元が緩む。


 ・・・いや、違う。

 あいつは人を殺しているんだ。

 緩んだ顔をスグに引き締める。

 

 そうだ何を勘違いしたのか?

 こいつは俺を追ってきた。つまり俺はこいつの標的になったって事じゃないか。

 

 こうなればやけくそだ。

 死ぬ前に思いっきりやってやる。

 せめて腕の一本、へし折ってやらなくては犬死にもいいとこだ。

 窮鼠猫を噛む。まさにピッタリの言葉だ。

 俺は構える。喧嘩なら少しは覚えはある。

 しかし殺し合いとなれば、話は別だ。

 まったく・・足の震えを殺すことで精一杯だ。


 「ふぅ」


 深呼吸をする。

 −−−さぁ、覚悟は出来た・・・何処からでも来やがれってんだ!


 「な、何してんの?」


 と、一瞬で空気をぶち壊す、少女。

 おそるべし!背中の黒翼は伊達じゃないぜ!


 「はぁ?だってお前、俺を殺すんだろ?」

 「なんで?」


 キョトンと首を傾げる。


 「いや、なんでって。食事の時間とか、見られたからには・・・とか」

 「あ、私、ハンバーグが食べたーい♪」


 まったく会話が繋がっていない・・・。

 こいつ本当にさっきまで人を殺していたんだろうか?

 ・・・そうだ、あれは確かにこいつだった。


 「だから、なんで私が君を殺さなくちゃいけないの?」

 「お前さっき、路地裏で人を殺していただろ!?隠したって無駄だ!」


 彼女はきょとんとする。


 「俺は見たんだ!人を殺しているところを!」


 俺はこの時、なんて返事を期待していたのだろうか?見間違いならば、悪い夢だったと笑い飛ばせていただろうに。

 しかし現実、彼女の返事は


 「あはは。うん、殺したけど?」


 真実であることを肯定するだけだった。

 背筋が凍る。

 だめだ、さっきみたいに麻痺してしまったら、俺は・・・。

 あの肉塊のように、人らしい最後は迎えられない。


 「あはは。やっぱり、見られちゃってたか。そっか、参ったな・・・」


 彼女は舌を出しながら、自分のミスを認める。


 「だったら殺す・・・か?」

 

 恐る恐る聞いてみる。

 なんだってこんな頭の悪い質問しか浮かばないんだろうか?

 彼女は少し思案して、


 「それがルールだからね♪」


 笑顔で言い放つ。

 どうやら、悪魔は他人に見られてはいけないらしい。

 まったく、鬼の次は悪魔か・・・勘弁してほしい。

 だが、次は冗談なんかじゃない。

 目の前で笑うのは、正真正銘の死の具現なのだから。


 緊張が走る。

 次こそくる・・・!

 俺を殺すために。そして、間違いなく殺される。

 俺は手に力を込める。


 「来るなら来い!!だが、只じゃ殺されてやるもんか!!」


 と、大声を上げる。

 目の前の悪魔は歪に、ニヤリ、と笑う。


 「だから・・・」

 

 彼女が何かを言い掛けたが、関係ない。

 俺はチャンスとみて殴りかかる。


 ブン、と渾身の力を込めた一撃が彼女目がけて振るわれる。


 ドン!

 と鈍い音を立てて、吹っ飛んだ。







 街の探索開始から、5時間が経った。

 私はと言うと荒い足取りで帰路へとついていた。


 「ああ、まったく!どうしたっていうの!?」


 ガツン、と道端の電柱を思いっきり蹴飛ばす。


 「−−−−−−!?」


 足から伝わってくる鈍い痛みが、私の脳を痺れさせる。

 ジンジンと痛い足を我慢しながら、何もなかったかのように歩き始める。


 ああ、なんてついてない夜だろう?

 空はこんなにも爛漫としているのに。


 「ふん、まぁ、いいわ。絶対この街の異常を突き止めてやるんだから」


 精一杯の強がりは夜の空に飲まれて消える。

 正直、参る。

 この街の平和は私の平和だというのに。


 とぼとぼと夜道を歩く。

 さっきまでの威勢は、どこかに消えてしまった。


 「私、悪魔か死神にでも取り憑かれているんじゃないかしら?」


 ふと、そんな事を口にする。


 「誰!?」


 私は何かの気配を感じ、咄嗟に叫ぶ。

 気配のする方を睨みながら威嚇する。

 しかし内心は悪魔か死神が本当に憑いているのではないかと、ドキドキだった。

 しかし、想像はあっさりと裏切られた。


 「私、アゼル=バレフュルッペと申します」


 闇の中から忽然と現れたのは、帽子をかぶり杖をついた紳士的な老人。

 口髭を携えていて、なんか立派な感じ。


 「何?」


 だが、私は警戒を解かない。

 額に汗を浮かばせながら、威嚇を続ける。

 ・・・この爺さん、只者じゃない。


 「今宵は貴女様に、ご案内状をお持ちいたしました・・・流神 水菜様で間違いございませんでしょうか?」


 私はコクン、と頷く。

 

 「それは、それは。流神様・・・」

 「流神って呼ばないでくださる?」


 冷静を保つ振りをして、声を荒上げる。

 紳士は笑う。それは微かで、見逃してしまいそうな程だった。


 ・・・何かを企んでいるのは明確だ。

 さて、どうする私。


 「これは失礼。では水菜様、コチラを受け取ってくださいませ」


 胸ポケットから出されたのは一枚の白い封筒。

 昔、似たような封筒にラブレターを入れて出したことがある。

 しかし出されたのは小学生が買えるようなものではなく、金色で縁取られた高級品だった。

 私はそれを警戒しつつ受け取った。

 

 受け取ってみれば、紙の質からして高級品だと分かる。金の装飾は金粉ではないだろうか?


 「これは?」


 紳士は一歩後ろに下がると、こう答える。

 

 「それは我が“主人”からの招待状でございます。水菜様は御主人様が主催なされるパーティーに招かれたのでございます」

 「パーティー?」


 私はそんないい育ちでもなければ、金持ちの知り合いもいない。


 「“主人”ってだれなの?」

 

 紳士は答えない。

 私は質問を変えることにした。

 

 「パーティーって?」

 「はい、それは中身を見ていただければ分かります。きっと、気に入られると思いますよ」


 紳士は静かに笑う。

 私は作り笑顔に苛立ちを覚えながら、封筒を睨む。


 「では、是非、パーティーの参加を“主人”共々、お待ちしております故」


 と紳士は静かに立ち去ろうとする。


 「待ちなさい!何で私にこんなものを!?」


 そんな紳士を私は静止する。


 「すみません。多く語るのは禁じられています。ただ・・・」


 紳士は振り返らずに話す。


 「ただ。水菜様、貴女だからこそお招きしたのでございます」


 そう言い残して、紳士は静寂の闇へと消えていく。

 まるで最初から居なかったかのように、静かにその姿を消した。

 私の手の中には、豪華な装飾の封筒がしっかりと握られている。








 ドン

 と、鈍い音をたてて、俺は吹っ飛んだ。


 景色がぐるりと一周りする。

 そして、思いっきり地面に身体が叩きつけられる。


 「うぐっ」


 背中を強打して、上手く呼吸が出来ない。


 「ごほっ、ごほっ、ぐふっ」


 何とか肺のなかに酸素を取り込む。

 かつん、と足音をならして、歩み寄る黒い少女。

 俺は急いで立ち上がると、再び構えだす。

 それを見て、少女は歩みを止める。


 「はぁはぁ、くそっ」


 まったく歯が立ちそうに無い。

 俺は隙をついて攻撃してみたものの、そんなものは隙の内に入らなかった。

 いや、そもそも、あいつは目を瞑ったって俺をスグに殺せるだろう。

 それをしなかったのは、単に遊んでいるだけなのだろうか?


 「あのさ・・・」


 彼女が俺の顔を伺うようにして声を掛ける。


 「な、なんだよ」


 俺はあくまでも強気の態度を見せる。

 しかしそんなものは強がりだとバレバレである。


 「私、あなたを殺すつもり・・・ないよ?」


 と、申し訳なさそうに言った。


 「は?」


 思考が停止する。


 「闘うつもりもないんだけど・・・」


 顔が熱くなる。


 「でも!お前、人を」

 

 そうだ、こいつは俺に殺人現場を見られたから・・・あいつも確かにルールだからって。


 「うん、殺したよ。あれは、だって魔法使いだもの」

 「は?」


 魔法使い、の意味はよく分からないが、どうやらあの“人”もこいつ寄りの存在だって事は予想が付いた。

 

 「でも、見られたら殺すって・・・」

 「うん、普通の魔法使いならね。私は異端だから、関係ないの」


 顔がカァーって赤くなるのが分かる。

 ちょっとまて、じゃあ何か?


 「じゃ、何で追い掛けてきたんだ?」


 「うん、道を聞こうと・・・」


 それは俺の勘違いだったと?


 俺は今までの自分を思い返す。

 うん、恥ずかしい。


 顔が赤くなるのを手で隠す。


 「うん、ほら、勘違いって、誰にでもあるから・・・ね?」


 しかも、慰められてるし・・・。

 

 「じゃ、その翼はなんだ!?」

 

 俺は自分の恥ずかしさを隠す様にして怒鳴った。

 そうだ、そんな翼をつけて人を・・・ええっと、魔法使いだっけ?

 とにかく、人みたいな奴を殺していれば誰だって殺されると思ってしまう。


 「うん、これ?」


 と、言うと、翼はパッと消えた。

 黒い羽根が宙を舞う。


 「化け物かと思った?」


 俺は、ぽかんと放心する。


 「おーい、大丈夫?おーい」


 うう、この女、楽しんでやがる。 

 俺を呼ぶ声は実に楽しそうだ。


 「お前は、一体何なんだ!?人なのか?」

 「うん♪」


 物凄く、純粋な笑顔で答える。

 それが凄く可愛くて、困る。


 「わるいが、背中から翼が生えてる人間を未だかつて見たことがない」

 「うん♪よかったね、見れて」

 「あ、ああ・・・」


 ・・・って、違わい!

 うーん、ペースが狂う。完全に、むこうのペースだ。

 というか、人の話を理解しろ。


 「そうじゃなくて、背中に翼を持っている人間なんて、全うな人間じゃないって事だ!」

 「うん、そうだよね」


 あーあ、もう。

 頭がこんがらがる。

 駄目だ、誰か助けてください。


 「だって私、魔法使いだもん」


 魔法・・・使い?

 さっきも聞いた単語だ。


 「さっきから魔法使いって箒で空飛ぶ、アレか?」


 ありえない、とも思いながらも質問してみる。

 きゃはははっ、て笑い始める彼女。

 腹は立ったが、違ってホッとした。


 「君、年いくつ?そんなの何百年前の話?私のおばあちゃんだって乗ってなかったよ」


 ああ、否定してほしい部分が違う。

 泣きたくなった。


 「じゃ、何か?魔法使いはいると?」


 うん、と笑顔で頷く。

 俺は頭を抱える。


 「で、お前は魔法使いって訳?」


 うんうん、と頷く顔は実に楽しそうだ。

 こっちは頭が割れそうです・・・。

 

 「じゃ、やっぱり人間じゃないんじゃないか、お前」


 そうだ、そんなもの人とは言えない。

 人はもっと常識の中で生きるものだ。

 少なくとも俺に魔法なんて物は使えない。


 「ひどーい、人間だよー。魔法を使う人間を魔法使いって言うんだよ」


 頭がクラクラする。

 

 「君たちが言う魔法とは少し違うけど・・・」


 説明聞く?なんて聞いてきやがるから、俺は手でそれを促す。


 「少し長いけどしっかり聞いてね」


 と、言って一息おく。

 

 −−−そして彼女は話始めた。



 −−−魔法。

 それは忘れられた神秘。


 と彼女は言う。


 「神秘?」

 「そう、神秘。君たちがいう、科学では解明できないもの・・・それが神秘なの」


 と笑顔で答える。

 俺は黙って彼女の話を聞く。

 それに気を良くしたのか、ノリノリで話をつづける。


 「でも、それは解明されないだけで、それ自体はただの現象にすぎないの。魔法はね、古代の人から伝えられ続けた神秘なの。そして、魔法は人々の記憶から消えた・・・だから、解明する者もいない。それは、魔法使いにとってはとても喜ばしいこと」


 彼女が言うには神秘を神秘たらしめているのは、それが解明されていないからで、その理由が解ればそれは神秘ではなくなり、ただの現象と成り下がる。

 つまり理科の実験でやることと大差が無くなってしまうのだ。

 だが翼が生える理由なんて今の科学で、どう説明しろというのか?


 「つまり、その現象を使うのが魔法使いって訳か?」



 うん♪と、とても機嫌よく頷く。

 そして彼女は話を続ける。


 「だからね、魔法は隠さなくちゃいけない。だから魔法使いってばれたら、その人を殺さなくちゃいけないの。箒の時代はその相手を蛙にしちゃってたそうよ」


 成る程。

 だから、そんな掟があるのか。

 納得したのだが、それは凄く理不尽な気がする。

 というか、さっき言ったことまだ引きずる気か、こいつ。


 「あとね、一概と魔法って言っても、色々あるんだけど。私は、一般的には魔術師って呼ばれてるものよ」

 

 ん?

 魔法と魔術はイコールではないのだろうか?


 「えーとね、魔法ってのは括りなのよ。例えば動物っていても、色々いるでしょ?」

 「それは爬虫類とか、哺乳類ってことか?」

 「うんうん。君、理解が早いわね。はなまるを上げましょう」


 だが、そんなものは欲しくはない。

 適当にあしらって、続きを話させる。


 「えー、はなまるって凄いのに・・・」


 不満そうに話を続ける。


 「そう、つまりは動物という括りが魔法。哺乳類、爬虫類ってのが魔術。魔術と並ぶものは、錬金術とか法術とかね」


 ふむ、法術とは坊さんが使う奴か・・・錬金術ってのは金を作る術だったな。


 「まてよ、錬金術って科学だぞ」

 

 科学で解明されているのなら、それは神秘じゃないはずだ。


 「それは金を作るという行為だけ。錬金術には人造生命体とか賢者の石とか、まだ色々あるの」


 少し不機嫌に言われる。

 話を切ったことがまずかったか。


 「すまん、話続けていいぞ」


 少しジト目で睨まれたが、どうやら話は続けてくれるらしい。


 「まぁ、錬金術は専門外だけど、魔術のことは教えて上げる。魔術っていうのはね、大気の力を使った現象のことよ。大魔力源−−−マナを使うの」

 「マナ?」


 また聞きなれない、単語だ。


 「世界にはねマナと呼ばれる、自然エネルギーが溢れているの。火、水、風、土、雷、そしてその上位として、闇、光があるの。そして、そのマナはすべて扱える訳じゃない、魔術師にはそれぞれ属性があって、自分にあったマナしか扱えないの」


 あー、こがらがってきた。

 その、つまり・・・


 「属性ってのは哺乳類の中の猫科とか犬科の事で、自分の仲間の属性しか扱えない・・・そういう事?」

 「うん大正解!はなまるを二つあげましょう。因みに私は上位属性の闇なの」


 少し偉そうにいう。

 正直、凄いのか分からない。


 「じゃあ、そのマナってものを扱えれば魔術は誰でも使えるって事か?」


 ふと、そんな事を思い付く。


 「残念だけど誰でも使えるわけじゃないの。魔術を使うには、私達のからだの中を流れる魔力が必要なの。しかもそれはすべての人間が持っているわけじゃない」



 ふむ、自然のマナと自分の体内の魔力。

 つまり、その二つが揃って魔術が使えるって事なのか。


 つまり整理するとこうだ。


 魔法という大きな括りの中にあるのが魔術で、更に属性と言うものに別れる。

 そして魔術を使うには、自然界のマナ、体内で作られる魔力が必要って訳だ。


 少しずつ理解できた。

 ふと、ここで疑問が浮かぶ。


 「なんで、こんなことを俺に教えてくれるんだ?」


 だって魔法は秘匿するもの、一般人に知られればいつの日か科学によって解明されてしまうかもしれないのに。

 そんなリスクを負ってまで、俺に話す理由・・・どうしよう、嫌な予感しかしない。


 「何故って、君に道を聞くからよ」


 と彼女は言った。

 しかし、その言葉をそのまま捉えるのは危険すぎる。


 「協力お願いね♪今日はもう遅いから、明日からお願い」

 「おい、ちょっとまった!どういう意味だ?」





 そいつは満面の笑みで答えた。


 「だから明日から魔法使いを探す手伝いよ。道案内よろしくね」


 ああ、なんて事だ。

 出来れば、他をあたってもらいたい。

 つか、何で俺!?


 「ほら、ほら、魔法の事もっと教えたげるから。方向性とか魔方陣の作り方とかさ」


 しかし、彼女はその気はないようだ。

 ため息が漏れる。


 「さて、今日は君の家に泊めてね。うーん、久々にあったかいベッドで眠れる。あっ、後、シャワーも貸してくれると助かるな♪」


 んー、どうした?

 何かがおかしい。

 いつからそんな流れになった?

 それだけは駄目だ。

 絶対に駄目だ。

 断固駄目だ!!


 「ほらー、早くしなさいよー!置いてくぞー!!」


 一体、あいつは何処に向かっているんだろう?

 きっと俺の家だ。

 

 「はぁ」


 もう、ため息しかでない。

 でもま、野放しにしておいたほうが危険だろうし、見張ると言う意味でも、家に泊まってもらった方がいいだろう。

 俺のような被害者が他にもでないとも限らない。

 そして、とっとと用件を済まして家に帰ってもらうとしよう。


 「おーい。どこ行く気だ?俺んち、こっち」


 と、彼女の歩く方向とは逆を指差す。

 ま、悪い奴でも無さそうだし、1日くらいなら何とかなるだろう。

 野宿でもされたら寝覚めも悪い。

 しかし一つ、俺は妙に引っ掛かる事があった。

 それは何か分からない。

 分からないから気にしないことにしたのだ。

 いや、努めて忘れようとしてたのかもしれない。




 ・・・そう、それは


 −−−彼女は紛れもなく人を殺し、それを楽しんでいた・・・


 魔法使いが魔法を使う人っていうならば、あの行為は殺人であることに変わりはないのだということを。


 俺は都合良く忘れていたのだった。

読くださった皆様、ありがとうございます。


既にお気づきの方もいると思いますが、思いっきり、ある小説?をパクった感じになってます。

魔法のあたりは思いっきり“参考”にさせていだだきました。えぇ、“参考”ですとも・・・。

まぁ、文章力に関しては、神と塵の差なんで、許して下さい。


Fa〇eって面白いよね!




登場人物


 流神 水菜 (はやりがみ みずな)


 アゼル (あぜる)


 “主人” (あるじ)



一応、こういう読み方ですが、自由に読んで頂いても結構です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ