死の咆哮、そして生まれる絆
だいぶ時間が掛かりました。
読んでくださっている方、いらっしゃいましたら申し訳ありません。
side バロン
突然目の前に現れた黒い大きな獣に、僕は生まれてはじめて怖い、と思った。
本能が、生物としての格の違いを察知する。
僕を睨みつけたあと、獣はゆっくりと先に仕留めた緑のやつを食べている。
コイツは分かってるんだ、今僕が恐怖で動けなくなっているのを…。
さっきから頭の中で逃げろ!早く!!と考えても身体が全然言うことを聞かない。怖くて震えて何も出来なくなってる。
それを分かってるから、こうして目の前で見せつけるように食べてるんだ。
次はお前だ…って。わざとゆっくりと食べているけど、あんな緑の小さいやつすぐに食べ終わるだろう。それが僕の最後になる。
「グォッ!」
ヤツは度々僕に声を飛ばしてくる。
その度に僕の身体はビクッと反応してしまう。それがこいつを喜ばせる。
そして遂にその時がやってきた。
やつは手についた血肉を舐めとり近づいてくる。僕の震えは、より強くなっていく。
後悔した。アイツは弱かったけど、間違ったことは言ってなかったんだ。うるさかったのも自分だけじゃない、僕を守るためだったんだ。お母さんはこうなることを分かってたんだ、だからアイツと一緒にいるように言ってたんだ。
でも、僕はそれを全部捨ててしまった。
デカイ獣は僕の反応を楽しみながら、顔の高さを合わせるように覗き込んでくる。
そして、恐ろしい牙の生えた口を大きく開ける。直接食らいつく気なんだ。
僕の身体は動かない。
なぜだか最後にアイツに会いたくなった…。
すべてを諦め目を閉じたその時。
「うおあぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
いるはずのないアイツの声が聞こえた。
咄嗟に目を開けると、そこにはでかい獣の頭にしがみつき、その目を武器で貫くアイツがいた。
side タスク
バロンと別れたあと、バロンの進んでいった方向に危機察知が発動した俺は、気がつけばその方向へ走り出していた。
馬鹿なことをしている自覚はある。そもそも方向が一緒なだけで、遭遇していないかもしれないし、バロンなら走って逃げることも出来るだろうし…。でも違う。そうじゃない。アイツは魔物で、ゴブリンなんて相手にならないほど強いし、知能もしっかりしていけど、まだ生まれてから1日たっていないんだ。そんな赤ん坊をほっといて1人逃げることなんてできるかよ!彼女との、バロンの母親との約束…。まだ昨日のことだぞ!仲違いしたとはいえ一度は破ってしまったその約束、今度は守ろう。必ず!!
途中死んだゴブリンの遺体から矢を拝借する。弓も本当ならば必要だろうけど、俺は弓なんて使ったことがない。だから捨ててきた。そもそも行ったところでただの人間の俺じゃ何もできないかもしれない。
「でも、行くしかねぇだろ!」
走っている間にも危機察知はどんどん強くなる。コイツは多分、昨日のゴブリンの親玉よりも強い。
「だから言ったろうが、この森にはヤベーやつがいるって。」
森の中でいまいちスピードを出せないが、それでも全速力で進んでいくと………。
「っ!!!あれか!!」
視線の先に森の中を蠢く巨大な存在を確認した。
「あれは、熊か?くっそデケェな!」
巨大な熊は真っ黒い毛に覆われ、紫の宝石のような目を持っている。更にその爪は大きく鋭く、目と同じ紫色に染まっていた。
明らかに見つかったら殺されるやつだ。
俺は一旦隠れて様子を見ようと近くの藪に潜もうとした。だが、そこで最悪の光景を目にする。
熊の目の前にバロンがいる。
バロンは何故か、眼前でゴブリンをむさぼり食う熊を眺めていた。
「くそ!なんでアイツ逃げないんだよ!」
いや、近づいたら分かった。アイツ、、震えてる。恐怖で動けなくなってるんだ。
「こんな時ばっかり赤ん坊みたいな反応かよ!」
作戦変更。様子見なんかしてる場合じゃない。怯えるバロンを見た瞬間、俺の思考は吹き飛んだ。右手に拾った矢を握り更に全力で駆け出す。
「(死なせてっ!たまるかよぉぉ!!!)」
熊の身体に飛びついた俺はそのままの勢いでコイツの目に矢を…。
「うおああぁぁぁ!!!!」
突き刺した!!
「グゴォォォォ!!!!!」
突然の激痛で熊の魔物はたまらず悲鳴をあげる。
「バロン!!!にげっ!うわぁぁ!!」
俺はすぐにバロンに声をかけ逃がすつもりだったが暴れ出した熊に振り落とされる。
「ぐぇっ!」
地面に落ちる衝撃で痛むが、幸いすぐに手を話したお陰でふっ飛ばされることはなかった。遠くまで飛ばされていたらそれだけで恐らく死んでただろう。
俺は体を無理矢理起き上がらせまだ呆けているバロンに怒鳴りつける。
「バカ!!ボーッとしてんじゃねぇ!逃げろ!!!」
俺の叫びでバロンはハッと我に返える。
「バロン!そのまま来た道を戻れ!!そっちには危機察知は働かない!!」
バロンは俺の言葉を聞くと未だ震える体に鞭をうち俺の示した方角へ駆け出した。
「(よし!何とか逃げたか…。そのまま逃げ切ってくれよ。んで、俺は…。)」
俺もさっさと逃げたいところだが流石に無理そうだ。熊の魔物は痛みで目を抑えながらも既に落ち着き、俺を睨みつけている。いや、落ち着いているのではなく、残った片目から激しい怒りが感じられる。
「(ヤバい!ヤバいヤバいヤバいヤバい!)」
異世界に来て三度目の死の恐怖。
しかも、敵が遠くにいるわけでも、周りに誰か味方がいるわけでもない。これまでよりも濃密に感じる死に今度は俺の体が動かなくなった。
「グゴォォォォ!!」
熊は俺に怒りの咆哮を浴びせ腕を大きく振りかぶる。こんな山のような巨体で攻撃されたら一瞬でミンチになる。
「(動け!動け動け動け動けぇぇぇ!!!)」
俺は必死に体を動かし何とか危機察知で1番安全そうな方向に跳ぶ。
そして何とか初撃を交わすことに成功するが、その風圧と地面への衝撃に吹き飛ばされてしまう。
「ぐはっ!」
吹き飛ばされ、地面に体を打ち付けられる。今の一撃だけで既に体がボロボロになってしまった。
でも、運良く避けることはできた。
俺はそのまま体を起こし危機察知の働かない方向へ駆け出す。
だが、ヤツはその巨体からは想像できないスピードで追ってくる。
背中に強烈な悪寒を感じた俺はたまらず前方にジャンプする。
しかし、今度は避けきれずヤツの爪が背中を切り裂く。
「ぎゃあああ!!」
俺は背中の痛みに倒れ込んでしまう。
こんなのやつにしたら掠った程度なのかもしれない、でも俺はこの一撃で終わりを悟ってしまった。
ヤツもそれが分かったのか、倒れた俺にスピードを落としゆっくり近づいてくる。
そして、目の前で立ち止まると腕を高く振り上げる。
「(チクショウ!3度目、もう駄目かよ!せっかく転生したのに!なんにも出来ないまままた死ぬのかよ!!)」
復讐出来る喜びか、熊がニヤリと笑ったように見えた。そして、腕を俺に向けて振り下ろす。
「(いや、バロンを助けることが出来たかな?このまま逃げ切って…。)」
「生きろ!!バロン!!!」
俺は死を覚悟した。
その時、
「バロォォォォ!!!」
突然現れたバロンが横から入り込んできた。
バロンは俺の服の襟を咥えると、そのまま熊の一撃を見事に躱した。
「グゴッ!!」
また攻撃が当たらなかったことに熊は驚きと怒りに声を上げる。
俺は襟を解放それ地面に尻餅をつく。
「バロン。お前…なんで逃げなかったんだよ!!」
俺は一人で逃げなかったバロンを責めるが、バロンは俺を静かに見つめる。
そしてバロンの意思が伝わってきた。
「(一緒に!)」
『スキル 意思疎通(馬)がLv2に上昇しました。』
さて、次のキャラの準備しないと