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託されるもの、そして受け継がれる意志

今回以降後書きにその会の主要キャラ一人のステータスを書いていきます。参考程度にどうぞ。

「おまえ、何で?」


仔馬は俺が庇ってた。彼女が前に立つ意味は無かったはずだ、それなのに…。


「俺を、助けてくれたのか?」


彼女は俺の言葉に返事をせず、いや、出来ずにいる。呼吸が荒く、必死に意識を保とうとしているのがわかる。それでも、数多の矢をその身に受けてなお、敵を睨みつけていた。


その後ろで仔馬が遂に己の力で立ち上がった。その姿は生まれたばかりにも関わらず、凛としていて、彼女の血を引いていることがよくわかった。

この子は既にわかっていたんだ。今の状況、母親のこと、そして自分が今まさに守られていることを。魔物だからなのか、その瞳からは確かな知性を感じた。


「ゲギャッ!!」

「グキャーギャッギャッ!」


ゴブリン共は自分たちの勝利を確信し更に笑い声を上げる。

そして、不気味な笑みを浮かべたまま武器を弓から各々の近接武器、ボロボロの剣や棍棒に持ち替えた。


さっき死を覚悟したからか、俺は恐怖で震えながらも少し冷静になれたので、どうにか子供だけでも逃がすことは出来ないだろうかと、そう考えはしていたが結局丸腰で、しかも前の世界ではいっさい殴り合いの喧嘩すらしたことがない俺に出来ることはなかった。


俺たちに打つ手がないと判断したボスゴブリンはトドメをさすつりもなのだろ、腰に帯びたデカイ肉切り包丁を手に取った。

そして、配下のゴブリン共と一緒にゆっくりとこちらに近づいてくる。


「(何か、何か出来ないのかよ!)」


迫りくるゴブリン共を必死で睨み返す。

一歩、また一歩と奴等との距離が縮まる。


「グフッ!」


そして再びボスゴブリンが手を上げ、指示を出した途端、奴等は一斉にこちらに向かって走り出した。


「ゲギャ〜〜〜!!」

「ギャギャギャギャギャ!!」


周りを囲むゴブリン共が叫ぶ。

さっき彼女が貼ったバリアの焦げ跡を飛び越え、遂にその兇刃が俺たちを襲おうとしたその時……。



「バロォォォォォォォォ!!!!!」



彼女が叫んだ。

そして、俺の視界が青白い光で埋め尽くされる。

ドゴオオオオオン!!!という轟音とともに途轍もない衝撃を受け、俺は思わず尻もちをついてしまった。


……………………。


光が収まり顔を上げると、そこにゴブリン共はおらず、青白く輝く彼女が立っていた。

彼女はもう駆け回ることも、遠距離の敵に狙いを定めることもできない状態だった。だから待っていたのだ、敵が自分たちに近づいてくるのを。そして渾身の一撃を放ち奴らを一網打尽にした。


「す、すげぇ…………。」


あまりの出来事に俺は呆けてしまう。

それはボスゴブリンも一緒だった。完全に自分たちが優勢だと思い余裕の表情を見せていたが、配下のゴブリンが一瞬で消し飛ばされてしまったのだ。辺りを見回して仲間を探すも既にそこにいるのは自分一人だった。


「グ、グォアアア!!」


状況を理解したボスゴブリンは先程の様子とは打って変わり情けない声を上げて森の中へと逃げ出した。


「あ!!待て、てめぇ!!」


自分から仕掛けてきて怒りを覚えるが、しかしやつを追いかけられる者がこの場にはいなかった。 

ボスゴブリンが森の中へと逃げ去ると、ずっと警報を鳴らしていた危機察知スキルは止まり、あたりには静寂が戻った。


踏み荒らされ、雷で焼かれ、さっきまで綺麗だった花畑の風景は見るも無惨な姿になっていた。その中、仔馬は母馬にまだ覚束ない足取りで歩み寄る。母馬もまた、ほとんど動かない体をなんとか動かし、仔馬を受け入れる。先程まで母親の戦いを見ていたときとは違う、身体は大きくとも、こどもらしい姿だ。母親の、彼女の時間はもう僅かだ。その時間で少しでも甘えさせてあげたいんだろう。


俺はたまたまここに来ただけで、本来関係のない存在だ。これ以上この親子に関わるべきではないだろう、そう思っていたが、目の前の親子の絆に俺は目を奪われていた。


そして遂に彼女の時間が終わる。

最後の力で子供に愛情を注いだ彼女は、とうとう地面に倒れ伏してしまう。


「バロォ…。」


起き上がる気力もない彼女を仔馬が悲しそうに見つめる。この子は母親の死を受け入れられるのだろうか。乗り越えられるのだろうか。

いや、元々魔物っていうのはこれが当たり前なのかもしれない。いつ死ぬともわからない世界で、子孫を残すために必死で生き抜く姿。守り抜く姿を、俺は見せてもらった。

だから、せめて最後まで見つめていよう。

そうしていると、突然彼女が俺の方に振り向いて、力強い目で俺を睨みつけてきた。

何事かとたじろぐ俺だが、彼女はそんな俺に…。


「バロォッ。」、と鳴いた。


その瞬間、俺は彼女の思いがハッキリと分かった。出会ったばかりの、ただの弱い人間である俺に彼女は確かにこう言った。


「(この子を、頼む。)」


重い言葉だった。すごく、凄く重い言葉。異世界に来てまだ2日目。右も左も分からない俺が無責任に答えていい話ではない。

それでも、彼女は俺にこの子を託そうとしている。俺は仔馬の側まで歩き、その背中に手を当てて、母親の顔をまっすぐ見た。


「ああ!任せろ!!」


俺の言葉を聞き安堵したのか、彼女は目を閉じ、そして、動かなくなった。


『スキル 意思疎通(馬)Lv1 を獲得しました。』


俺の頭の中で、無機質なアナウンス鳴り響いた。


………………………。


仔馬が悲しみの声を上げ、彼女に寄り添う。

俺はその光景を見て涙が止まらなかった。

出会ってたったの数時間。人間ですらない魔物と濃密な時間をすごした。

そして、いちばん大切なものを託された。

俺はその思いに答えなければならない。


「さぁ、そろそろ行こう。ここはまだ危険な森の中何だ。さっきのゴブリンも戻ってくるかも知れない。早くここを出よう。」


「…バロッ。」 


この子は本当に頭が良い。生まれて間もないのに既にこちらの言いたい事を理解している。こちらの世界ではこれが普通なのかもしれないが…。


俺達は彼女の遺体を背に歩き出す。本当はお墓でも作ってあげたいが、如何せんあの巨体だ。道具も無しに埋めることは出来そうにな。だから、いつかまたここに来る。彼女の墓を作りに、この子と一緒に。


「一緒にいるなら名前を考えないとな!俺がつけてもいいかな?」


「!!バロッ!」


いいよ!と言ってもらえた気がする。

先程の獲得した意思疎通(馬)のスキルのおかげか、この子の言いたいことが少しわかるのは非常に有りがたい。

俺は歩きながら名前を考える。


「君はオスだったよな。ならカッコイイ名前がいいよなぁ……。馬、うま、ば、バ………。バロンっていうのはどうかな?」


「バロッ!」


「ははっ!鳴き声もそれっぽいしな!いいかな?」


「…………。バロォ!!」


吟味の末、彼は、いやバロンは受け入れてくれたようだ。よかったよかった。


「よし!じぁ、バロン!!俺は助!仙道 助だ!よろしくな!!」


「バロォォォォ!」


一人と一頭で森を行く。この世界に何のために来たのか、この先に何があるのか、何もわからないけど、一人じゃない。それだけで少し強くなれる気がした。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


名前 タスク=センドウ

種族 ヒューマン

性別 男  年齢 15歳

状態 正常


スキル

危機察知Lv10  乗馬Lv10

御者Lv10    馬の世話Lv10

地形把握Lv6  料理(Lv4)

交渉術Lv2   演技(Lv1)

意思疎通(馬)Lv1New!



EXスキル

異世界言語(Lv-)




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