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無限の夜  作者: Garden
1/8

0、オープニング

 仮面の紳士が語る。

 “わたくしの名は虚無−−−ブァニティーテ。私はセカイの案内人。今宵、案内させて頂きますは無限。どうか、お付き合い下さいませ。なぁに、そう気張る事はございません。途中下車は可能なのですから・・・。では、参りましょう。終わりの無い葛藤、苦しみ、そして身の毛もよだつ苦痛。貴方はこのセカイをどう評し、どう感じますか?”


 ・・・。


 しん、と夜の闇が辺りを支配している。

 風で揺れる木々は、まるで生きているかのようで、不気味だ。

 頭上に浮かぶ月は満月で、まるで空にポッカリ空いた穴のよう。

 そんな手をのばせば吸い込まれそうな不気味なクレーターの周りで、これまた不気味に光る夜の星。


 −−−そんな素敵すぎる今日の空に見とれながら、私は口元を吊り上げる。


 嗚呼、なんて切ない。

 こんな素敵な夜に、こんなにも素敵な空を舞う事が出来ないなんて。

 私は舞姫・・・優雅に、妖しく、魅力的に踊るのが私の存在の証明なのに・・・。

 

 −−−ガチャリ


 妖しく静寂を守る夜に響く鉄の擦れる音。

 嗚呼。今はこの不自由な四肢が憎い。

 私は両手両足を力任せに引っ張ってみる。

 

 −−−ガチャガチャ


 しかし鉄の擦れる音が虚しく響くだけで、両手両足は未だ不自由なままだ。

 私は自分の四肢を拘束している鎖を睨む。

 しかし無機質な鉄の紐はただ自身の自由を拘束し続けるだけで、なんの変化も無い。

 そんな退屈に私は溜息をつく。


 木々が唸る。まるでこの森の叫びの様に、ギシギシと木が軋む。

 叫びたいのは私の方だ−−−。

 そんな悪態をついてみても、なんの変化もない。

 退屈。一体こんな惨めな状況に晒されてから、どれだけ経ったのだろう?

 普段は足りない位に感じていた24時間が、こんなにも焦れったく感じるなんて・・・。

 まるで太陽と月がグルになって私に意地悪してるようだ。


 退屈というのは、なんてこうも下らない妄想を生むのだろう?

 あり得るハズの無い事を考えてはそれを否定する。そんな堂々巡り。

 私が此処から解き放たれるという妄想を作り上げては、それを壊していく・・・そんな事を一体何日繰り返したのだろう?

 何週?何ヵ月?何年?

 いや、まだ1日すら経ってないだろう。

 だが、そんな事は些末なコトだ。

 私にはこのゾッとするような時間こそが、永遠なのだから。

 退屈とは毒だ。

 私は別に食べなくたって、飲まなくたって、眠らなくたって、生きていける。

 どんなにケガを負ったって、どんなに身体を引き裂かれたって、ある程度は回復できるし再生出来る。

 でも退屈はダメだ。

 心が死ぬ。

 

 生きているのに死ぬ。

 此処にいるのに死ぬ。

 

 朽ちず、果てず、消えずに死ぬ。

 それは死以上の死だ。


 私は自分の惨めさに息を飲む。

 こんな拷問がこれから永遠に続くのだ。

 流石の私でも泣きたくもなる。

 

 ザァァ、と風が吹き、木葉が散る。

 そんな中、ぽつんと人影が現れる。

 それは、よく見知った嫌な顔だった。

 私はキッとその男を睨む。

 黒のコートに身を包み、黒のフードで顔を隠している。

 背丈は170弱。歳は・・・えーと、16そこそこの少年だろう。

 フードで隠れきれない肌はとてもツヤがあり、柔らかそうだ。

 口元は小さく、美少年であることが予想である。

 そんな怪しい風貌をしていなければ、是非仲良くなりたいものだ。

 そんなどこぞのエクソシストのような格好をした少年は、ご機嫌如何?なんて聞いてきやがった。

 私は答えない。

 すると少年はクスクスと笑った。

 私はそれが酷く気にくわない。こんな鎖さえ無ければ直ぐにでも、その綺麗な顔を血みどろにして見るも無残な容姿に変えてやるトコなのにっ!

 私は自分の無力さに腹を立てた。同時に悲しくさえ思った。

 初めて感じる、悲哀。

 それは私から抵抗する意欲を奪っていった。

 少年はそんな私に気付いたのか、ニヤリと笑う。

 ああ、もう好きにしてくれ・・・こんな永遠なら、今すぐ終わらせてくれ。

 私は自暴自棄になって目を瞑る。

 こんな無力さを味わったのは、この世に生を受けて初めての事だった。


 私は力ある存在だった。

 無力さなんて感じた事は一度だって無かった。

 だから私はいつだって勝者。敗者の事なんて考えた事は無かった。

 だが今は違う。今の私は惨めで無様な敗者。勝者はこの胸糞わるい少年の方。

 私の頬を熱いモノが流れる。

 それは目から際限無く流れ出てくる。

 私はその熱いモノに触れる。

 それはきっと私がずっと忘れていた人間が持つ機能。

 嬉しいとき、悲しいとき、悔しいときに流れるモノ。

 人間が優しい生きものだという証であるモノ。

 本来、決して私が流すことの無いモノ。


 そう、涙と言う宝石。


 私はソレを止めようと努めた。・・・だが、止まらない。

 

 アツイ、アツイ、アツイ。目が頬が身体が焼ける様に熱い。

 それは灼熱より熱く感じた。私にとってそれは、どんな炎より熱かった。

 傷は負わないが、酷く痛い。死にはしないが、酷く苦しい。

  

 −−−そうか、コレが


 カナシイって事なのだと、思った。

 

 初めてのカナシミ。それはどこからともなく込み上げてくる。


 痛くて優しい。

 辛くて甘い。

 赤くて青い。

 

 それが私が感じた、初めてのカナシミだった。






 少年はそんな私を、ただ見下ろす。

 やさしい言葉でも叱咤の言葉でも無く、ただ無言でコチラからは伺う事の出来ない目で見下ろしている。


 どの位、どれだけの量の涙を流したのだろう?

 気付けばその際限無くあふれ出ていた熱いモノは、閉じた蛇口の様に止まっていた。でも今だに心臓は口から出てきそうなくらい、私の中を暴れ回っていた。


 黒コートの少年はそれを確認すると、ようやく口を動かした。

 

 ザァァ、と木葉が揺れる。

 私は少年の言葉が風の所為で間違えて聞こえたのかと思った。

 だって、あり得ない。

 絶対にあり得ない。

 そんな事はあり得るハズが無い。

 だが少年はそんな事をもう一度、言葉にする。


 あぁ、また目尻が熱くなってきた。

 また「カナシミ」が私を襲いに来る。

 そんな私を追い立てるかのように、少年はその言葉をさらに投げ掛けてくる。

 きた・・・「カナシミ」が私の頬を伝って再び流れる。

 だが疑い用が無い。

 少年は疑う余地の無いくらいの笑顔で、その優しい声で、確かに


 「自由にしてあげる」


 と言ったのだ。


 今度は不思議と痛みは感じなかった。

 初めましてGardenと申します。何処まで続くかわかりませんが、宜しくお願いします。


 最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。


 文章、もっと上手くなるよう頑張ります

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