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レンドール男爵

ブックマーク・コメント・評価・いいね・感想ありがとうございます。

励みになりますニャ。


 アメリアさんに案内され「太陽の広間」とよばれる城の一室に到着する。アメリアさんの仕事はどうやらここまでのようで、頭を下げて立ち去っていった。今度は執事のリオスさんが席に案内してくれるようだ。


「ケイ様、お席にご案内させていただく前に、パトリシア様より言付けを預かっております」


「えっ? あっ! はい、何でしょうか?」


「性別については、他言しないようにという事です」


「えっ? は、はい、分かりました。理由を教えていただいても……?」


「後ほどパトリシア様に直接お聞き下さい」


「……わ、分かりました」


 どういう事……?


「ではお席にご案内させていただきます」 

 

 大広間には豪華なシャンデリアが吊るされていて、テーブルの上にも数多くの燭台が置かれている為、部屋は思っていたよりも明るかった。自領の財力を誇示するかのように壁には大きなタペストリーなどの高価な美術品が飾られ、床の敷物の上には花が撒かれていて芳しい香りを漂わせる。踏まなくては進めないが、出来るだけ花を踏まないようにリオスさんの後について行く。


 大きな長方形のテーブルにはすでに何人かが座っており、パトリシア様の顔もそこにはあった。多分その両隣が男爵さまとご子息なのだろう。偉い人は誕生日席に座ると思っていたのだが、どうやら違ったようだ。男爵さまはテーブルの長い一辺の中央に座っていた。


「よく来てくれたね。レンドール男爵領の領主、イワン・ウェストン・フォン・レンドールだ。長旅で疲れているだろうから、今夜はゆっくり食事を楽しんでくれ! こちらはもう知っていると思うが、妻のパトリシアとそして息子のライリーとデーヴィドだ。下の娘たちはまた後日、紹介するとしよう」


 男爵さまが立ち上がり歓迎をしてくれる。実際の性格は分からないが、一見すると恰幅の良い優しそうなおじさんという感じだった。正直どんな人か心配だったが、見た目通りの物腰が柔らかい人だったので少し安心した。


「初めまして商人のケイ・フェネックと申します。私のようなものをお招きいただきまして、誠に恐悦至極に存じます。本当に身に余る光栄でございます」


「…………パトリシアの言っていた通り、上級貴族のような素晴らしい教育を受けているようだね。ライリーにも見習って欲しいもんだ」


「フンッ! 平民のくせに――」「ライリー、お止めなさい」


 パトリシア様が小声で注意しているが丸聞こえである。男爵さまはそんな息子に気付く事もなく、権力者特有の鈍感さとでもいうのか、周りの人がどう思うかなど考えないのだろう。まあ、自分の親にそんな事を人前で言われたら、誰でも気分は良くないだろうし気持ちはわかる。でもオレに敵意を向けるのは、見当はずれも甚だしい。あんなお子ちゃまと関わらないといけないなんて、考えただけで頭が痛くなった。


「ケイ様、こちらにお掛けください」


 信じられない事にリオスさんが座らせてくれようとしている席は、まさかの男爵さまの隣だった。近っ! 嘘でしょ……普通、近くても対面とかじゃん! カウンターじゃないんだから……。


「し、失礼します」


 断われるわけ訳もなく仕方なく席に着く。反対側の席の男性にも挨拶をしようと顔を向けると、その男性はノア様だった。


「ケイ様、少しは休めましたか?」


「おかげさまで少し休めました。それよりもこんな席に座らせていただいて良かったのでしょうか?」


 小声でノア様に質問する。


「食事の場での主人の隣や近くは大変名誉な事とされています。それだけケイ様を歓迎しているという意味なのです」


 なるほど……有難い事だけど全然嬉しくないんですが……。ノア様が隣なのが唯一の救いか……。ほどなくし全ての席が埋まり、それに合わせたかのように手洗いの為の洗面器のようなボウルと手拭き用の布、ワイン樽、料理などを持った大勢の給仕人があらわれ、続いて楽器を持った一団まであらわれる。料理の量が明らかにおかしいのだが、やはり大金持ちはエンゲル係数など気にしないのだろう。


「それでは皆の者に紹介する。しばらくの間、客人として滞在する事になった商人兼魔術師のケイだ! このケイは単独でオークを倒すほどの魔術師だという事を頭に入れて対応するように。くれぐれも消し炭にされないようにな」


 そう言って高らかに笑う男爵さまの話を、ほとんどの人がどこまで本当なのか推し量れず、一様に引きつった笑顔を浮かべていた。一応、紹介はしてもらったが、改めて自分でも自己紹介をする為に椅子から立ち上がる。


「ただ今、レンドール男爵閣下より紹介にあずかりました商人のケイ・フェネックと申します。私はこの地域の出身ではないので、文化や習慣に理解が足りずに皆さんを不快にさせてしまう事もあるかと思います。その時は気にせずに強く叱っていただければ、改善しようと努力するつもりです。決して消し炭にはしませんので、よろしくお願いいたします」


 広間はみんなの笑いと拍手で包まれ、ライリー君からは舌打ちが聞こえる。


「ワッハッハッハッ! その年でユーモアのセンスもあるようだ。そういう事だから皆の者もこちらの文化や習慣について教えてやってくれ! とりあえず乾杯してから話の続きをしようじゃないか」


 それを聞き全員がワインのグラスを掲げたのをみて、自分も慌ててグラスを掲げる。


「それでは我が領の繁栄と新しく来てくれたケイを歓迎して! 乾杯!」


「「「乾杯」」」「「「ようこそ!」」」


 そして、目の前にはモルモットの丸焼きが置かれた。





 ♦ ♦ ♦ ♦





 さっそく最初の一品目から文化の違いを教えていただく。しかし、運が良いのか悪いのか男爵さまがひっきりなしに質問をしてきてくれたお陰で、ワインだけを口にしつつ誤魔化せた。


「では、まずはケイの国について聞かせてくれるかな?」


 話しづらい事を平気で聞いてくる所はさすがの鈍感力である。周りの人もこちらを気にして聞き耳をたてている。


「え~と、日本という国から来ました」


「ほう、聞いた事が無いな……周辺の国なら知っていると思ったのだが……」


「かなり遠いですし、知らなくても仕方がないかもしれません」


 そもそも世界が違うからね……。


「ではどうやって、ケイは一人で来れたのだ? 従者はいなかったと聞いているが……」


 聞いていた人間から驚きの声があがる。確かにこの世界での一人旅は危険しかないので、驚くのは無理もない。


「……ある事情で抗えない力で攫われたと言いますか……気が付いた森の中の知らない部屋で目を覚ましました」


「……すまない……つらい事を思い出させてしまったな……」


「いえ、大丈夫です」


 出来るだけ嘘にならないようにと思ったのだが、言い方が悪かったせいで多くの同情の目が向けられる。


「お可哀想に……」「あの年でなんてひどい目に……」


 一体、どんなストーリ―を想像しているのか、御婦人の中には涙を流している人までいた。


「ケイ様がこれから幸せになれば、従者たちも報われるでしょう」


 そして、いもしない従者が勝手に天に召された。



 


 







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