インプ
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ありがとうございます。
がんばりもす。
ボロボロの服を纏った人族の子どもが仮面の四人組のもとへ向かう。当の四人は狙われているなどとはつゆ知らず、笑顔で会話に興じながら宿に向かっている。そして、次の瞬間、その子どもが突然走り出し、先頭にいた一番うるさいジュリアという娘に体当りして、娘もろとも派手に転ぶ。
「きゃっ!」「いった~! 何?」
「大丈夫? ジュリアちゃん」「ジュリアちゃん、私の手を掴んで! よいしょっ! あなたも大丈夫?」
ライカンスロープの娘が、ジュリアに手を貸して立ち上がらせた後に、その子どもにも手を貸して立ち上がらせる。どうやら誰一人としてスリには気づいていないようだ。
「ご、ごめんなさい! よ、よそ見してて」
そう謝りながらも、まんまと硬貨の入った袋はスリ取れたようだ。あの子どもの方が、余程、我が主の役に立つと思うのだが……。そして、その子どもが足早にその場を立ち去ろうとした瞬間、ジュリアがその子どもの腕を掴み逃走を阻止する。まさか気づいていたのか? 流石、我が主の庇護下にあるだけの事はある。そう思い少しは見直したのだが、それは見当外れだったようで、ジュリアがその子どもに掛けた言葉は想像とは違うものだった。
「ちょっと、待って! あんた、その顔どうしたの? もしかして、今、ぶつかった時に怪我したの?」
「……いや、これはちょっと前に……」
「…………そうなんだ……そうだ! あんた、お腹空いてる? もし良かったら、これ家族とかお友達と食べて! みんなも良いよね」
「「うん」」「もちろん」
そして、事もあろうことか、夜食用にと新たに買っていた大きな葉に包まれた肉串しをその子どもに手渡したのだった。金を取られて更に施しまでするとは何か隠れた狙いがあるのか? まさか毒を? いや、今はわざとおよがせておいて、裏の組織ごと潰すつもりか? しかし、あれでは……。
「えっ! でも……」
まったく! 思った通り、盗んだ相手も怪しんでしまっているではないか。
「いいから、いいから! 私たちもあんたと一緒で空腹の辛さは知ってるから……だから、遠慮しないで」
ん? 少しは期待していたのだが、単なる善意による施しだったようだ。やはり、善意ぐらいしか取り柄のない役立たずの集まりだったか。これが後々、我が主の足枷にならなければよいのだが……。
「…………ありがとう」
その御礼の言葉を聞き、何かをやり遂げたかのような晴れやかな顔をしたジュリアたちがその場を離れて行き、スリを働いた子どもはその背中を無言で見つめる。ふむ、今の一連の出来事であの娘たちの実力は大体わかったな。では後始末をするか、あの娘たちの物、それはすなわち我が主の物。我が主の持ち物を盗んだ罪を死によって償ってもらうとしよう。
「サモン! インプ!」
シンクの足元に複数の魔法陣が浮かび上がり、黒い肌の赤ん坊に尖った尻尾を生やした人型の生き物が地面からせり上がる。
「我が名はシンク! お前たちを召喚した者だ! インプたちよ! お前たちに命ずる! あの人族の子どもを尾行し、背後にいる者をすべて冥府へと送ってこい。そして、すべての持ち物を奪い、我の下へ届けよ」
それを聞いたインプたちは喜びの声を上げると、背中からコウモリのような翼を生やし飛び去っていった。奴らは召喚者への知覚の共有や、念話での情報伝達などの諜報活動を得意としていて、基本的には戦闘向きではないが、人族ごときには流石に後れは取らないだろう。さて、我も護衛の続きをするとしよう。
♦ ♦ ♦ ♦
「シルト兄ちゃん! おかえり~」「「おかえり~」」
「ただいま~! みんな、お利口にしてたか?」
「してたよ! あっ! お兄ちゃん、顔のあざどうしたの? 痛そう! 大丈夫?」
「あ~うん! 平気、平気! ちょっと建設の仕事でうっかりしててな! はははっ!」
「もう! お兄ちゃん! いつも、おっちょこちょいなんだから、気を付けてよね」
「そうそう」「はははっ!」
「そんな事より、今日はもの凄く有名な冒険者の人に気に入られて、肉串を貰ったからみんなで食べよう」
「冒険者さんに気に入られたの? すご~い!」「わぁ~やった~! お肉~!」「やった~」
「え~と、八本か、一人二本な! あっ! やっぱり、俺は一本でいいや! 残りの一本はみんなで仲良く分けるんだぞ」
「えっ? いいの?」
「うん! 俺は今から仕事場の偉い人と食事に行くから、一本でいいや」
「シルト兄ちゃんだけずるい」「いいな~」「じゃあ、帰りは遅いの?」
「……それなんだけど、マティ、ちょっといいか?」
肉串に夢中になっている二人の弟たちに聞かれないように、少し離れた所に妹のマティを連れていき、硬貨の入った袋を手渡す。
「えっ? どうしたの? これ?」
「街で拾った。多分だけど、俺に優しくしてくれた冒険者さんのお金だと思うから、今度、返そうと思ってるんだ。だから、いつもの所に隠しておいてくれ! でも、俺がもしも戻るのが遅かったら、少しずつそこから借りていいから、みんなに食べさせてやっていてくれ。使った分は俺があとで働いて返すから気にしなくていい」
「…………また、前みたいに何日も帰ってこられないの?」
「……も、もしもの時の話だよ! 心配すんな!」
「わかった……」
「じゃあ、行ってくる」
「あっ! お兄ちゃん、待って! 肉串し」
「あっ! そっか、忘れてた! ありがとな! じゃあ、頼んだぞ」
俺は肉串しを受け取りボロボロの廃屋から出て、兄貴たちとの待ち合わせの場所へと向かった。
♦ ♦ ♦ ♦
シルトはまた殴られる覚悟をして、いつもの路地裏へと向かう。前に失敗した時には意識が無くなるまで殴られ、何日か後に教会で目を覚ました事もあった。もしかしたら、今回は本当に殺されるかもしれない。それでも向かう理由は単純で、シルトの年齢では給金を支払って雇ってくれる人が、彼ら以外にはいないからだった。自分がやらされている事が悪い事だと自覚はしていたし、やめたいとも思っているのだが、世間を知らない彼には他の選択肢を見つけることが出来きなかった。
「おう、来たな! 上手くいったか?」
三人の男たちがシルトを囲むように群がる。
「えっと、あの……」
「てめえ、まさか失敗したん――ぎゃっ!」
「どうした、うおっ!」「がっ!」
シルトが失敗の報告しようとした瞬間、三人が叫び声を上げ喉を押さえ苦しみだす。余りの驚きに固まっていると三人は次々に倒れていく。
「ど、どうしよう、どうしよう」
シルトはしばらく、何が起きたか分からず立ち尽くしていたが、神父さまを呼びに行くことを思いつき急いで振り返る。
「痛っ!」
すると何故か突然、首筋に痛みが走ったかと思うと息ができなくなり、三人同様に喉を押さえてその場に倒れた。その意識を失う寸前に見たものは、蝙蝠のような翼に尻尾を生やしたまさしく神父さまのお話に出てきた悪魔だった。
ああ、そうか、俺は悪いことをしてきたから地獄に連れて行かれるのか……。神さま、妹たちは何も悪くありません。悪いのは俺だけなので、どうか妹たちは幸せになれるようにお守り下さ――。
そこでシルトは白い世界に包まれた。




