ミドリンと腕輪
オークが付けていた腕輪をミドリンのサイズに作り直した所、レア度は下がってしまい一日一回の効果が一度のみの効果に変わってしまった。その腕輪をよく観察してみると、魔石にヒビが入ってしまっていた。
「ああ~! 魔石にヒビが入っちゃってる」
それを聞いたミドリンは、それほど驚かずに魔石について教えてくれた。
「ケイ様! 魔石にヒビが入ったりする事は珍しい事ではありません! 魔石の中の魔力を使い切った場合や、魔石に負荷がかかった場合にヒビが入ったり、砕けてしまいます」
「……負荷?」
「そうですね……。今回の場合は魔石のレベル以上の攻撃魔法を防いだことで、魔石が耐えられなかったと思われます。現にオークの首の部分には二ヵ所傷がありました」
二ヵ所? 最初に防がれたと思った攻撃も実は全部は防げていなかったのか……。それを悟られないようにしていたって事? やっぱり、落とし穴をよけようとしていたし、想像以上に頭がいいのかもしれない。確かに今考えたら、顔の前に斧を構えたまま近づいては来なかったのはそういう訳だったのか。オレが納得して頷いているとミドリンがさらに続けて他の理由も教えてくれた。
「他に主な理由で考えられるのは、魔石のレベルに合わない付与でしょうか……。魔石にはレベルによって、蓄える魔力の容量や付与できる魔法が大体決まっています。それを超えるような付与をしてしまっても砕けてしまいます」
「あれ? よく考えたら一日に一回魔法を無効化出来るって凄いんじゃない? その割にはレア度がそんなに高くなかったような?」
これについてもミドリンが教えてくれた。何回も使える魔導具は比較的効果が小さく、一度発動すると長いリキャスト時間がありその間は効果がないそうだ。それに永久に使えるワケではなく魔石の魔力がなくなったり、今回のように砕けてしまう事も多いそうだ。大体二、三回発動すると砕けてしまうのでレア度はそんなに高くないらしい。
鑑定を流し読みして、勝手に永久に一日一回発動すると思ってたけど、今度からはちゃんと読むようにしよう……。
「魔石の魔力が無くなったり、砕けたらどうするの?」
ヒビの入った魔石を外して修復しながら、ミドリンに聞くとゴブリンたちからどよめきが起こる。
「魔石は砕ければ修復できない…………ハズなので、魔石は交換になります……ケイ様、あなた様は一体なにを?」
「オレのはスキルだけど土魔法でも修復できないって事?」
「多分、出来ません! 普通は砕けた魔石は細かく砕いて粉にしています。しているハズです……」
ミドリンも自分の知識に自信がなくなったのか、周りのゴブリンたちに目線を送っていたがみんなも頷いている。どうやら魔石は修復できないらしい。砕けた魔石は粉にして様々な魔導具の材料などになるそうだ。ほほ~、特別にオレだけが使えるのなら商売になるのかな? でも粉としても需要があるのか……。
「現になおっちゃったし……細かいことは考えない事にしよう! 普通は魔力の補充はどうやるの?」
「付与さえされていれば魔術師に依頼しますが、魔力操作が出来れば簡単だと聞いたことがあります。しかし普通はレア度の高い魔石にしか補充はしません」
「そもそもレア度は何で決まるの?」
「魔素の器の大きさ、魔素の取り込む量から漏れ出す量を引いた値が大きいほどレア度が高いとされています」
魔石自体が大気や大地など色々な物に含有される魔素を取り込む性質があり、また微量ながら魔素を放出しているらしい。放出される魔素量は時間と共に増えるので、補充しても効果時間がどんどん短くなってしまうので、レア度の低い魔石には余り補充しないらしい。なるほど、レア度の低い魔石だと大きな穴のあいたバケツに、水を溜めようとするようなものなのか……。
「なるほど、ありがとう! ミドリン! いい事を教えて貰えたよ」
ミドリンは驚いた顔をした後、照れながら『お役に立てて光栄です』と頭を下げた。
「いい事を思いついたから、このなおした魔石でもう一度試してみるね」
そう言って腕輪をもう一度作りなおすと今度は魔石が砕けてしまった。
「この付与は強すぎたか……」
魔石をまた修復しゴブリンたちのどよめきをよそに、しばらく試行錯誤してようやく完成させる。
「ん? エピック?」
またゴブリンたちがどよめく。
「エピックって凄いの? レア度がよくわかってないんだけど」
「一生に一度出会えれば、幸運というレベルでございます」
「そうなんだ! はい!」
ミドリンに出来た腕輪を差し出すと固まって受け取らなかった。
「腕輪出来たよ! 受け取って!」
腕輪を受け取るとミドリンは一本の棒のように固まったまま、後ろにひっくり返ってしまった。
「ぎゃ~~~! 何~?」
急いでミドリンを抱きかかえ回復魔法をかけると、ミドリンは目を覚ました。
「どうしたの? 大丈夫!」
「はっ! ここは? やはり夢だったか! ん? ケイ様」
ミドリンは自分の手の中の腕輪をみるとまた気絶してしまった。周りのゴブリンと話しだと、嬉しさのあまり気絶してしまったのだろうということだった。
「え? そんな事ってあるの? コンサートで失神して倒れるファンみたいな感じ?」
オレのたとえはゴブリンの誰からも同意は得られなかった。