転生、そして危機
こだわろうとしすぎて筆が動かなくなるくらいならおもいきって書いてしまおうの精神です。
本当に、ほんとーーーにしょーもない人生だったよ。
俺こと仙道助は、普通な学校に通って、普通に卒業して、身の程知らずにも俳優を目指したりなんかしちゃったりして、結局30歳手前で諦める頃にはなんの資格も学歴もないダメ男の出来上がりって感じ。
そんなんじゃ雇ってくれるとこなんて限られてる。俺は何となくタクシードライバーを選んだ。何か資格が欲しかったってのもある。
でも、はじめて3年程になっても成績は振るわず完全歩合給でその日食っていくのがやっとな収入。
妻や子供は疎か、彼女もいねぇし、あー、このまま死んでしまっても、まぁ両親には悪いけど案外良いのかもしれないなぁ。
………………。
てか、さっきからずっと過去を振り返ってるけど、長くね?何となく車に潰された!って記憶はあるから、死んだのは間違いないと思うけど、もしかして死後の世界ってこんななの?真っ暗な中で意識だけがある感じなの?
うわ!最悪じゃん!永遠にこのままでいろってか!?気が狂うわ!!
生まれ変わるとか何か次はないの!?
記憶とかなくても良いから!
なんなら人間とか贅沢なことは言わないから!
神様!永遠にこのままは嫌です!!どうか!どうかいるなら何とかしてください!!
………………。
あれ?俺、今、目を瞑ってる?
んん?体の感覚が普通にある気がする?
もしかして、俺、死んでなかったりする?
死後の世界だから身体とか無いのかもとかイメージもってたから気が付かなかったけど、身体あるじゃん!
あれぇ?もしかして奇跡的に助かって今病院とか?
なんだよ驚かせやがって神様コノヤロー!
そりゃそうだよ、生きてる方がいいに決まってますもん!
それじゃ、目を開けますよー。
せーのっ!はいっ!
……………………………。
「おぉう。」
目に映ったのは星が煌めく夜空と、3つのお月様と、そこを横切るバカでかい鳥でした。
神様コノヤロー………………。
「異世界転生ってやつ?」
いや、生まれ変わりって感じはしないから、転移??
「ヤベェー、あの鳥ヤベェー。絶対に剣と魔法のファンタジー世界って感じじゃん。なにこれ?ステータスオープンとか言ったらウィンドウとか出んのかな?」
とか言ってたら、ヴォンと、空中に半透明な板が突然あらわれた。
「どわぁ!ほんとに出た!!え?なに?俺、これチート転生ですか?強くてニューゲームできちゃう感じ!?さっきの鳥とか倒せたりすんのかな??」
期待に胸を膨らませウィンドウを見てみると、俺の現在のステータスが書かれていた。
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名前 タスク=センドウ
種族 ヒューマン
性別 男 年齢 15歳
状態 正常
スキル
危機察知(Lv10) 乗馬(Lv10)
御者(Lv10) 馬の世話(Lv10)
地形把握(Lv6)料理(Lv4)
交渉術(Lv2)演技(Lv1)
EXスキル
異世界言語(Lv-)
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内容偏りすぎじゃね?
えっ?STRとかVIT的な表示はないの?
戦闘スキルもないの?チート無理じゃん!戦えないじゃん!
冒険者とかになって俺TUeeee!とか出来ないじゃん!
危機察知はいいと思うけど、何だよ!乗馬スキルとか御者スキルって!
馬に乗れってか!馬車引けってか!馬なんかねぇよこんちくしょう!!
スキルレベル無駄にたけぇし!
てか、15歳て!32歳だっつの!
若返ってるわ!どうりで体が軽いと思ったよ!
「あーーーー、驚き疲れた。」
俺はその場で寝転がる。下は柔らかい芝生のようだった。我に返ると急に不安が強くなる。当然だ、なんの取り柄もないタクシードライバーが、チートも無しにあんなでかい鳥がいる世界で生き残れるなんて、簡単な訳はない。
「なんか、いきなり世界が変わっちゃったな。大丈夫かな?俺?」
取りあえず、
「人里、探さないとなあ。」
こうしてても仕方が無い。恐らく俺は地球で死んでこっちに来てるのだろうから、もとの世界に戻ることは色んな意味で出来ないだろう。だからこっちの世界で生きる覚悟を決めなきゃいけない。
「一先ず目標は人里を見つけて生活の基盤を作ることだな。」
御者とか、異世界言語なんてスキルがあるなら、きっと人類もいるはずだ。
「問題はどの方角に進むべきかだよなぁ。」
現在俺は草原のど真ん中に立っていて非常に見晴らしが良い。満天の星空のお陰で遠くまで結構見える。でも周りを見渡す限り文明の痕跡的なものは見当たらない。
俺の目前にはどこまでも続く草原があって視界を180度埋め尽くしている。ずっと先に小高い丘か見えるからその先に人里があるかもしれないな。後ろ側には木々が密集しているし、恐らく森だろうな。
その森も恐ろしく広そうだけど。
「んー、森は危ない猛獣とかいたら逃げるのも見つけるのも難しそうだし、やっぱり草原を行くのが良さそうだな。」
一先ず奥にある丘を目指そうと一歩を踏み出そうとしたとき、途轍もない悪寒が走った。
「は?なに、これ?震えて動けないんだけど…。」
前に踏み出そうとすればするほど悪寒は強くなり足を前に動かせなくなる。
「これってもしかして危機察知スキル?」
どうやら丘を目指すのを危機察知スキルが止めているらしい。
突然の状況に戸惑っていると、目指す丘の向こうから何かが顔を覗かせた。
「え、きょ、恐竜?」
丘が影になって身体は見えないが奥の方からバカでかい恐竜みたいな顔が生えてきた。
「この距離から見えるってどんだけでかいんだよ…。」
俺が突っ立って眺めていると、恐竜の身体が徐々に見えてきた、つまりこっちに向かっているようだった。その身体は昔図鑑で見たブラキオサウルス?だか何だかを更にデカくしたような身体で丘の上からこっちを見ているようだった。
「俺、見つかってない?こっち向いてんじゃん。」
いや、相変わらず前へ進もうとすると危機察知が働くが眺めている分にはスキルは発動しないようだった。
「つまり、まだ見つかってはないってことか?」
危機察知が働いているのは間違いなくアイツのせいだろうな。あればどう見てもヤバい。
どうやら、後ろの森の方面には危機察知は働いてないみたいだし、森に入ってしまうのがいいだろう。
そうして、後ろ向きにじりじりと森へ進み始めると、徐ろにブラキオサウルスもどきが首を前後に降ったように見えた。
「ん?なんだ?なにをしたん…。」
俺が言い終わる前に頭上からズドォーーーン!!という轟音が炸裂した。
「うおわぁぁぁ!!!なんだ!?なんだ!?」
轟音のした方向、つまり上を見上げると、なんとこの世界で最初に見た巨大怪鳥が血の雨を降らせながら落ちてきていた。
落ちてきた怪鳥は翼を広げ横たわっていた。
有に15メートルはあるだろうその身体は胸の部分が大きく抉れており、ブラキオもどきが何かしたのだろうことは分かった。
…………………。
余りの出来事に立ち尽くしていると、再び危機察知スキルが発動する。
俺はハッとしてブラキオもどきを見ると、確実にこちらを睨んでいるようだった。
「ひ、ひいぃぃぃぃ!!!」
何をしたのか全く見えなかったが、先程の怪鳥を殺した攻撃を折れにも撃ってくるのだろう。俺は急いで森に向かった。
「死ぬ!死ぬぅ!!!」
後ろを振り返る余裕なんてなかった。振り返ったら死ぬと危機察知スキルが警鐘を鳴らしているから。あんなでかい鳥が一撃で死ぬような攻撃、俺が喰らえば一瞬で塵になるに決まってる。
「な、なんで!いっかい死んだのに、また、こんなすぐ死にそうになってるんだよぉ!!!」
恐怖で涙を溢れさせながら、竦みそうになる身体を必死に動かす。
すると背後から一層強いプレッシャーが押し寄せてくる。
「く、くるぅ!」
攻撃が来る!そう理解した俺は必死に危機察知が働かない森を目指す。
すると、先程上空で聞いたズドォーーーン!!という音が響く。攻撃が後ろの地面に着弾したようだ。
と、同時に途轍もない衝撃波が俺の体を背後から吹き飛ばす。
「うわぁーーーー!!!」
今まで感じたことのない衝撃を受け、俺は一気に森に突っ込んだ。
何回かのバウンドを経て勢いはようやく落ち着いた。
「うおぉぉ……。死ぬかと思ったけど、生きてる…。よかった、危機察知スキルも落ち着いたみたいだ。」
森に入ったことでブラキオもどきの視界から外れたせいだろうか。先程まで感じていた悪寒は一切なくなったようだ。
「異世界に来て、すぐこんな目に合うなんて、この先大丈夫かよ…。」
地球で死んで、異世界に転生したら僅か10分でまた死にかけた俺は、この世界で生きていくことに絶望を感じるのだった。
思い切った結果でございます。