もしも魔法が使えたら
料理の説明は一通り終わったので、お喋りをしながら朝食を食べていた。そこで気になっていたことを聞いてみる。
「そうだ、もしも村の中で魔法が使える者が現れたり、使える素質があることが分かったらどうなりますか?」
それに神父さまが、私の考えですがと断りを入れたうえで答えてくれた。
「そうですね……。国か教会にほぼ強制的に連れていかれ、然るべき場所に配属されるでしょうな」
えっ! 強制的なんだ……。アンが神聖魔法を使えるのを、言うかどうか迷ってたんだけど……。
「ケイ様のような力や身分があれば、強制よりは契約や懐柔をしようとしてくると思われますが、村人は抗うすべがないでしょうな」
いやいや! オレも身分的なものはないんだけどね……。この村で家族と一緒に農民として一生を終えるのと、多少は待遇はよくなってこの村から出られるけど家族と離れて暮らす。どちらが幸せか? とか、このどちらかを選べとかって、あれでしょ! 理不尽な二択ってやつだ。勝手に二択にして考えがちだけど、よく考えると選択肢はもうちょっとあるし、村を出る方は確実に戦争に行かされるでしょ! もう少し踏み込んで聞いてみる。
「もしも神聖魔法の素質があった場合はどうですか?」
「…………教会で手厚く保護いたします。その後、神聖魔法を使える教会関係者に預けられ、研鑽を積み人々の助けとなることでしょう」
神父さまの感じだと絶対に教会に欲しいんだろうな。教えてくれる人がいるのは良いことだね。
「村人に素質のある者がいたのですか?」
急にシスターが聞いて来たので、咄嗟にもしもの話ですと誤魔化してしまった。話すかはもう少し保留にしておこう。その後は当たり障りのない話をして、朝食を兼ねたお喋り会はお開きとなった。
「ケイ様、残ったスープとパンを、病人やお年寄りの皆さんに分け与えたいのですが、よろしいでしょうか?」
いつも朝ごはんの余った分を配っているそうなので、シスターの申し入れを快く承諾した。
「私も手伝いますよ! 村も見て回りたいですし、それより足ります? 何か作りましょうか?」
シスターは恐縮していたが、狼の肉がいっぱいあるので持って行ってあげることにした。外で串にして焼いていると、そこに代官の息子のロイがやって来た。
「おはようございます! 魔術師さま! 今日は何なりとお申し付けください」
忘れてた……。あっ! ちょうどいいや!
「おはようございます! 今からシスターと出かけるので、荷物持ちをお願いできますか?」
「お任せください」
そう言ってシスターから、荷物をひったくった。
「もうちょっとで全部焼き上がるので、待ってて下さいね。ハイ!」
余りにも食べたそうなので、肉串を一本口に入れてあげた。
「もがもが、ふぁりがとうございまふ」
雑談していると肉串しが焼き上がったので、シスターの後について出発した。
♦ ♦ ♦ ♦
「まずはこの家です。おばあちゃん、おはようございます。調子はどうですか~?」
シスターは慣れた感じで家に入っていく。一人暮らしのおばあちゃんの家らしい。
「シスターいつもすまないね。膝と腰が痛くて今日も畑に行けそうにないよ。おや、珍しい顔ぶれだね。――まさか代官様の息子さんも嫁さんを貰う年になったのかい?」
ロイが真っ赤になって否定する。
「ばあちゃん! こちらの方は魔術師さまなんだ。俺たちとは身分が違うから結婚したくても……」
おばあちゃんは冗談に決まってるだろう! と言って笑っていた。
「おばあちゃん、その位にしてあげて下さい。こちらの方は今日の料理を作ってくれたケイ様です。失礼のないようにして下さいよ」
シスターはそう言うと、鍋を持ったロイを引き連れてスープを温め直しに行ってしまった。
「あっ! おばあちゃん! 待ってる間に膝と腰を揉んであげるよ」
「そうかい! 悪いね!」
ベッドにうつ伏せになってもらって、揉んであげながらヒールをかけてあげる。ついでに祈りも発動しておく。そこにシスターたちが戻ってくる。
「出来ましたよ。これを食べて早く治しましょうね! 他の人も待ってるから、私たちは次に行きますね」
「痛くない……このお嬢様に揉んでもらったら痛みが飛んで行ったみたいだよ」
食事をしに行こうとしたおばあちゃんが、治したことに気付いたらしい。三人とも唖然としていたが、突然、おばあちゃんが拝み始める。
「ありがたや、ありがたや」
さっきまでの若干軽い対応とうって変わって、跪いて手を握って来た。
「やめてよ! ほら、おばあちゃん立って立って! 冷める前に食べてみてよ」
テーブルに連れて行こうとすると、気のせいか背筋が伸びている気がする。効きすぎていて笑う。次の家に行こうとすると玄関の外まで出て来て見送ってくれた。
「聖女さま! 後で教会にうちの畑で採れる野菜を持っていきますのでお食べ下さい」
「いや! お礼の品とかいらないですし、そもそも! 聖女では――」「――ありがとうございます。ありがとうございます」
どうしても私の作った野菜を食べて欲しいと言われ、断りきれずに頂くことにした。後で教会に持ってきてくれるらしい。
その後はシスターの輝いた目と、ロイの何か得体の知れないものを見る目にさらされながら次の家に向かう事となった。
アンが神聖魔法を使える事について、まず伝えるべきか、伝えるなら誰にか。大人の事情に巻き込まれるのも、かわいそうだし悩ましい。