表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/158

商人の正解


 小さい頃からよそ様のお宅で食事をする時は、作ってくれた人への感謝の気持ちを示す為に、嫌いなものが出ても残さず食べるようにと親から躾されてきた。衛生的に無理だったとはいえ、残すどころか食べられなかったことで、その教えを破ることになってしまい自分でもショックである。そのことでハンナさんが不快に思っていなければいいのだが……。


 しかし元の世界でも国によってはすべてキレイに食べてしまうと、お腹がいっぱいにならなかったとアピールしてしまう事にもなると聞いたことがあるし……。流石に今すぐには『料理を残したいんだけど――』とは聞けないから明日の移動中にでも、この世界の食事マナーについてノア様に教えて貰おう。


「ケイ様は商人にご興味がおありだそうですが、何かをお売りになる予定ですか?」


 ハンナさんの質問に全員の視線がこちらに向く。


「最初は露店などで、食べ物や小物などを売りたいと思っています」


「なるほどそういう事でしたら、商業ギルドの登録が必要になりますね。一応確認になりますが、店を開くのではなく露店から始めるという事でよろしいですか?」


「そ、そうですね……。先立つものもありませんし、店は帝国で開きたいと思っているので」


「なるほど……帝国ですか……。一応ギルドは国をまたいだ組織なので、例えばこの街で登録されると、他の国にいった際に手続きだけで試験が免除されます。もしも、明日こちらで試験を受けられるのでしたら、多少のお力添えができますが……」


「お力添え……?」


「二次試験の面接官に推薦状を渡しておくので、一次試験の算術さえ受かれば合格できます」


 おっと、裏口的なやつ? う~ん。


「ありがとうございます。でも、自分の力で受からないと意味がないと思うので、推薦状は書いていただかなくて結構です。推薦されるような事は何もしていませんし……」


 それを聞いてアルクさんが大笑いして、他の三人もつられて笑う。


「お嬢さま、使えるものは何でも使わないと貴族社会では生きていけませんよ」


 アルクの言葉に若干いらっとするが、冷静に答える。


「もちろん、結果は大事だと思いますが、実力もないのに受かって困るのは自分自身だと思います。それに単純にそんな事で受かったとしたら本当にうれしいですか?」


「…………」


 アルクさん、黙っちゃったよ。


「素晴らしいお考えです。差し出がましい申し出をしてしまい、申し訳ございませんでした」


 それを聞いていたハンナさんが神妙な面持ちで頭を下げてきた。それに続いてアルクさんも謝罪をしてくる。


「いえいえ、こちらこそ生意気に語ってしまって申し訳ありませんでした。あっ! そうだ! 試験は予約とかいるんですか?」


「前日までに予約が必要になります。受けられるのであればこちらで手続きをいたしますが、いかがいたしましょう?」


 お願いすると、ハンナさんが使用人を呼び、手続きに向かわせてくれた。


「ありがとうございます。そうだ、魔狼の肉の買い取りもお願いできますか?」


 アルクさんたちも、一緒にお願いをしていたが毛皮や魔石も売ってしまうようだ。ハンナさんに魔狼の素材の需要や相場などについてざっくりと教えて貰ったのだが、肉も意外と冒険者に人気で一キロで銀貨一枚から二枚で買取をしてくれて、毛皮も傷が少ない場合はかなり高額で買取をしてくれるそうだ。多分、毛皮は売らないと思うけど。


 しばらく、魔狼の素材の話をした後、また試験の話になり、これはすべての人に公開されている情報だと前置きしてからハンナさんが話してくれた。まず筆記用具は持参で、算術の一次試験は計算機の持ち込みが認められているという事と、二次試験の面接には売ろうと思っている商品を持っていき、具体的な目標を提示すると合格率が上がるという事だった。計算機はそろばんのようなものがあるらしいのだが、それはいらないかな。


「なるほど、ありがとうございます。インクって近くに売ってますかね?」 


「こちらでも、買えますがどういたしますか?」


 どうやらここで売っているようなので、幾らかは知らないけれど魔狼の代金から差し引いてもらう事にした。ペンは寝る前にガラスペンを作ってみよう。あれなら綺麗だしこの世界でも売れそうな気がする。しばらくするとお盆のようなものに金貨と牛か何かの角をのせた使用人が部屋に入って来た。


「そちらが、インクと魔狼の代金になります。金額に満足していただければ取引成立となります」


 詳細は魔狼の代金が金貨四枚と大銀貨八枚で、インクの代金が大銀貨五枚だそうだ。え~と、インクって五万もするんだ。でもそれを差し引いても日本円で四十三万……これは魔物を狩っていた方が儲かるのでは……。もちろん、金額には大満足なので買取をお願いする事にした。


「この金額でお願いします」


 取引が成立したのでインクが入った角を、手に取ってみる。普段は木で出来た土台にさして置いておくそうだが、ヒモも付いているので持ち運び時にぶら下げたりできるらしい。普通に瓶とかでいいんだけど、ガラスがそんなに普及していないのかもしれない。ペンを作るときに瓶も一緒に作ればいいか。蓋がしっかり閉まっている事を確認できたので、インクをしまう為に少しカバンの中身をテーブルの上に出してスペースを確保する。


「ケイ様、申し訳ありませんが……」

 

「えっ! あっ、テーブルの上に置いちゃまずかったですか? すみません」


 ハンナさんに謝りながら、急いでテーブルに置いたものをカバンに戻す。


「いえ、違います。今出した鏡を見せて頂きたいのですが」


 どうやら、マナー違反で怒られた訳ではないらしい。


「これですか? どうぞ!」


 手鏡をハンナさんに渡すと大事そうに受け取り、品定めをするようにじっくり見始めた。


「こんな綺麗に映る鏡は初めて見ました。どちらで手に入れられたのですか?」


 えっ! 自分で作りましたとは言わない方がいい?


「え~と、私が商売を始めた時に仕入れる予定の工房に作らせました」


「すでに、そんな素晴らしい技術を持った仕入れ先を確保しているのですか?」


 笑って誤魔化し、みんなも見たいというので見せてあげる。


「あたしの顔ってこんなに荒れてたの……」「これはすごい」「これは王に献上すべきだ」


 ノア様がとんでもない事を言っているんですが……。王様とか、どんな無理難題を言われるかわからないし、絶対会いたくないです。


「ケイ様、こちらの鏡を予約したいのですが」


 ハンナさん、お買い上げです。って違~う。


「この街は通りすがりに立ち寄っただけですし、いつ来れるかわからないので難しいかと思いますが……う~ん、こちらの鏡でしたら、お譲りしてもいいですけど新品がいいですよね?」


「譲って頂けるのですか?」


 ハンナさんが目をキラキラさせている。そんなに欲しかったのね……。中古だから無料でいいと言ったんだけど、商人がそんな事ではいけない、相手がどうしても欲しいようだったら、限界まで出させるぐらいじゃないといけないと言われた。ハンナさん、自分の首を絞めてません? 使用人が呼ばれ耳打ちされる。戻って来た使用人の手にはお盆にのせた金貨が三枚のせられていた。


「ケイ様。無理を聞いて頂き、ありがとうございました。そちらをお納めください」


 よく見ると金貨が何か大きい気がする。


「大金貨?」


 思わず呟く。


「はい、この鏡にはそれだけの価値があります。美しく映すだけにとどまらず、後ろの意匠もすばらしくまさに芸術品です。このような一品にはこの機会を逃しては二度と巡り合えない、これを逃したら商人失格だと思い、無理を承知でお願いさせて頂きました」


 何か、凄い喋る。しかし、鏡一つ三百万円ですか……。何か申し訳なく感じる。


「これも今後、私が売り出そうとしているものなんですが、良かったら使って下さい」


「これは石鹸ですか……いい匂いのもとはこれでしたか……こんなものまで……」


 オマケであげたつもりが、結局、一個大銀貨一枚で買い取られてしまった。これが商人の正解なら、オレは商人でやっていけるのだろうか?





 






〇お金

銅貨  10円

大銅貨 100円

銀貨  1000円

大銀貨 10000円

金貨  100000円

大金貨 1000000円

白金貨 10000000円


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ