騒動後のそれぞれの夜
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「あ痛ぁ!」
宿への帰り道、突然、ジュリアが頭を抱え、地面にしゃがみ込んだ。
「ジュリア、どうしたの? 大丈夫?」
さっきも男の子とぶつかったばかりなのに今度は何事? 驚きながらもマヤちゃんとマルチナさんと一緒にしゃがみ込むジュリアの下に駆け寄る。
「だいじょぶくない……いった~い、何かが頭に……」
頭を擦りながら地面に落ちていた何かをジュリアが拾い上げ、立ち上がる。どうやら、それが頭に当たった物らしい。
「あれ? それってジュリアちゃんのお財布じゃない? 名前もほら!」
マヤちゃんが指をさした所には、確かに今日習って読めるようになったジュリアの文字が刺繍されていた。文字を習って初めて気づいたのだが、私たちの持ち物にはそれぞれ名前が入っていて、多分、お互いの持ち物が同じなので、ケイさんが間違わないように入れてくれたのだろう。
「えっ? 何でわたしの財布が? 腰につけてたはずなのに……」
マルチナさんに『中身は?』と聞かれて、ジュリアは真っ青になって急いで中身を確認していたけど、幸いなことに中の硬貨は無事だったみたい。
「誰かが拾って届けてくれたのかな? でも、投げなくてもいいのにね」
「でも誰が……?」
今更ながら投げた相手がいるという事に思い至り、みんなで周りを見渡す。しかし、暗くなってきたせいもあり、誰もが怪しく見えてしまう。
「もういいよ! 暗くなってきたし、早く宿に帰ろう」
ジュリアがそれでいいならと私たちもそれに頷き、疑問が残るものの、私たちはその場を後にした。
♦ ♦ ♦ ♦
先程、ケイが出て行った扉を眺めながら大きな溜息を漏らす。それ程、ケイから受けた報告は衝撃的なものだった。どうやらケイの雇っている情報屋の話が本当だとすれば、ラスピ男爵はとうとう越えてはいけない一線を越えてしまったようだ。今までも我が領に対する小さな嫌がらせの様なものは度々あったが、境界線付近のダンジョンの発見でそのタガが外れてしまったようだ。
しかし、現段階では疑いだけで明確な証拠はつかめていないという事だったし、暗殺未遂とはいえ王に訴状を送ったとしても相手にはされないだろう。ましてや、この件をラスピ男爵本人に追及したとしても、しらを切られるのは目に見えている。
「どうすれば……」
今後の対応に迷っているとリオスが口を開く。
「パトリシア様、ケイさまが証拠を集めるのを手伝ってくれるとおっしゃってくれましたし、明日中には旦那様も戻ってこられる予定ですので、とりあえずは警備を強化して旦那様のお帰りをお待ちするのが最善かと……」
「そうね、それじゃあ、警備についてはグレゴール団長にお願いしてきてくれるかしら」
「畏まりました。それとホルト師団長の身柄の確保も騎士団に内密にすすめてもらっておきます」
「そ、そうね! それもお願いするわ」
リオスの退室後、机の上に置かれたケイから渡されたホルトの日記に目をやり、ホルトの処遇についてふと考える。魔法によって心を操られ起こした犯罪をどう裁くべきかは、ケイも言っていたけれど、どこから操られていたかにもよるし判断が難しい所ね。まずは前例がないか調べて貰って…………まあ、それも生きて確保できればの話ではあるのだけれど……。
「それにしたって、心を操ったり人間を狼にしたり、本当に魔法は何でもありなのね……」
♦ ♦ ♦ ♦
「今日はここで終わりにしておくのです」
ニャンニャンはマジックバッグの魔法円の解析をキリが良い所で終わりにして顔をあげる。ケイさまはというと翻訳をすべて終え、先にベッドで寝息を立てていた。ふとテーブルに積まれたケイさまが翻訳した本に手を伸ばしパラパラとめくる。これだけの物をしかも自分用と依頼者用の二冊ずつをあの短時間で作ってしまうなんて、本当にデタラメなのです。
「あっ! こんな事している場合じゃないのです」
急いで本を元の場所に戻し、出掛ける準備を始める。今日もロージーの部屋に行く約束をしていたけど、早くいかないとロージーが寝てしまうかもしれないのです。急がないと……。
それから最速でロージーの部屋にたどり着き、ノックをしたものの返事はなかった。でもロージーは寝てても、勝手に入って起こしてと言っていたのです。そう思い扉を開けて中に入ると部屋は真っ暗だった。しかし、暗闇でも見通せるあたちの目にはベッドでロージーが寝ていることが分かったので、近づいてやさしく肩を揺らして声を掛ける。
「ロージー起きてなのです。あたちなのです」
「う~ん……」
ロージーが寝返りをうちこちらを向くと、あたちのぬいぐるみを抱きしめて寝ている事に気が付き、嬉しいような、ちょっと気恥しいような、今まで感じた事のない不思議な気持ちになる。
「きゃ~おばけ!」
しかし、その気持ちも目を覚ましたロージーのこの言葉で霧散する。
「ち、違うのです。あたちなのです、ニャンニャンなのです」
「えっ! ニャンニャン?」
「酷いのです! あたちはおばけじゃないのです」
「ご、ごめんね! 目が光ってたから……」
「目なんか誰でも光るのです! そもそも、なんで部屋がこんなに暗いのです?」
どうやらロージー話では蝋燭は使用人にはおいそれと買えるものではなく、それに頻繁には支給されないもののようだ。
「じゃあ、これをあげるのです」
ケイさまからジュリアたち用にもらったランタンの一つをロージーにあげる事にする。後でもう一つ作って貰えるようにお願いすれば問題ないのです。
「何これ? 箱? 暗くて何だか分からないよ~」
「待つのです。今、蝋燭に火をつけるのです」
無属性魔法の『発火』を使い、蝋燭に火をつけランタンの中に立ててあげる。
「わぁ~凄~い!」
「ケイさまが作った物だから当たり前なのです」
「う、うん。それも凄いんだけど、わたしが凄いって言ったのはニャンニャンって火の魔法も使えるんだ! って方だよ」
「……べ、べ、別にそんなに凄い事ではないのです。それにこれは火の魔法では……。あっ! これはケイさまに口止めされていたのです。とにかく誰でもできる簡単な魔法なのです」
「えっ! 誰にでも? わたしには無理でしょ?」
「……えっと、その……あっ! それは新しいメイド服なのです? とっても似合っているのです」
「あっ! ニャンニャンに見せようと思って着たままでいたんだった。今日貰えたんだけど可愛いよね? みんなも凄い喜んでた。それと小物も色々付けてくれてたんだけど、小さいけど鏡も入ってたの。銅鏡じゃなくて本当に綺麗に映る鏡! 凄いよね? みんなの話では貴族さまでも持ってないかもって言ってたよ!」
ふ~っ、上手く誤魔化せたのです。無属性魔法についてはケイさまが許可した者しか教えられないのです。
「あれ? 何かいい匂いしない?」
「それはその蝋燭なのです! ケイさまが作った花の香りのする蝋燭なのです。それも何本かおいていくのです」
「えっ! 仕事着とか色々もらっているし、この蝋燭を入れる入れ物もガラス? だよね? 高そうだし本当にいいの?」
「それはランタンというのです。ケイさまはあたちのお友達に何かあげたとしても、怒ったりしないのです」
「えっ! これランタンなんだ! わたしの知ってるランタンは金属に穴がいっぱい穴が開いてるやつだったけど、こんなガラスのやつもあるんだね。…………でもやっぱりこんな高そうなものもらえないし、盗まれたら嫌だからニャンニャンが来る時に持ってきてくれると嬉しいんだけど……」
「仲間の物を盗むのです?」
「ん~っ……みんな一緒に働いてるだけで仲間とは思っていないんじゃないかな? 確かにいい人もいるけど中には意地悪してくる人もいるし、よく部屋から物がなくなったとか聞くしね」
「でもでも、盗んだものを使っていたらすぐにバレるのです……」
「バレても偶々、同じものを買ったとか言うだろうし、でも多分、使わないでどっかに売るんだと思うよ」
……人族の話は聞けば聞くほど、仲間意識のないおそろしい種族なのです。




