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エドとミリス

 

 ◇ある兵士の視点


 全ての処理が終わり、持てる大きさに切り分けた魔狼の肉を、馬車の屋根の部分に全てのせ終わる。


「皆さん、ありがとうございました。これ、少くないですが酒代の足しにでもして下さい」


 そう言って渡された硬貨を見て驚く。なんと、ほんの少し手伝っただけで大銀貨を貰えたのだ。助かった……次の給金までもたなさそうだったから、借金するか迷ってたんだ。他の二人もちゃんと貰えたのだろう。それをみて顔をほころばせていた。流石、聖女さまだ。うちの上の奴らにも見習ってほしいものだ。あいつらは、こき使うだけ使って文句しか言わない。そんな事を考えていると隣の二人がお礼を言っていたので、俺も慌ててお礼を言って頭を下げた。


「それでは、綺麗にしますので三人とも近くに集まって貰えますか?」


 意味も分からず俺たちが集まると、聖女さまは何やら魔法を唱える。すると、血で汚れた服や手があっという間に綺麗になった。


「これが、魔法か! 便利なもんだ」「臭いもしなくなったぞ」「…………聖女さま、ありがとうございます」 


 また、先にお礼を言われてしまって、俺も慌ててお礼を言う。


「いえいえ、こちらこそ助かりました。ありがとうございました」


 身分に関係なく気さくに話しかけてくれて、感謝の言葉までかけてくれる。まるで物語の世界の貴族のようだ。現実の貴族であれば、自分の為に働くのは当たり前だと思っており、兵士ごときにお礼を言う事はまずない。いい意味で本当に貴族か疑ってしまう。それに、この崇高な魔法の数々……。綺麗になった手のひらと、馬車を包み込む防御魔法を交互に眺め、今更ながらその事に思い至る。この領主様の客人は本当に本物の聖女さまなのかもしれないと……。




 ♦ ♦ ♦ ♦




 ◇アルク視点

 

「おお、アルクのおっさん! 戻るのが早かったな、向こうは大丈夫だったのか?」


 かまれた足の傷を治療しながら、エドが声を掛けてきた。他の二人もこちらに気付き、魔狼の処理をしながら手を挙げた。


「ああ、全員無傷で、素材も全て積み終わった」


「嘘だろ、早すぎだし、あのへっぽこ兵士が無傷? 何頭か逃げたのか?」


 エドは自分が怪我した手前、自分よりも弱いと思っている兵士が無傷だというのが許せないのだろう。エドは信じないと思うが、今見てきた事を魔狼の処理をしながら三人に聞かせた。


「馬車を包むような大きな守りの魔法と魔狼を一撃で倒す魔法? あなたが冗談を言えるわけないし……」「あんなガキが?」「…………」


「もしかしてなんだが……少し前に魔術師を王都で大々的に募集していただろう?」


「あ~あたしが、落ちたやつね……」


 ミリスの発言を、こんな時だけ聞き逃さずエドがかみつく。


「何? 初めて聞いたぞ。この前、王都に行くって休んだ時か? おまえ、受かったらこのパーティーを抜ける気だったんだろう?」


「そんな事、もう落ちたんだから、どうでもいいじゃない。それより、あんたみたいな口だけのカスに、おまえ呼ばわりされる筋合いないんだけど!」


「なんだと、このクソ女!」


「何よ、やる気?」


「二人とも止めろ。その話は俺とジョーは知っていたし何も問題ない」


「くそっ! また俺だけ知らなかったのかよ」


「その事については、護衛の仕事が終わったらみんなで話し合おう。それよりも今、重要なのはミリスの話だと、その時に募集されていたのは複数属性持ちの魔術師だったそうだ。それに合格できる人材を王国各地の領地や領主様が探しているそうだ。俺はそれがあのお嬢さまなんじゃないかと思っている。だから、もしも今、平民だったとしても必ず爵位を与えられて王国から高待遇で迎え入れられるだろう。だから、今からでも失礼がないように、言葉遣いや接し方には十分に気を付けてくれ。まあ、どこからどうみても平民ではないだろうがな……」


「あたし、大分偉そうに話しちゃった気がする」


 青ざめているミリスの横で、さらにエドが青くなっていた。


「あのお嬢さまなら、言葉遣いぐらいだったら許してくれそうだが、気を利かせたつもりの取り巻きによって理不尽に処分されたりするのが貴族社会だ。エドは向こうが話しかけない限り、お願いだから近づかないでくれ、二人もくれぐれも頼む」


「わ、わかった」「わかったわ」「了解」


 


 ♦ ♦ ♦ ♦




 全ての作業が終わり、馬車に戻るとすでに守りの魔法は消えていた。しかし、三人は何も言わなかった。馬車の屋根に荷物を積み終えたのでノア様に報告に行く。


「ノア様、お待たせ致しました。出発の準備が整いました」


「うむ、それで明日なんだがケイ様に街の案内をして欲しい。それと女性もいた方がいいだろうからミリスにも頼みたいのだが、そのつもりでいてくれ」


「ハッ! かしこまりました」


「すみません。よろしくお願いします」


 お嬢さまの言葉に笑顔で答え、馬の場所に向かう。


「ミリス、明日お嬢さまの街案内をする事になった。そのつもりでいてくれ」


 ミリスが頷くのを確認するとジョーたちの方に振り返る。すると話す前にエドが質問してくる。


「俺たちは?」


「二人はノア様たちが泊まる宿に昼前には来ておいてくれ。すぐ出発になるだろうから飯も食って来いよ」


「わかった」「了解」


 その後すぐに馬にとび乗り、二台の馬車をはさむように前方に二騎、後方に二騎で配置につく。手で御者に合図を送り、馬車が走り出す。魔物に遭遇してしまったが暗くなる前には街に着けるだろう。それに怪我人はエドだけで、よく考えたらかなりの幸運だっただろう。


 しかし、そのエドをパーティーに入れたことでミリスがやめると言いだすとは……。ミリスにはこの依頼が終わるまで結論を待って貰っている。しかし、路地裏でよく寝ていたエドを同情とはいえ、パーティーに誘った責任もある。しかし、決めなくてはいけない。エドとミリスのどっちを取るのかを……。



 


〇お金

銅貨  10円

大銅貨 100円

銀貨  1000円

大銀貨 10000円

金貨  100000円

大金貨 1000000円

白金貨 10000000円



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