[連載開始]私は魔法を使えるらしいので、最低な婚約者とその相手に倍返しざまぁをする〜婚約破棄後の人生は私の生きたいように生きますわ〜
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「えっっ。これは走馬灯かしら?」
次々に流れてくる今まで体験したことのないような出来事。あら。それだったら走馬灯ではないのではないかしら?
ん?私逆行してる?んん??逆行時を前世だとしたら、前々世も覚えている?……ということは転生2回目?!ちょ、ちょっと訳がわかりません。
でも、これだけは分かりましたわ。私が、魔法を使えるということ。しかもかなり最強だということ。そして、1番大切な事は、婚約者が最悪な人でその相手もひどい女の人だという事。
あら。公爵令嬢の割に言葉遣いが悪くてごめんなさい。でも前々世は孤児でしたの。だから、どうか広いお心でお許しくださいませ。
今の状況を説明してくれ!ですよね。
話は、少し前に遡る。
私は、アクランド公爵家の長女という事で、ずっと昔から第2王子の婚約者である。今日は、来たる1週間後の結婚式についての話し合いと第2王子妃になるための最後の教育とので王宮を訪れていた。
ここまでは、何もいつもと変わらなかったけど、ただ1つだけ違ったことがあった。それは、王宮から公爵家へ帰る途中の王宮の庭園で、第1王子殿下から声をかけられたことだった。
「マルティーナ・アクランド令嬢。あなたはこのまま愚弟と結婚してもいいのか?」
「……急にそのようなことを仰るのはどうしてでしょうか?」
「いや、なんでもない」
結婚1週間前。
その言葉は私の結婚への決心を揺さぶるのに十分過ぎる言葉だった。
だって、この言葉は義理の兄とはいえ、私の婚約者であるベイビー第2王子と共に過ごす家族の言葉なのですから。
もしかしたら、私が見えていないベイビー様の大きな欠点があるのでは?
そーんなことを考えながら歩いていると、見たことのない景色が広がっていた。
あら。ここはどこかしら?王宮ではなさそうなのだけど……
ここは……どこかの森ね!なぜなら木がいっぱい生えているから!いや、皆がわかる状況なのだけど……
私は迷子になってしまったのかしら……いや、きっと迷子よね。
私は家族に大切にされて育った温室育ちの娘だし、本当は家の馬車に乗って帰るはずだったのだから、ここで迷子になるのは本当に誤算よね。
やってしまったわ……
そう思っていた時だった。
バターン。
木をなぎ倒す音がした。
音がしたところを見ると、フェンリルがいた。
あら。フェンリルがいるわ。となる訳がない。
ま、まずいわ。早く逃げなくちゃ。私は慌てて令嬢らしからぬ走りで逃げ始めた。
逃げながらも思考は働き続けた。
フェンリルが通る範囲はたくさんあるのに、なぜ、わざわざ木を倒したのかしら。もしかして、逃げることができるように、前もって"今から俺様が君を襲うから逃げてみろ"って合図をしてくれたのかしら。意外と優しいわね。
そして、あのフェンリルはモフモフしてて、可愛らしいし触りたいわね。
あら。今大事なことを思い出したのだけれど、私逃げ道が分からないんですけど。だって、こう見えても迷子ですから!いや、どう見ても迷子にしか見えないのだけれど……
何度考えても、やっぱりあのフェンリルの様子はおかしいわね。
フェンリルは自分の生息地が侵されない限りは人間の住む場所にはなかなかやってこない。ましては、攻撃なんてしてくるはずがない。
たとえ攻撃してくるとしても、今回のようにわざわざ自分の存在を明らかにするような事はしない。彼らは賢いのだから、静かに一瞬を狙って、すぐに獲物にとどめを刺すはずだわ。
もしかして、状態異常かしら?
結論に至った瞬間、フェンリルは私のすぐ後ろにいて私の頭に齧り付こうとした。
結論が出た瞬間に私は死ぬのね。私の人生の最高の思い出は……と思い出している時だった。
冒頭のように走馬灯らしきものが脳内に映像として流れ出した。
一瞬にして、私が逆行しているという事実ーーマルティーナ・アクランドとしての人生が2回目だという事。さらに実は、私は前々世は孤児で、闇魔法という魔法を使っていたという事実を思い出した。
流石にまだやりたい事はたくさんある!今死んだら後悔しかない!絶対死にたくないわ!
だから、一か八か、闇魔法が使えると信じて使ってみますわ!
「正常化」
闇魔法はその他の魔法と違い発動の仕方が異なる。闇魔法はこの地にある瘴気を使い、魔法は自分自身の魔力が必要だ。
上級闇魔法使いは瘴気を集める様子を見せる事なく発動させることが可能なのよね。もちろん私もできます!その闇魔法でも"正常化"は上位に魔法で、闇魔法特有なものよね。
原理としては、より強い闇の力である瘴気で、魔物を異常状態にしている元凶を抜き取る。そして、闇魔法の源である瘴気に変え、相手から吸い出して、瘴気を外に分散させるといったものだ。
フェンリルから少しずつ瘴気が出てきた。
私の闇魔法が発動できたのね。
そうして、荒々しかったフェンリルの様子が一転し、穏やかな雰囲気になり、私にすり寄ってきた。
あら。想像通りのモフモフで気持ちいいわ。
今気づいたのだけれど、黒い毛並みが黒混じりの銀灰色のように見えるのは気のせいかしら?
まぁ、死ぬと思った時はフェンリルから逃げていて毛並みの色までじっくり見る余裕なんてなかったのだから、分からないものはよく考えても分からないわ。
まずは先ほど思い出した事実を整理しましょう。
マルティーナ・アクランドとして生きた1回目の人生。
私は結婚後に火・土・水・風・光魔法を発現させた。
光魔法は初級レベルしか使えないのだけれど、残りは中級レベルほどは使えるようになっていたわね。
この世界では、魔法を使える人はそこまで多くない。 こんなに多くの魔法を1人で使えるなんてレアケースだ。
その上、闇魔法と光魔法は使える人はいなかったから、光魔法を使える人は帝国内で私だけだった。
だから、私はかなり王家から大切にされるはずだった……
それなのに、あのひどい人は浮気をしていた挙句、自分の王宮での立場を確固たるものとするために私に魔物討伐にばかり行かせていたわ。
第2王子妃として国民のために。と思ったら、まだ許せるわ。でも、私が命をかけて魔物討伐をしている間、あの人は浮気相手とウ・フ・フな事をしていた。せめて、政務くらいしておいてくださいませ!
しかも、私のマルティーナ・アクランドとしての1度目の人生を終えた理由。
それは、私が魔物討伐から帰ってきて、ボロボロ雑巾のようになった時。
私が力尽きている時にタイミングよく、何故か魔物が王宮内に侵入していた。
私の目の前に広がるのは、魔物の餌食になりかけているあの人。
何も考えずに、私はあの人の前に立った。
もう魔法を発動できる力はない。
呆気なく、私はあの人を助けて死んだ。
今考えると、何故あの時に助けてしまったのかしら。あの人に恋をしていた……なんて訳はない。
だって、あの人は、"顔は整っている"と言われているけど、私のタイプではないし、性格もタイプではない。あの人は、自分で何かを成し遂げようという気合いを感じられなくて、ただ王族という立場で色々なことを享受しまくるだけの人で、大変な事は全て他人に押し付ける人なのよね……
ここまでとこれからの言葉遣いと愚痴は、"彼の前世の行動は、そこまで許しがたいものだった"という事でお許しください。
結局、私が死んでまであの人を助けた理由は、幼少期から共に過ごしていた情と、結局は王家の臣下である公爵家としての責任感から取ってしまった行動だったのよね。
私と、前世と今世で行動が違うのなら許せたはずだわ。でも、今も大して変わらない気がしてきた。
今の状況を振り返ると、あの人はある令嬢とずっとくっついて一緒にいる。学園の課題は私に押し付ける。さらに、浮気相手とあの人は、私を蔑み馬鹿にした目で見て、いつもコソコソと話し、クスクス笑っている気がするのよね。
今思うと、なぜ許せたのかしら。思い返せば、私と彼に全く興味がなかったから、別の事を考えながら対応していたからかしら。
そして、嬉しいことに逆行前の結婚式を思い出したわ!
王宮内で開催したのだけれど、婚約者はその浮気相手の令嬢をエスコートし、側室に迎えると宣言をして、彼女とずっと共にいたわね。
私は結婚式なのに相手がいなくて周りからは同情されていたわね。
ふふふ。この結婚式はいい機会なのではないかしら。
前々世の私の二つ名は、前々世の私の名前。そして、"普段は怖くないのに、怒ると恐ろしい"という私には実感できない理由から"豹変マーシャ"
やり返すと決めたらとことんやり返すという私の性格から"倍返し製造機"
だとか呼ばれていたのよね。
この機会にやり返しをしないと、前々世の私の二つ名が廃れてしまうわ。
今、最っ高なやり返しを思いついたわ。
ただ、今世は、闇魔法を使える人は"悪魔"だとか"魔女"だとか呼ばれ、処刑されるから気をつけないといけないわ。
上級闇魔法を披露できないのは惜しいわ……まぁ。それ以外の魔法を披露できるから我慢しましょうかしら。と考えれば考えるほど、来たる結婚式への楽しみな気持ちが膨れ上がり、ついつい鼻歌を口ずさんだ。
ところが、ワクワクする気持ちも束の間、急に闇魔法を使った事と、やり返す方法を考えて頭をフル回転させたから、眠気と甘いものへの食欲が湧いてきた。
早くお家に帰ろう。と思ったのだけれど、そういえば私は迷子だった。言い方を変えると、私は前々世は最強闇魔法使いだったのに、方向音痴という弱点があったのよね。だから、前々世も上級闇魔法が使えるのに1人で討伐できるほどの魔物と戦う時だって、孤児仲間にペアを組んでもらっていたのよね。
今世でもこの弱点付きなの?!まったく欲しくないんですけど……と思いながら、途方に暮れていた。
何気なく、周りを見渡すと、フェンリルが歩き出した。これは、フェンリルについて行くべきだわ。と思い、フェンリルと共に歩くこと30分。
私には救世主がいたようですわ。
なんと、王宮の庭園に着いたのですから!
もちろんモフモフを堪能して、フェンリルとお別れをし、公爵家の馬車まで嬉々として向かった。
もちろん、いつも通る道ですからすんなりと馬車の方にたどり着けたのでご安心を。
ふふふ。明日からはやり返しの準備よ。と思い、私はスイーツを食べ、食べ、食べまくり、寝て、寝て、寝まくった。これは私にとって、とても必要なものですからね!
そして、迎えた結婚式当日。
前回は王宮内でやったのだけれど、今回は美しい湖が広がるこの前第1王子と出会った庭園とは違う庭園で結婚式を開催することにしました。
もちろん全ては"やり返し"のため。
そして、初めて婚約者には感謝しましたわ。婚約者は結婚式には興味がないのか、むしろ前回のようにあの令嬢を側室に迎えるために珍しく頑張っているのか、この結婚式に関して何も意見を言わなかった。ということは……私の意見が必ず通る。
ふふふ。全ては私の思惑通り。
さぁ。始まったわ。
王宮内の庭園は、沢山の美しい花に囲まれ、花の馨しい香りに包まれている。愛し、愛されている結婚式なら本当に最高な結婚式よね。もちろん、そんな結婚式ではないのだけれど……
前回の通りだともうそろそろ始まるわ。
前回は、結婚式が始まる前にオーケストラが演奏を始めた。
その瞬間に、いかにも愛し合っている2人、と言った様子での登場だ。そして、オーケストラが演奏を終えると、結婚式の前に側室宣言をするという異例の事態が起きたのですからね。
今まさにオーケストラの演奏が始まった。
登場してきたわ。愛し合っている2人が。
登場を終え、観客から1番よく見える所に2人が到着し、側室宣言をする様子を見せる。
タイミングよく演奏を終える演奏者達。
そして、婚約者が声を張り上げる。
「ここに集まってくれた者達。感謝する。まず彼女を紹介させてくれ。私の側室となるベティー・バーカー嬢だ」
参席者達は、ざわめき始めた。
「な、なんだと。バーカー男爵家のご令嬢ですと?!」
「大出世ですなー」
「側室にしたい気持ちも分かる。あの庇護欲そそるウルウルした表情にあの女性らしい体つき」
私は庇護欲そそる顔と言える顔ではないし、女性らしい体つきではないからごめんなさいね。
そんな失礼な言葉も、これから始まるショーの余興だと思えるので、許して差し上げますわ。
そんな参席者と私の感情を置き去りにして、婚約者は言葉を紡ぎ続ける。
「私の最愛の人だ。彼女を傷つける者は何人たりとも許さん」
あら。カッコいい男主人公みたいな言葉ね。
カッコいい自分に浸れるのは今だけですわよ。
だって、浮気は浮気な上に、人をこき使ってポイっと捨てる人ですもの。
そう言って、彼は宣言を終えた。
すると、どこからか司会者が現れ、こう言った。
「それでは、マルティーナ・アクランド公爵令嬢からのお祝いの言葉です」
は??会場の人達、もちろん婚約者もその浮気相手も意味がわからないと言った様子の表情を露わにした。
もう。皆さん。貴族なのですから感情は隠さないといけないですわ。そして、驚くのはまだまだ早いですわよ。
そう思いながら、私は、私のやり返しの舞台である湖の前に立ち、こう言った。
「ベイビー・ベリンガム殿下、ベティー・バーカー令嬢。婚約おめでとうございます」
すると、婚約者はこう言った。
「は?婚約だと?」
「えぇ。そうですわ。殿下。殿下と私は、今この場で婚約破棄となりました。その代わりに殿下は最愛の人と婚約できたのです。お祝い申し上げますわ」
彼は焦り、焦り、焦りまくった。
なぜなら、元婚約者は私の家である公爵家が後ろ盾にあったから、王宮での第2王子という立場があった。
そうでなければ、彼は第2王子としては役に立たないので、かなり肩身の狭い思いをしていたたのだろう。
私の家のアクランド公爵家は何度もあの人と縁を切ろうとしたが、温室育ちの私があの人に同情していたことと、王家のお願いにより辛うじて後ろ盾になってあげていただけだった。
まあ、今回でそれも終わりね。と思い、私は言葉を紡ぎ続ける。
「それでは皆さん。ご覧ください。元婚約者の私からのささやかなプレゼントです」
私はオーケストラの演奏者達にまだ合図をする。
えぇ。実は、演奏者達は私の味方ですから。
音楽が流れ出す。
私は、魔法を発動した。
まずは初級レベルの光魔法。
そう。帝国では誰も使えない光魔法を私が使えることをアピールするために。初級レベルしか使えないのだけれど……
でも、初級レベルでできることとして、映像を写すためのスクリーンが作れるから、これを利用するわ。
湖の上に現れた白く光輝く壁。
参席者達がまたもやざわめき始める。
「こ、これはなんだ」
「失われた光魔法だと?!」
「殿下は光魔法使いを失うという勿体無いことをしたな……」
その中でも一際大きな声が響いた。
「マルティーナが魔法を使える?!」
ふふ。私は1週間元婚約者に魔法が使えるようになったことは隠していましたからね。
そう思いながらも集中をし続ける。
私が作り出した光の壁に、あらかじめ魔道具で取っておいた映像を流す。魔法を使える人達が減ってからは、魔道具が盛んになったのよね。そう感慨深く思いながらも続ける。
その映像からは男女の2人が現れた。
そう。5日前にあった密会も捕らえたもので、その2人とはベイビー様とベティー嬢だ。
そして、ある会話が繰り広げられる。
「俺たちは運命だ。ベイビーにベティーと名前の響きがよく似ている」
「えぇ。神様が私たちがいつまでも一緒にいられるように。と願っての名前なのですわ。でも殿下には婚約者がいらっしゃいますわ……」
「あんなものはどうとでもできる。お飾りの妃だ。私には君だけだ。めんどくさい政務とやらを押し付けるだけの存在だ」
「っっまあ。それでしたら、あたし達はずっと一緒に居られますのね」
そうして、近づく男女の影。顔と顔が触れ合うのではという瞬間に私は湖に向かい水魔法を発動した。
スクリーンの付近に噴水のように水を湧き上がらせて盛り上がる。ハート型の大きな雫を作り、スクリーンの見せてはいけないウ・フ・フなシーンを隠す。
参席者からの声に耳を傾けてみる。
「なんてひどい言葉だ」
「これはアクランド令嬢が可哀想すぎる」
ええ。この言葉を聞いた時は、本当に苛つきましたわ。
そう思いながらも、まだまだ映像を続ける。
次は、私に課題を頼むシーン。4日前に撮ったものだった。
「マルティーナ。これを頼む。君は頭だけはいいのだから、こういう時にこそ役に立ってくれ」
「えぇ。わかりましたわ」
会場内は騒然とする。
「これが、私たちが支える第2王子殿下なのか?!」
殿下の人に頼むという割に偉そうな態度。
課題とはいえ、自分1人ではできず、教えてもらうのではなく、人に頼むという短慮な考え。
第2王子という貴族の模範となるべき人が努力もしない態度。
まだ、続く。
3日前の学園での魔物討伐。
魔法が得意な同級生を盾にし続ける。
「俺は第2王子なのだから、命がけで守るのは当たり前だ」
そして、優勝を勝ち取った。
その時の一言。
「私がいれば、優勝なんて容易いものだ」
参席者からは、あなたは何もしていないでしょ。と呆れた様子が伝わる。
本当に惜しいことをしたわ。逆行前の私が、ボロ雑巾のように使われている映像が流せたら……と思ったけど、こんな人と結婚しないで済むのだから。と気持ちを持ち直しながら、火魔法を発動させる。
スクリーン付近にポンポンと火の玉を作り、演出を盛り上げる。
さらに、もう一つの映像。これは昨日の出来事だ。
この映像私も衝撃的だった。
ある男女の密会。
ベティー・バーカー嬢とある男性だった。男性の方は、水魔法で顔を隠している状態にしているが、明らかに第2王子ではない人との密会。
「あなたのこと愛しているわ」
「あぁ。僕もだ」
そして、気を良くしたベティー・バーカー嬢は口が滑ってしまった。
「殿下なんてお遊びよ。私は、あなたが1番好きなの」
「……二股だったのか?僕には殿下と争うなんて無理だっ」
そう言って、逃げ出した男性。
もちろん、この相手はただ騙された可哀想な人なので、その相手が誰かわからない状態で映像を流している。
相手の男性には、映像を流すことに許可をもらい、念のため公爵家が保護している。まぁ、この密会にいたベティー嬢以外は相手を特定できないのだけれど。
参席者達はベティー嬢に理解しがたい者。という顔で見た。流石に王子のあのカッコいい宣言の手前、批判はできないと思ったのだろう。
しかし、その映像を見た王子は顔を引きつらせ愛する彼女に質問した。
「ベティー、これは嘘だよな」
すると、質問をされた女性は青ざめた顔で短く答えた。
「えぇ」
参席者は皆、知っている。
この映像が嘘ではないことを。
この映像の魔道具は実際に起きたことしか写せない。なぜなら、過去に起きた出来事を記録に残すためのものとしてしか使用できないのだから。
それでも、参席者は、静観を続ける。
そして、クライマックスだ。
火の玉をポンポンと大量に弾かせ、水魔法で噴水や、ハートの水の球を作ったり、アーチ形を作り、ある静止画を光の壁に写す。
仲睦まじく手を繋ぐベイビー第2王子とベティー嬢。
私は、その映像に合わせて3つの魔法を発動する。
土魔法で、ベイビー第2王子とベティー嬢の像を湖近くの陸に作り上げた。
火魔法で、スクリーンの手前にこう表記する。
"婚約おめでとうございます。
ベイビー・ベリンガム様、ベティー・バーカー様"
そして、ロマンチックな彼らのために風魔法で花吹雪をチラチラと巻き起こす。
参席者達からは感嘆の声が漏れる。
「す、すごい」
「何種類の魔法を使うんだ」
それを聞き届け、私は最後の挨拶をする。
「どうぞお幸せに」
そして、迎えに来る人は元婚約者がライバル視していたけど、全く敵わないからとても嫌悪していた第1王子のレイモンド・ベリンガム様。
私は、彼にエスコートされてこの結婚式を退場した。
退場する前に、元婚約者の声が会場内に響き渡った。
「マルティーナ、なぜこのような事実を隠したのか?」
私は、もう2度と会わないだろう彼への餞として、私史上最高の笑顔でこう答えた。
「隠したほうがこの演出が盛り上がるでしょう?」
第2王子が、今後もその座に入れるのかはわからないのだけれど、彼にとっては、彼が1番嫌いな第1王子殿下と私が良い仲になっているのではないかと疑うのだろう。それと同じように、参席者も魔法を使える令嬢が第2王子ではなく、第1王子殿下を選んだと考えるのだろう。
もちろん、そんな仲ではないのだけれど。これも思惑の通りよ。
そして、第1王子殿下と王宮内に戻ると、やり遂げまたわ。と達成感が湧き上がる。
ここで、一つ疑問に思うでしょう。
なぜ、王家の人達が王族の一員がここまでやり返されるのを見逃していたのか。ということについて。
それは、私が前世と前々世を思い出した次の日に私は家族であるアクランド家全員と共に王宮に訪れた。そして、私が多くの種類の魔法が使える事を、事前に第2王子以外の王族の方々と家族にお披露目し、ある契約を交わしたからだった。
来たる結婚式では、私の好きなようにできる。
その代わりに、国の魔法師団に入団すること。家族の皆は王家の前なのに、私の意思を尊重する。という考えを示してくれていた。王家とアクランド家は元々仲が良いためこのような態度を取れるらしいわ。
あら。でも、魔法師団に入団するのは素敵ね。と思った。なぜなら、前々世は孤児仲間と闇魔法でこの国の英雄になると、孤児仲間達と約束したのだし……その目標を達成するために、魔法師団の入団は良さそうね。と思った。
ただ、私も前世で第2王子から、この能力を持つことでボロ雑巾のように使い捨てられたことは忘れていない。
魔法師団に入団し、危険な魔物と戦うのは国のため、人のためだから名誉ある事だと思い頑張るけど、私を盾のように使い、私に何かあった時に、王家や魔法師団が私を見捨てたりするようなことはしない。という契約ももぎ取った。
そんなこんなで、この様なやり返し劇場が開催されたのだった。
その劇場の後ーー
第2王子殿下とベティー・バーカー嬢は身分を剥奪された。
そして、元第2王子殿下とベティー・バーカー嬢は結婚したのか。元第2王子は浮気をしていた最愛の彼女をまだ愛しているのか。私は彼らのことは、もう興味がないのでわからない。巷の噂では、元第2王子殿下は心を入れ替えて騎士として努力している。という事を聞いた気がする。
私は……というと。
魔法師団に馴染み、沢山の良い仲間ができた。第1王子殿下や魔法師団長だけではなく、なんと前々世の仲間とも出会えた。
そして、魔物討伐で危機的状況にあったり、何かあった時で、他の魔法で対処できない時は、光魔法の初級でも発動できる目が眩むほどの光を発現させ、バレないように闇魔法で対処していた。これは私の通常営業のうちだった。
……だって、使えるものは使いたいし、私が使える上級魔法は闇だけですから。
仲間達が何をしたんだ?と疑うと
「光魔法を発動させました」
という台詞が常套句となり、前々世からの仲間もフォローをしてくれた。
今世では、誰も闇魔法と光魔法が使えないので、この常套句をいうと、皆納得してくれていた様に思う。決して納得しているフリをしている……なんてことはないと思うわ。
そして、私の二つ名は、"豹変マーシャ"や"倍返し製造機"ではなく、"怒ると恐ろしい聖女"と"やり返しの英雄"というものになりました。
この二つ名を見る限り、前々世からの目標達成しました!と胸を張って言える気はしないけれど、"英雄"という二つ名はゲットできましたから、目標達成ですよね?
今は前より幸せですか?と聞かれたら即答したいですわ。
もちろん。幸せです。
最っ高な仲間達に囲まれているのですから!
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
連載の方もよろしくお願いします。
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