僕が絵を描くよ ×
「僕が絵を描くよ」
彼女はそう言った。
何なんだよ、怖いよ、コイツ。
こっちが明らかに怯えているのに、お構いなしに彼女は笑った。
ひまわりみたいな笑顔ってこう言うんだろうなと少し思った。
「僕が目になるよ」
スイミーはそう言うんだ。
大きな魚に怯える小魚達に。
陽キャの親切の押し売りだと思った。
岩場でひっそり隠れて暮らしていたのに。
あの小魚達の中には、ほっといてくれと思った奴はいなかったのだろうか?
「僕が絵を描くよ」
彼女はそう言った。
ほっといてよ、別にそんな事、望んでない。
ただここでひっそりと、話を書いていたいんだ。
「僕が、僕が絵を描くから……」
彼女は泣いていた。
何の為に泣いているんだろう?
泣きたいのはこっちだ。
あんたが隠れていたのに引っ張り出そうとするから。
せっかく書いたお話は、ビリビリに破かれてしまった。
「僕が…絵を描くから…」
描かなくていい。
お願いだからほっといてよ。
皆がみんな、隠れてる場所から出たい訳じゃないんだ。
「僕が…一番のファンだから…!!」
彼女は絵を描くからとは言わなかった。
その言葉に顔を上げた。
泣きそうな顔でじっと見ている。
そんなに思い詰めた顔をされなくても話は書くよ。
別にアンタの為じゃない。
「僕が絵を描くよ」
彼女は笑った。
ひまわりみたいに笑った。
結局、やっぱりそれを言うんだね。
わかった、根負けだ。
もう好きに描けばいい。
陽のあたる人の少ない公園の芝生の上、
話を書く横で、彼女は楽しそうに絵を描いていた。