合わない2人、そして窮地
毎日コンスタントに投稿している人って本当に尊敬します。
旅の仲間、馬の魔物の子供バロンを連れ森の広場を離れた俺達は、森の出口や人の痕跡を探して森を彷徨っていた。
全く種族の違う俺達だがスキル意思疎通(馬)のお陰で簡単なコミュニケーションはとれるはずだった。
だが、一緒に森の中を歩くこと数時間、問題が発生していた。
「バロォォォォ!」
「グギャッ!」
俺達は今、一匹のゴブリンと対峙している。いや、対峙していた、が正しいか。
既にバロンの後ろ蹴りをくらい絶命したところだ。こんなことがここ数時間で4回ほど起こっている。
機器察知があるから気を付けていれば他の魔物とは本来出会わないはずなんだが、何故そんなことになっているかというと…。
「バロン〜。だからさっきから言ってるだろ?敵のいる方向、危機察知が働く方向に行くなって。」
「………。」
俺の言葉を理解しているクセに無視をするバロン…。
そう、この馬、異常にプライドが高いのだ。
お母さんが言ったから仕方なく一緒にいます、というような顔をして俺の言うことは全く聞かないのである。魔物は成長が早いのか既にゴブリンの2、3匹程度なら問題なく倒せるんだけど…。
生まれたばっかのクセに!赤ん坊のクセに!
成長が早いからってもう反抗期ですか!?
人間だって1、2年かかるわ!
と、下らないことを考えているが、これは本当に由々しき事態である。
「あのなバロン。今はまだコブリンくらいしか出てないからいいけど、これがもっと大勢だったり、もっともっと危険な奴も出てくるかもしれないだろ?だから危険は避けるに越したことはないんだよ…。」
「……フン。」
鼻息を漏らしながらプイッとそっぽを向きやがるこの馬!
もうゴブリンだけで4回ぶち当たっているんだ、直に強い魔物とも出会いってしまうだろう。転生した日から森を歩いてそんな存在がいることは何となくわかってる。だから俺も必死に説得を試みるが…。
「バロッ。」
バロンから「臆病者」という意思が伝わってくる。これには流石にカチンと来た。
「ウガーー!!!お前なぁ!強い魔物なのか何なのか知らねぇが、そんな調子でこの先に生きていけるわけねぇだろ!!俺が前にいた世界だってな!強いやつほど慎重だったぞ!慎重なやつが生き残るんだよ!!」
「…………。ぷぃ」
このやろぅ、また無視しやがった。
そして案の定危機察知が働く方向に歩き出す。
「だからそっちにはスキルが働くから駄目だって!!あーもうやってらんねぇ。俺は行かないからな!好きにしろ!」
バロンの母親から頼むと言われたことが心に刺さるが、命あっての物種だ。
ゴブリン一匹に簡単に殺されるような俺は戦闘じゃ完全な足手まとい。いつ巻き添えで殺されるか分かったもんじゃない。
バロンはため息を吐くとこちらを振り向かずに行ってしまった。
俺はその場から動かず、先へ進んでいくバロンの背中を見つめていた。
「くそっ。」
俺は悪態をつくとその場に座り込む。
分かってる。原因は俺が弱いからだ。でもどうしようもない。俺だって特別な力で漫画や小説みたいなことが出来たらって思ったさ。
でも俺にあるのは危機察知くらいだ。現実はそんな甘くない。現に転生してからこの短期間に何度も死にかけた。
「チートなスキルがあれば、違ってたのかなぁ。」
危機察知も十分チートなスキルだと思うけど、敵を倒せるわけじゃない。
口うるさくて見ているだけの奴なんて、人間だってそんなやつ嫌いだしな。
「彼女には悪いが、ここで別れて正解だったのかもしれないな。」
そのほうがあいつものびのび成長出来るだろ。弱い俺はこのままビクビクしながら人里をさがします。
気持ちを無理矢理切り替えて立ち上がり、危機察知の働かない方向へと歩みだす。そして最後にもう一度だけバロンの進んだ方向を見た。
その瞬間、急激な悪寒が走る。
「え?」
あのブラキオもどき程ではない、程ではないが、それでも圧倒的な存在感を放つ何かがいる。さっきまでは感じなかった。ということは移動してるってこと?つまり、バロンの行く先で悪寒の原因になるコイツと鉢合わせになるかもしれないということか!
「くそっ!だから言ったろう!」
俺はバロンを追いかけて森を走り出した。
ーーーーーーーーーーーーー
side バロン
生まれ瞬間からあいつは側にいた。
僕や母さんとは違う生き物。
さっきから出てくる緑の小さいやつらよりももっと弱いやつ。
なんで母さんは僕のことをあいつに頼んだんだろう。どうして、あいつと一緒に行けと言ったんだろう。
あいつは弱いし、うるさい。そっちは駄目あっちは駄目。駄目駄目ばっかり言う。
生まれてからわかったことは、僕は凄く強いってこと。あいつが怖がる緑の小さいやつなんて、僕には敵じゃない。
なのにあいつは危ない、言うことを聞けって言う。弱いやつなんかに従いたくない。
だから全部違う方向に行ってやった。
僕の力を見せつけてやるために危ないって言う方向にわざと進んだ。
でもほら、やっぱり危なくなんてなかった。
あいつは弱いからこんな弱っちい敵に怯えるんだ。僕は強いから、危ない方にススンだって大丈夫何だ!
「あのなバロン。今はまだコブリンくらいしか出てないからいいけど、これがもっと大勢だったり、もっともっと危険な奴も出てくるかもしれないだろ?だから危険は避けるに越したことはないんだよ…。」
またごちゃごちゃ言ってる。弱いやつは無視すればいいや。この臆病者。
「ウガーー!!!お前なぁ!強い魔物なのか何なのか知らねぇが、そんな調子でこの先に生きていけるわけねぇだろ!!俺が前にいた世界だってな!強いやつほど慎重だったぞ!慎重なやつが生き残るんだよ!!」
怒ってるけど全然怖くない。僕はまた危ない方に進んでいく。
「だからそっちにはスキルが働くから駄目だって!!あーもうやってらんねぇ。俺は行かないからな!好きにしろ!」
そのうちあいつは僕についてこなくなった。
お母さんのことが少し気になるけど、別にいい。僕は強いから、仲間なんていなくても大丈夫だ。
そうして僕は一人で歩き出した。
一人で静かに森を歩いてると、凄く気持ちがいい!うるさくないし、怒って邪魔するやつもいない。最初からあいつなんていなくてよかったんだ!
気ままに歩いていると少し遠くの茂みからガサガサと音がきこえてきた。またあの緑の小さいやつだな。
さっきみたいに一撃で蹴り倒してやろうと僕は身構える。
そしてやっぱり小さいやつが飛び出してきた。僕はそいつが走ってきたタイミングで身体を反転させ後ろ蹴りを喰らわせる。
「グギェッッッ!」
緑のやつは蹴られた衝撃で後方に吹っ飛ぶ。
やつはギリギリ死ななかったようで苦しそうにのたうち回ってる。
そして再び確信する。僕は強い。どんな相手だって僕の後ろ蹴りを喰らったらひとたまりもないだろう。
僕はとどめを刺す為にヤツに近づいていく。
あとは頭を踏み潰して終わりだ。
のたうち回る力すらなくなった緑のやつの目の前に止まり、僕は前足を片方上げ頭を踏みつけようとした。
しかしその瞬間…。
グチャッ
やつの身体は空から降ってきた茶色の柱に潰された。
いや、それは柱じゃなかった。柱だと思ったものは僕より遥かにデカイ生き物の前足で、見上げるとそこには恐ろしい牙をビッシリと生やした獰猛な口、僕の視界を埋め尽くす程の身体、そして息荒くこちらを睨みつける真っ赤な目。
そうか、緑のやつはこいつから逃げていたんだ。だから、あんなに焦って走り込んできたんだ。
「(あのなバロン。今はまだコブリンくらいしか出てないからいいけど、これがもっと大勢だったり、もっともっと危険な奴も出てくるかもしれないだろ?だから危険は避けるに越したことはないんだよ…。)」
ここに来てあいつの言葉が浮かんでくる。
この生き物は強い。僕よりも遥かに。
だけど、もう遅い。コイツは僕に狙いを定めた。
次の餌はお前だ、と。
考えすぎるな、感じたままに書いてしまえ。