第28話 劣等生は面倒なことに巻き込まれる②
総合2000ptありがとうございます!!
降魔は控え室のテレビで前の回の人たちが終わったのを確認し、ペンダントをロッカーに入れて控え室を出る。
あらゆる部門の中でも総合部門は人気のため、入口から少し離れているにも関わらず、観客の歓声がこちらまで聞こえてきた。
(去年までは常に一回戦でわざと敗退していた俺が、今度は優勝しないといけないなんておかしな事だな……)
総合部門は、1~5回戦目までが予選で、5回勝利すれば、準々決勝進出。
そして準々決勝に勝てば準決勝。
準決勝に勝てば決勝進出という流れになる。
他の部門と人の多さが違うため、多く勝たないといけないのだ。
しかし降魔は決して負けることは出来ない。
自分の将来のためにも。
自分の大切な過去の思い出を守るためにも。
降魔は『バチンッ』と頬を叩いて気合を入れ、ゆっくりと入場口に移動する。
近づくに連れてどんどん歓声と熱気が大きくなっていき、とうとう司会者のマイク越しの声まで聞こえてきた。
「それでは続きまして予選第1回戦第3試合! 1人目はこの選手! ―――八条おおおお降魔ああああ!! 彼は先ほど召喚魔術部門で優勝した龍川双葉選手と並んでこの学園での有名人! しかしその評判は正反対! 去年までの魔術大会の成績は全て1回戦敗退! 学園史上最も落ちこぼれと言われている彼は第1回戦を通過できるのかあああ!?」
降魔はその声と同時に舞台に歩いていく。
司会者はどうやら生徒らしく、降魔を下げまくる紹介をした。
ただでさえ観客には生徒も多いため、先ほどの熱狂が嘘のようになりを潜め、そこにあったのは失笑や嘲笑、そして―――
「落ちこぼれはお呼びじゃないんだよ!!」
「そうだそうだ! とっとと負けて退場しろ!!」
心無い罵声のみ。
外部から来た人もあまりの生徒の変わりようにだんまりとしてしまっている。
しかしそんな最悪な空気の中、降魔は気にすることなく堂々としていた。
既に学園で様々な罵声を浴びせられ、それ以上のことをされたことのある降魔にとって、この程度どうてことないのだ。
まぁ1人だけ降魔に向けて放たれる罵声にキレている人がいるが。
そして降魔へのブーイングが続く中、司会者が対戦相手の紹介をする。
「そんな彼に現実を見せるのは、優勝候補の3年A rankの赤井晴人だああああああ!! 名家の出身ではないものの、彼の兄は現役A級召喚術士である赤井幸太! そんな兄に『才能は弟のほうがある』と言わしめた逸材だあああああ!! 一体どんな戦いを見せてくれるのかッ! ……降魔選手には頑張って耐えてもらいたいですね」
降魔よりもテンション高く呼び出された赤井晴人は、身長が170後半くらいある降魔よりも更に高く、実践的な筋肉もしっかりとついている。
そんな誰が見ても努力しているであろう彼の瞳は、あろうことか降魔を明らかに見下していた。
「それでは第5回戦スタートおおおお!!」
司会者の合図とともに晴人は魔導バングルを発動させて、詠唱を開始する。
「《我が身を強化せよ―――》【身体強化】」
晴人の体に魔術式が記され、体がマナで淡く光りだす。
一方で降魔は未だに魔術を使おうとしない。
それを見た晴人は降魔を嘲笑う。
「ははっ、お前、緊張して身体強化魔術1つ発動できないのか! 哀れだなぁ? これじゃあ今年も1回戦敗退になりそうだ……なっ!」
話している途中に突然動き出す晴人。
その動きは普通の人間を超越しており、下手したら現役のプロにも届きそうな強化倍率である。
その速度を生かした不意打ちは、降魔が反応するよりも前に拳を振るう事を可能にした。
モロに当たった降魔は一気に吹き飛ばされる。
今は舞台が亜空間に移動しているため、空間の壁に激突した。
「あ―っと、早速晴人選手の攻撃が降魔選手にクリーンヒットだああ!! たった一発で終わってしまうのか!?」
そんな解説とは反対に、降魔はよろけたように立ち上がる。
それを見て湧く会場。
誰もがまだ晴人の活躍が見たいのだ。
だから降魔はさながらサンドバッグを求められていた。
しかし晴人は降魔を不思議そうに見ていた。
「お前……よく立てたな。結構本気で殴ったんだが……ラッキーだったな」
(ああ、ホントにラッキーだったよ。お前の動きが分かりやすくて簡単に衝撃を受け流せたからな。伊達に幻影やファフニールを相手にしていないんだよ俺は)
そう、降魔は超人相手に技術だけで凌いだのだ。
確かに降魔は、やろうと思えば晴人よりも早く身体強化魔術を発動させて不意打ちをすることも出来たが、そうしなかった。
それにはちゃんと理由がある。
(俺は全勝しないといけない。だから決勝までに、出来るだけ切り札は温存しておきたいし、召喚魔術を使われたくない。そのためには思い込みが大切だ。コイツは弱いと思わせれば大抵の学生なら手加減という名の舐めプをする)
降魔は相手の攻撃を器用に受け流しながら頭の中で戦闘の流れを思い描いていく。
晴人が降魔の顔面めがけて拳を振るう。
それをあたかも直撃したかのように見せかけてギリギリの所で衝撃を受け流す。
その後直ぐにもう片方の腕からもパンチが飛んでくるが、これも受け流しながら当たったかのように見せかける。
その御蔭で降魔の思っている通り、晴人は召喚魔術を使わない。
ニヤニヤしながら降魔を殴るだけだ。
(よし、第1関門突破! ―――次は奴がイライラして攻撃が大振りになるのをひたすら待つだけだ)
降魔はひたすら耐える。
いくらほぼ全ての攻撃の衝撃をゼロに緩和させているとは言え正直言って痛いものは痛い。
腹にパンチを喰らおうと、横腹を蹴られようと、焦らずに対処していく。
降魔が対応できない速度ではないので、殆ど全てを受け流すことに成功している。
「―――チッ……まだ倒れないのか……いい加減に倒れろよ、この……落ちこぼれがッ!!」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
中々倒れない降魔に業を煮やした晴人は、攻撃の速度を無理やり上げていく。
そこで降魔もこの戦い初めての魔術を行使する。
「《我が身を強化せよ―――》【身体強化】」
晴人よりも魔術式も輝きも小さいが、しっかりと身体強化魔術が使用できた。
勿論これも降魔の計画の1つだ。
(常に相手に弱者だと思わせておくのが1番大事だ。特に自分の力を隠したいとかは。後は相手が大振りに攻撃をしてくれれば完璧だ)
降魔が身体強化魔術を使ったことにより、どんどん攻撃が当たらなくなっていった。
それが続く度に更にお粗末になっていく晴人の攻撃。
だが晴人自信はその事に気づいておらず、ちっとも当たらない現状に堪えきれなくなったのか、とうとう大振りな攻撃を仕掛けてきた。
右腕から放たれる高速なストレート。
「いい加減くたばれ、落ちこぼれがあああああ!!」
晴人の怒号と共に放たれたストレートは、降魔がもろに当たれば大怪我間違い無しの威力を持っていた。
しかしそんな絶体絶命のピンチに降魔は、完全にうまく行ったという顔をしている。
そして晴人の耳元で一言。
「―――お前がな」
降魔は少しかがんで頭を狙っていたパンチを避ける。
受け止めれば吹き飛ぶと分かっていたからだ。
そんな隙だらけでがら空きの顎に速度重視のアッパーを喰らわせる。
すると晴人は突然前触れなく崩れ落ちてしまった。
この時晴人は気絶していた。
降魔の顎への攻撃により、頭を揺らされた晴人は抗うことなく意識が飛んでしまっていた。
そんな2人を見て、先ほどまで解説をしていたが、途中から2人の戦いに目を奪われていた司会者が慌てて終わりの合図をかけた。
「しょ、勝者……八条降魔……」
降魔は足早に舞台を降りて控室へと向かった。
こうして降魔の第1回戦は、降魔の作戦勝ちで幕を閉じた。
―――降魔の優勝まであと7回―――
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